第18話
瓦礫の下からレオンの遺体が見つかったのは、城壁崩落から五日後のことだった。
見つかっただけでも良かったと、誰かが言った。
ルカは、見つからないで欲しかった。見つからなければ、レオンはまだ生きているに違いないと、信じることもできたから。
「ここも……もう少し強度を上げられる」
レオンの亡骸と対面した日から、ルカは寄宿舎の自室に籠っている。
「ここは、大丈夫。こっちも合格……よし、あとは……」
紙と向き合っていると独り言が多いのは以前からだが、僅かに動いているだけの唇がカサついて痛みを感じる。
「ルカ、入るぞ」
ドアの外からセルジュの声がする。しかしルカは答えない。
「また朝からずっと出てきていないそうだな。食事もとっていないだろう?」
「いらない」
廊下まで聞こえるように大きな声を出したつもりだったが、スカスカとした変な音になった。ついで貼り付いたような喉から咳が出る。
最後に水を飲んだのはいつだろうか。
ルカが部屋に閉じこもってから三日は経っている。その間トマシュが何度も世話を焼きに来たが、ルカの反応があまりに薄いので、セルジュを呼んだようだ。
「入るぞ」
もう一度断りを入れたセルジュがドアを開け、たいして広くもない部屋を横切って机に齧りついているルカの頭に手を置いた。
ルカはずっと計算をしていた。
王都のすべての城壁の設計図を集め、すべて計算し直しているのだ。第二城壁はもう終わった。何百年も前からある第一城壁も、老朽箇所を調べた。その後は聖堂や公共施設のすべてを見直そうとしている。
「やめろとは言わないから、食事をとって一度眠れ」
セルジュはなんと自ら水と食事を運んで来ていた。ふたつ並んだ机の片方に、パンとスープと水の入ったコップが乗った木の盆が置かれる。
セルジュはその中からコップを取り、ルカの目の前に差し出した。
「間に、合わなくなるから……」
「間に合う。だから、水くらい飲んでも大丈夫だろう」
ルカは数秒悩んだ後、セルジュの手からコップを受け取った。
一口飲むと、残りは一息に流し込んだ。
喉の奥を冷たい水が流れ落ちて行くのと同時に、ルカの両目からぼろぼろと大粒の涙がこぼれた。せっかく潤したはずの喉がひきつれて、ヒィッという情けない声を上げる。
セルジュは空になったコップをルカの手から取り上げて盆に戻し、ルカの頭を自分の胸に引き寄せた。
「間に合わなかった!」
熱湯を飲んだかのように喉が熱く、痛かった。
「間に合わなかった! 間に合わなかった!」
絶叫するルカをセルジュがさらに強く抱え込む。ルカは肌触りのいいセルジュの上着に頬を押し付けて、懸命にしゃくりあげる。
「分かってたのに、危ないって……分かってたのにぃ……」
ルカの嗚咽を、セルジュはずっと受け止め続けた。
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