第9話

 ルカはみんなが待つ講堂に前のめりに駆け込むと、あとから付いてきているセルジュとアルフォンスを待つことなく雄叫びを上げた。


「法案、可決!」

 同期一堂に向かって、びっしりと文字の書かれた紙の束を掲げ持ち、ルカは可決したばかりの法案の序文を読み始めた。

「王立古文書研究学院第二十期生法典。以下はシュアーディ王国内の裁判例に反しない限りにおいて、王立古文書研究学院第二十期生に適用される自主法である。王立古文書研究学院第二十期生はこの自主法に反しない限りにおいて、自由闊達に勉学に励み、シュアーディ王国の発展、啓蒙、自律防衛に貢献することを目的とする。以下、条文の通り!」


「本当に教授承認まで取れたのか」

「すごいなあ」

 同期たちの素直な関心の声に、ルカは満面の笑みだ。

「あー、楽しかった! こういうの、学院に入ったらやってみたいって思ってたんだ」


「君はやっぱりすごいヤツだね」

 トマシュはそう囁くように小さな声で言い、押さえきれない様子で口元を綻ばせる。


「殿下はどうでした?」

「ああ。なかなか面白かった」

 ルカの後に講堂に入って来たセルジュを振り返ると、空色の瞳がわずかに細められる。


 ――あ、笑った。


 わずかなセルジュの表情の変化を認めて、ほのかに心が温かくなるのを感じた。美しい容姿の持ち主だ。柔らかい表情になれば、思わず見とれるほどの美貌である。


「子猿、文官になるつもりと言ったな。法律顧問を目指しているのか?」

「猿って言わないでください。猿を知らないくせに」

 アルフォンスは相変わらずルカを猿扱いする。子猿になったのは、少しは親しみを込めたつもりなのか、まだ成長途中の体を揶揄しているのか。ルカは後者に違いないと思っている。


「まだそこまで決めていないけど、法学は面白いですね。人の役に立つ仕事ならなんでもやってみたいと思いますし、勉強は楽しいから、とりあえず全科目で一番を目指してるんですけど……具体的な進路は早めに決めて、対策は立てた方がいいし、悩ましいところです」

「ぜ、全科目だと!」

 ルカの発言に驚愕したのはアルフォンスだけではない。

 入学試験で主席だったとしても、国内最高峰と言われる王立学院で、全科目で一位になるなどと口にする者はそういなかった。


「あと、なんで帝国が滅んだのか知りたいですね。たくさんの技術があって、たくさんの人間が暮らして、とても豊かだったのに滅んだ。長いこと忘れられていたくらい、徹底的になくなってしまったのは何故なんだろう? 古文書を調べて、他のいろんな文献や説話を調べまくったら、分かるんじゃないかと思って」

 これに一番に反応したのはセルジュだった。

「そうか……夢があるな。古代帝国の謎に迫る、か」

「でしょう」


 同期皆での草案作成は、ルカやトマシュが他の学生と互いを知り合うきっかけとなった。

 発案者のルカはもちろん、積極的かつ的確な提案をしたトマシュも、御曹司たちに一目置かれる存在になったのだ。

















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