第6話

「急にいなくなるから探し回っちゃったじゃないか……ひと声かけてから行くとか、待ち合わせるとか、そういう気遣いがほしいよ」

 テーブルを挟んで向かい合ったトマシュがルカに不満をぶつける。


 食堂の隅、壁際のふたりがけの席はいつも空いている。

 ルカは席取りに困らないからという理由で、トマシュは貴族たちの輪から離れられるという理由で、すっかりふたりの定位置になっていた。


「先に食べててよかったのに」

「ひどい。この中でひとりで食事しろって言うの?」

「……俺ら、他に友達できないね」


 御曹司たちは生まれた時から家同士の付き合いがあり、同世代ともなれば大半が顔見知りだ。入学前からの友人知人がいて、入学から十日が経った今、だいたい知り合い同士で行動を共にしている。さらには新たに有力貴族と関係を築こうと、日々社交に余念がない。

 しかし一般市民のルカにとっては関係のない話。どうせ同い年の学生はひとりもいないし、勉強ができれば満足と思っている。

 誰もルカとお近付きになろうなどとせず、嫌がらせを過激な方法で撃退して以来、気まぐれで近付いてくる者もいない。


「もう、なんでそうやって殿下につっかかるの? ぼくにペンを貸してくださったんだよ。それの何が気に入らなかったのさ」

「気にいらない理由はもう本人に言った」

「言っちゃダメだよ。ご本人に、気にいらないとか、言っちゃダメだよ……お願いだからもうやめて」

 トマシュの訴えをいつも通り無視して、ルカは焼いた雉肉を頬張る。


 食事は毎食だいたい同じようなものが出てくる。手のひらサイズのよく膨らんだ丸い黒パン、スープ、焼いた鶏肉か魚。

 貴族の夜会料理にはとても及ばないだろうが、ルカにとっては毎日が謝肉祭のようだ。

 おかげで入学してから毎日元気があり余り、背も伸びたような気がする。

「ん~、雉おいしい! いくらでも食べられる」

「好きだね。雉肉」

「昨日の鳩もおいしかったな。毎日昼から肉が食えるなんて、贅沢だよな」


 学生なら寄宿舎の利用に費用はかからない。食事もお腹いっぱい食べさせてもらえる。

 トマシュのように無料だから使ってしまえと親が喜んで入れる場合もあれば、ルカのように家が遠く、かつ下宿を借りて生活できるほどの金もない人間にとっては夢のような優遇制度だ。

 勉強好きで成績優秀で本当によかった。家族の人手が一人分減ったが、ルカの生活費はほとんどかからない。将来は王都でいい仕事にも就ける。


「あんまり問題を起こして退学にでもなったら、ここでご飯食べられなくなるんだよ」

「えっ、俺、問題なんか起こしてない」

「あのねぇ、不敬罪でバッサリやられたら、退学どころの騒ぎじゃなくて、親類縁者まで処罰されたりするんだから。お願いだから、もう少しおとなしくして」

 先程アルフォンスに剣を抜かれそうになったことを思い出し、ルカは少しだけ反省した。

 あそこでセルジュが怒り出せば、もしくはルカが逃げ出さずにアルフォンスが剣を抜いていたら、本当に不敬罪で王宮に突き出されていたかもしれない。


 ルカはトマシュに反論することをやめ、皿に残った雉肉のかけらをスプーンで掬った。




 ――次からは、アルフォンスがいないとこで文句を言おう。

















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