第6話 やきもち

「へー、それで信一は美人の女性上司に『フリーになったら付き合ってあげる!』とささやかれて、後輩の美少女からは『彼女ができても諦めません』と迫られた、と」


「事実としてはそのとおりだけれどね。ま、真帆乃さん? ちょっと怒ってる?」


「べつに」


 目の前の真帆乃はぷんぷんという可愛い擬音が出そうな様子だった。

 その日の夜。真帆乃が用意してくれた夕食を食べながら、信一は今日あった出来事を話した。


 鷺沼係長に真帆乃と付き合っていることがバレそうになったのは、真帆乃にも直接関係する話だ。ついでに真帆乃は佳奈とも会っているので、佳奈にデートに誘われた一件も話した。


 隠す方が面倒なことになると思い、報告したのだけれど、真帆乃がごきげんななめになってしまっている。

 信一はじっと真帆乃を見つめる。


「なに?」


「いや、嫉妬する真帆乃も可愛いなって」


「か、可愛いって言われてもごまかされないんだからね?」


 そう言いつつ、真帆乃は顔を赤らめる。

 本当に恋愛面では真帆乃はわかりやすい。他のことだと頭脳明晰なエリートなのに。


 まあ、そのギャップが激しいところも信一は好きなのだけれど。

 ちなみに今日はカレーだ。南インド料理のミールス風でけっこう凝っている。美味しい美味しいと食べると、真帆乃の機嫌は少し良くなった。


 実際、本当に美味しいのだ。

 信一がおかわりを頼むと、真帆乃が「仕方ないわね」とふふっと笑う。


「それにしても鷺沼さんも信一のことを悪く思ってないなんてね……。恋敵になったらどうしよう……?」


「鷺沼係長のことを知っているの?」


「もちろん。有名人でしょ? みんなが憧れる警視庁の有能な女性刑事。というか個人的に会ったこともあるし。警察庁・警視庁合同の女子会企画みたいなのをやったのよね」


 女性警察官は男性に比べると少数派なので、交流があるという話は聞いたことがある。働き方改革の一環なのか、女性の働きやすい職場づくりの施策はいろいろあり、そういうなかに「女子会」的な会食もあったのだろう。


「へえ。真帆乃と鷺沼係長が並ぶと絵になりそうな……」


 タイプは違うが、優秀なキャリアウーマンで、しかも超美人。

 スーツ姿で並ぶとさぞかし華があるだろう。


 真帆乃は肩をすくめた。


「実際、採用広報に対談を載せるなんて話もあったしね。鷺沼さんとは仲良くさせてもらっているわ」


 鷺沼係長はそんなことをおくびにも出さなかった。あえて言わなかったのだろう。

 真帆乃を知っているといえば、信一に警戒されると思って、黙って真帆乃との関係に探りをいれたわけだ。


 それにしても、鷺沼係長はなぜ信一と真帆乃のことを気にかけているのだろう?

 彼女は信一に興味があるというようなことを言っていたが、本命は真帆乃の方なのではないだろうか。


 理由があるなら、知りたいところだ。不確定な要素は潰しておきたいからだ。

 真帆乃はぽんと手を打った。


「それと、梓佳奈さんだっけ? その子とのデート、行ってきたら?」


「え!?」


 もちろん信一は佳奈からの誘いは断るつもりだったし、真帆乃にもそのつもりで話した。

 まさか真帆乃の方から「行ってきたら」と提案されるとは思いもしなかった。

 

「もともと約束してたんでしょ? なんか私が信一を横取りしたみたいで、ちょっと悪い気もするし……。一度ぐらい、思い切り遊びに付き合ってあげたら?」


「でも、いいの? 一応、俺は真帆乃の彼氏だし……」


「デートしたぐらいで、信一は私からその子に心が移っちゃう?」


 真帆乃は信一の目を覗き込む。信一は考えて、微笑んだ。


「そうだね。それはなさそうだ。真帆乃以外と付き合うなんて考えられないよ」


「よろしい。じゃ、その梓佳奈さんとのお出かけ、ちゃんとエスコートしてあげなさいね」


 これが正妻の余裕、なのだろうか。

 鷺沼係長の話題のときと違って、真帆乃は佳奈にはまったく対抗心も脅威も感じていないようだった。


 これはどういうことだろう? 

 たしかに鷺沼係長は真帆乃にないものを持っている。叩き上げの女刑事であり、キャリア組の真帆乃よりも警視庁の女性警官からの人望は厚いだろう。逆に鷺沼係長からすれば、キャリア組の真帆乃ほどの出生は望めない。


 奇跡的に偉くなっても警視庁の生活安全部長、たいていの場合は警察署長止まりであり、これは真帆乃たちキャリア組にとっては簡単に乗り越えられる通過点にすぎない。


 立場の違いが、二人に対抗心を抱かせているのだかもしれない。

 だが、それにしても佳奈の件は引っかかる。


 真帆乃はくすっと笑った。


「でも、あんまり仲良さそうにしていると嫉妬しちゃうかも」

 

「さっきまでまさに嫉妬していたよね?」


「そう思うなら、ちゃんと私の機嫌を取ってよね」


 真帆乃が冗談めかして言う。彼女が望んでいることはなんだろう?

 信一は口を開く。

 

「約束していた明日のデートではお姫様のご期待に添えるように頑張るよ」


「ふふっ、楽しみにしてる」


 真帆乃は顔を輝かせ、遠足に行く子どものように明るい笑みを浮かべた。





<あとがき>

これで第二部第一章は終わり……!

しばらく真帆乃とのイチャイチャデート回、です!


続きが気になる方は青い星を入れてくださいね!!


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清楚完璧な美人のエリート警察官僚上司が、家では俺を大好きな甘デレ幼馴染だった 軽井広💞キミの理想のメイドになる!12\ @karuihiroshi

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