第3話 デートの約束と次なる問題
監察官室には首席監察官・監察官室長以下、数名の監察官がいて、階級はすべて警視以上。
真帆乃もその一人として警察官の賞罰を司るわけだ。
「賞罰」なので、もちろん高い実績を挙げた警察官を顕彰する役割もあるのだが、基本的には警察官の不祥事や服務規程違反を捜査する役職だ。
警察官を捜査する警察官。
内部では忌み嫌われ、恐れられる存在でもある。スパイのようにも思われているのだ。
「監察官ってだいたいノンキャリアばかりだったはずだけど」
「そうそう。私も驚いたのよね。次に戻れるとしたら、警察庁での事務仕事だと思ってたのだけど……」
ところが警視庁の内部での異動になったわけだ。
真帆乃は自身が誘拐されたせいで捜査一課の管理官からは外されたけれど、もともとは「女性キャリアに現場経験を積ませる」というのが上の意向だったわけだ。
だとすれば、警視庁での監察官というのも、現場を違った目で見るという意味必要なことなのかもしれない。
「でも、真帆乃はそれで大丈夫?」
信一は心配になった。
真帆乃は前回、犯人たちに拉致されたときに少なからず精神的ダメージを負っている。
その意味でもなるべく現場から遠い部署が良いと思っていたのだ。監察官は警察官の不祥事を調べる過程で、現実の事件に関わることもあるし、身内を取り調べるのだから精神的にはきつい仕事だ。
真帆乃はふふっと笑った。
「心配してくれているんだ?」
「もちろん。大事な彼女だからね」
「直球でそういうことを言われると照れちゃうな。大丈夫。私は強いんだから」
「そうだね。真帆乃は俺なんかよりずっと強いから。でも、無理をしないでほしいし、つらくなったら俺を頼ってほしい。今は俺にも真帆乃を守れるだけの力があると思うから」
八年前とは違う。今なら、真帆乃も、それに梨香子も信一の手で守ることができる。
それだけの自信を手に入れたのは、やっぱり信一が警察官になったからだ。
「ね、信一。それなら、一つお願いしたいことがあるの」
「なんでも聞くよ」
「じゃあ、頭を撫でて」
「え?」
真帆乃が顔を赤くして、信一を上目遣いに見る。
「いい子いい子って頭を撫でてほしいの。そしたら、頑張れる気がするから」
真帆乃が甘えた声でささやく。
信一はそっと真帆乃の髪に手を伸ばした。そして、その頭を撫で撫でとする。
真帆乃はえへへと笑い、子どものように信一に身をすり寄せる。
こうしていると、真帆乃が遠い世界の超エリートだとはまったく感じない。
今の真帆乃は信一の一番大事な幼馴染だった。
「そうだ。俺から真帆乃にお願いしたいこともあってさ。休日にお出かけしない?」
真帆乃がぱっと顔を輝かせる。
「デート!?」
「そうそう」
「すごく楽しみ……」
真帆乃がとても嬉しそうに笑う。
(俺なんかの誘いでこんなに喜んでくれるなら、俺も嬉しいな……)
この瞬間は平和そのものだった。
ところが、真帆乃が監察官になったことで一つの問題が持ち上がる。
それには信一の同僚、梓佳奈が関わっていた。
<あとがき>
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