第15話 幼馴染ヒロインは
信一はリビングのソファに腰掛ける。
(真帆乃と一緒に住むなら、家事の分担とかも決めないとな……)
そんなことをふと思い、信一は心のなかで自分が真帆乃と同棲することを前提にしていることに驚く。
そんなつもりはまったくなかった。今でも、ルームシェアすると明言はしていない。けれど、今日一日ですっかり外堀を埋められてしまった気がする。
いまさら同居はしない……と言えば、真帆乃は悲しむだろう。
そして、部屋に泊まり、デートに付き合い、一緒に風呂に入ることを選んだのは、信一自身だ。
真帆乃が風呂場から戻ってくる。カーディガンを脱いで、身軽な格好になっている。
白いワンピース一枚の姿は、身体のラインも露わで、信一をドキッとさせた。
真帆乃がソファへやってきて、信一の隣に座る。それから、距離を詰めてぴたっと隣へと移動した。
「ま、真帆乃……くっつきすぎじゃない?」
「同居する幼馴染なんだから、このぐらい当然でしょう?」
真帆乃が甘えるように、信一の肩に頭を寄せ、しなだれかかる。
甘い香りにどきりとする。
「普通は、幼馴染はこんなふうに身体を寄せ合ったりしないよ」
「なら、どんな関係なら、身体を寄せ合うの?」
真帆乃がからかうように言うけれど、その顔は真っ赤だった。
信一は真帆乃から離れることができないまま、視線を泳がせる。
「もっと親しい関係、かな」
「幼馴染より親しい関係なんて、この世にないわ」
「そ、そう……?」
「そうそう。私、ラブコメ漫画で幼馴染ヒロインが負けるの、嫌いなの」
「きゅ、急に何の話……?」
「信一も漫画、好きでしょう?」
「そうだけどさ。ヒロイン属性にはそんなにこだわりはないよ」
信一が言うと、真帆乃はむうっと頬を膨らませた。
「主人公を大好きな幼馴染の女の子がいたとして、そこに突然現れた美少女が主人公を奪ったら、いい気分がしないという話」
「まあ、漫画だと幼馴染は負けヒロインのことが多いからね……」
「漫画でも現実でも幼馴染が負けヒロインになるのは許せないの。それとも、信一は幼馴染ヒロインは嫌い?」
真帆乃が不安そうに瞳を揺らして、問いかける。
信一は少し考えた。そう。嫌いではない。
ただ……。
「どちらかといえば好きだけど、場合によるかな。関係性次第だよ」
「関係性……」
「一口に幼馴染ヒロインといってもいろいろじゃないかな。ずっといっしょにいた幼馴染もいれば、疎遠になったり、再会したりする幼馴染もいる。片思いのこともあるし、両思いのこともあるし」
「ふうん……」
真帆乃が寂しそうにつぶやいた。そのはかなげな表情を見て、信一は胸を締め付けられる。
疎遠になったのは、信一と真帆乃も同じだ。その責任の一端は信一にもあった。
つい信一は真帆乃に言ってしまう。
「だから、俺は幼馴染だからじゃなくて、真帆乃が真帆乃だから隣にいたいと思うんだよ」
そんな本音をうっかり口にしてしまい、しまったと思う。これではまるで……信一が真帆乃を好きと言っているようなものだ。
真帆乃は一瞬固まり、それから、かあああっと顔を真っ赤にした。
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