第16話 大人の私は恋愛対象?

「えっと、今のは深い意味はなくて……」


 信一は慌てて言い訳をしたが、「真帆乃だから隣にいたい」という言葉に深い意味はないと言っても説得力がない。


 真帆乃も顔を赤くして目を泳がせていた。


「本当に、深い意味はないの?」


「ない」


「ふうん」


 真帆乃は信一をジト目で見ると、「信一のヘタレ」なんて言う。

 そして、ふふっと笑う。


「でも、私だから隣にいたいって言ってくれて嬉しかった。他の幼馴染じゃ、私の代わりにならないってことよね?」


「もちろん。他に幼馴染なんていないけど、仮にいたとしても、真帆乃の代わりになるはずもないよ」


「他にも幼馴染はいるでしょう? 梨香子だって、信一の幼馴染じゃない?」


 歳が離れているので、幼馴染という気はしなかったが、たしかに梨香子も幼馴染かもしれない。


「でも、最後に会ったとき梨香子は小学六年生だったし、恋愛対象になるわけないよ」


 信一はまたしても失言をしたことに気づく。

 真帆乃はじっと信一を見つめていた。


「女子高生の私は恋愛対象だったってこと?」

 

 信一は口を開き、「ずっと真帆乃と付き合いたいと思っていた」と言いかけた。卒業のときに告白するつもりだったのだ、と。


 その言葉を言えば、もう戻れない。わかっていても、信一は言いたい衝動に駆られた。

 ためらっているうちに、真帆乃はくすりと笑う。


「女子高生の私なら、恋愛対象だっていうなら、今度、高校のときの制服でも着てみる?」


「まあ真帆乃なら今でも似合うと思うけど……恥ずかしくない?」


「ちょっと恥ずかしいけど、信一が望むなら平気。見てみたい?」


「見てみたいな。あの頃に戻れる気がするから」


 信一は思わず言う。真帆乃は目をそらした。


「もう昔には戻れないわ」


「わかってる」


「だから、私たちには今しかないの。ねえ、信一……」


 真帆乃が甘い声で、信一の名前を呼ぶ。そして、ただでさえくっついているのに、さらに真帆乃は信一にそっと顔を近づけた。


「大人の私は、恋愛対象じゃない?」

 

 真帆乃の唇がそんな言葉を紡ぐ。


 その赤い唇は、瑞々しく魅力的で、真帆乃が大人になったと強烈に主張していた。今、信一が強引に真帆乃の唇を奪っても、きっと真帆乃は受け入れてくれる。


 そんな気がした。

 信一は真帆乃にそっと顔を近づけ、真帆乃はぎゅっと目をつぶる。


「信一になら、私……」


 真帆乃は信一にすべてを委ねるように、その腕を信一の首に回し、抱きついた。

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