第10話 妹

「いや、あんな露出度が高い水着を『どうしても着てほしい』なんて言わないよ……」


「ふうん。見たくないんだ」


 真帆乃がすねたように言う。

 信一は肩をすくめた。


「真帆乃は着たいの?」


「そ、そういうわけじゃないけど……」


「真帆乃には、もっと清楚な感じの水着の方が似合うんじゃないかな」


「信一の中の私のイメージって、そういう感じなんだ」


「清楚で完璧な美人って感じだね」


「ふうん、そっか……」


 真帆乃が照れたように、嬉しそうに微笑む。


「具体的にはどんなの?」


 信一は周りを見回した。具体的にどんな水着かと言われると困るけれど、実物があるからその中から選べばいい。


 一つの水着が目に止まる。

 純白の水着で、セパレートタイプでフリルがついている。


「えっと、これとか?」


「へえ、信一ってそういうのが好みなんだ……」


「だ、ダメかな……?」


「いいえ、とっても素敵だと思う。もっとエッチなのを選ぶかと思ってたから、ドキドキしちゃった。もっと肌が見えているのが、男の人は好きかと思ったし……」


「男は露出度が高ければ高いほど良いと思っているわけじゃないよ」


 信一は口走ってから、「何を言っているのだろう?」と我ながら思う。

 真帆乃はくすくす笑う。


「それじゃ、試着室で着てみるね」


 真帆乃が言うと、店員に声をかけ、試着室に水着を持って入った。

 信一はその目の前で待つことにする。


 真帆乃が入った後、衣擦れの音がする。薄い布一枚を隔てた向こうで、真帆乃が着替えていると思うと、少しドキドキする。


(しかも、水着に着替えるってことは、いったん裸になるということで……)


 想像してますます信一は心臓の音が激しくなるのを感じた。

 ほぼ同時に、真帆乃がカーテンを開ける。顔だけひょいっと出して、信一をじっと見る。


「覗いちゃダメだからね?」


「男子高校生じゃないんだし、そんなことしないよ」


「高校のときなら、私のこと、覗いてたの?」


「そういう意味じゃない!?」


「冗談。信一がそんなことをしないって、わかっているもの」


 真帆乃はくすりと笑う。


「ちなみに、私、今は下着姿なんだけどね」


「やっぱり清楚だって言葉、取り消そうかな……」


「あ、ひどい」


 言いながら、真帆乃は顔を赤くしていた。照れるなら、どうしてこんな挑発みたいなことをするのだろう……?


 そのとき、真帆乃の視線が信一から外れ、店の中へと向いた。

 そして、みるみる真帆乃が顔を青ざめさせる。


「真帆乃? どうしたの? ……って、ええ!?」


 真帆乃は信一の腕をつかむと、試着室の中へと引っ張った。


「いいから、入って!」


 信一は真帆乃に抵抗できず、試着室の中に入った。

 真帆乃の言う通り、真帆乃は下着姿だった。ピンク色のレースの布地が目にまぶしい。


 しかも、かなり大胆なデザインだった。セクシーな感じで、いわゆる勝負下着……な気がする。


「あ、あまりじろじろ見ないで」


「み、見てないよ」


「信一の嘘つき」


 真帆乃が両腕で胸を隠そうとするが、大きな胸の谷間が隠しきれていない。それに狭い試着室だから、互いの体が密着している。


 真帆乃は涙目で顔を真っ赤にしていた。恥ずかしいのだろう。


「ま、真帆乃……。どうしてこんなことを?」


「外に梨香子がいるの」


 真帆乃は小さな声で、そう言った。



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