第9話 水着の選び方
そのまま浅草にとどまっていると、また佳奈にばったり会いかねない。
なので、信一は真帆乃と一緒に、会員制プールがある六本木まで電車で移動することにした。
そこで水着も買えばいい。
(六本木なんて、なかなか行く機会ないけどね……)
電車に乗るまでも、乗った後も、信一は真帆乃と手をつないでいた。
周りの視線が気になる。こんな美女を、平凡な自分が恋人のように手を引いているのだから、当然だ。
ただ、周りの視線が気になるのは、真帆乃も同じみたいだった。
「み、みんなに見られている気がする……」
「美人の真帆乃ならいつでも大注目じゃない?」
「それは……たしかにそうなんだけど……今日は視線の種類が違うというか……」
都営浅草線に乗り込み、古い車両の椅子に、真帆乃と隣合わせで座る。
真帆乃はもじもじと落ち着かなさそうにしていた。
「たぶん、わたしたち、恋人だと思われているのよね……」
「そうだろうね。手をつなぐのやめれば、そういうふうには見られないかもしれないけど……」
真帆乃は首を横に振り、ぎゅっと信一の手を握り、自分の膝の上に置いた。
信一は真帆乃の膝の感触にどきりとする。
「言ったでしょう。離しちゃ、ダメ」
「は、はい……」
信一も真帆乃もどぎまぎして、それきりうつむいてしまう。
この調子では水着を選ぶなんてしたら、どきどきしすぎて倒れてしまいそうだ。
やがて目的地のショッピングモールについた。女性用水着がある店に入る。
場所が六本木だからか、若くてきれいな女性がたくさんいる。
「お、俺がいると場違いじゃない……?」
「私がいるから平気でしょう?」
真帆乃がくすりと笑う。さすがに水着を選ぶときまで手をつないだまま、というわけにもいかないので、二人は互いから手を離した。
真帆乃が名残惜しそうに自分の手を見つめる。
「またいつでも、手はつなげるよ」
思わず信一は言ってしまう。真帆乃が目を見開く。
「い、いつでも!?」
「あ、いや、言葉の綾で……」
「私と同居してくれるんだ?」
真帆乃が上目遣いに信一を見る。信一が答えられずにいると、真帆乃はくすりと笑う。
「冗談。ゆっくり考える時間は上げるから」
「そ、そっか……」
「今は信一が可愛いと思う水着を選んでほしいな」
信一と真帆乃は、自然と店内の水着に視線を移す。
そこには様々なタイプの水着が置いてあった。
そのなかの一つを見て、信一はぎょっとする。
それはいわゆるマイクロビキニで、ごくわずかな面積しか隠さないものだった。
真帆乃も信一の視線に気づいたのか、顔を真赤にする。
「あ、あれはダメなんだから!」
「い、いや、何も言ってないよ!」
「し、信一がどうしてもって言うなら、着てもいいけど」
真帆乃は恥ずかしそうに、指先で髪をいじりながら早口で言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます