第7話 プールに行こう!

「み、水着姿!? でも、今は冬だし……」


「見たいの? 見たくないの? どっち?」


 真帆乃にじっと見つめられる。


(スタイル抜群の真帆乃の水着姿……か……)


 高校の頃も二人、いや梨香子と三人でプールに行った気がする。あのときはあまりにも真帆乃が可愛くて、目も合わせられなかった。


 そんなことを思い出す。あのときの真帆乃は少女で、まだ十分に大人ではなかった。でも、今の真帆乃はもっと美しく成長している。

 その水着姿を、信一は想像してしまう。


(つまり……見たいんだよな)


 信一は観念して「見たいです……」と答えた。

 すると、真帆乃は顔を赤くした。


「み、見たいの?」


「自分で聞いたんだよね……?」 


「そ、そうだけど……。う、うん、素直でよろしい!」


 真帆乃が胸を張って冗談めかして言うけれど、やっぱり恥ずかしそうだった。

 とはいえ、水着というと、どこに行くつもりだろう?


 もちろん、冬なので海はない。とすると、混浴可能な温泉か、屋内の温水プールということになるが……。


 真帆乃はふふっと笑った。


「行ったら、きっとびっくりすると思うの」


「想像もつかないな……」


「お父さんが登録している会員制のプールが東京にあるの」


 詳しく聞くと、それは六本木にある会員制の超高級プールだった。真帆乃に一言断って、スマホで調べると、入会金だけで300万円するらしい。


 真帆乃の家は、名古屋の大企業経営者だ。本人は今は自分で生活費を稼いでいるとはいえ、改めて、信一は真帆乃と住む世界が違う、と感じた。いわゆる「エグゼクティブ」というやつだろう。


 たしかに、誰も信一の知り合いはいないと思う。

 入会金と年会費を支払っていれば、家族や知人も追加料金なしで利用可能らしい。


 信一は一瞬ためらい、それから、真帆乃のいる世界を少し見てみたいな、と思った。昔から真帆乃の住んでいる豪邸に行く機会はあったけれど、その外の「お金持ち」の世界を知ってみたい気もする。


 それは好奇心だけではなくて、真帆乃のことを知りたいと信一が思っているからだった。

 結局、信一は真帆乃の提案に同意した。


 ただ、一つ問題がある、

 

「楽しみなんだけどさ、そういえば俺は水着、家にも持ってないな……」


 プールなんて、久しく入っていない。それこそ高校の授業以来だと思う。

 真帆乃も「あっ、そっか……」と気づいたらしい。


「それなら、一緒に買いに行くのはどう?」


「いいけど、真帆乃は水着を持っているんだよね。だとすると、真帆乃の時間を奪っちゃうのは悪いな」


「買い物の時間も含めてデート。そうでしょう? 私は信一と一緒にいられれば、それだけで嬉しいし」


 真帆乃が甘くささやき、どきりとする。完全に真帆乃に主導権を握られてしまった。


「あ、ありがとう……」


「それに、私もわざわざ家に戻るぐらいなら、新しい水着を買っちゃおうかな」


「え?」


「信一にね、私に似合いそうな水着を選んでほしいの」


 真帆乃は恥ずかしそうに目を伏せて、そんなことを言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る