第6話 ストーカーな真帆乃と水着姿

「う、浮気者って……ええっ!?」


「だって、今日は私とデートするはずだったのに。一緒に参拝も、夫婦の狛犬を見るのもランチも、私が信一とやりたかったことなのに!」


 真帆乃がすねたように、子供っぽく言う。

 

(……あれ? なんで真帆乃は俺と梓さんがしたことを知っているんだろう?)


 真帆乃が言ったのは、すべて佳奈と一緒に行った場所だ。

 信一が理由を尋ねると、真帆乃は顔を赤くした。


「そ、その……後ろから見ていたの」


「えっ」


「ご、ごめんなさい。気持ち悪いかもとは思ったけど、尾行しちゃった」


「な、なんでそんなことしたの?」


「だって、信一が年下の女の子にいかがわしいことをしないか心配で……」


「いや、たしかに年下ではあるけど、いかがわしいことはしないよ」


「あの子、いくつなの?」


 18歳だと信一が言うと、真帆乃はますます不機嫌そうになり、「私より8歳も若い」と小さくつぶやいた。


「18歳なんて、ほとんど女子高生じゃない!」


「いや、たしかについ最近までは女子高生だったんだろうけど、今は違うよ」


「信一のロリコン!」


 18歳は合法……と信一は言いかけて思いとどまった火に油を注ぐからだ。

 それにしても、真帆乃に後をつけられているとは思わなかった。真帆乃の考えがわからない。


 それなら佳奈の前から真帆乃自身はなぜ立ち去ったのだろう?

 信一がそう尋ねると、真帆乃の瞳が不安そうに揺れた。


「だって、信一に迷惑がかかっちゃいけないと思ったし」


「迷惑?」


「信一があの子のことが好きなら、私がいたら邪魔になっちゃうでしょう?」


「えっと、そういうわけじゃなくて……」


「私は一度、信一を裏切ったから。だから、わたしになにか言う権利なんてないってわかってる。あの子のこと、好きなのよね。ううん付き合っているんだ?」


「いや、それは誤解……」


「でも、来週は信一からデートに誘ったんでしょう? 彼女はいないって言ったくせに!」


「梓さんは彼女じゃないよ」


「あの子、梓っていうんだ……しかも、下の名前呼びなのね」


「あ、いや、フルネームは梓佳奈さんで、梓は名字で……」


 信一は経緯を説明した。流れでデート……一緒に休日に出かけることにはなっているけれど、少なくとも彼氏彼女というわけではない。

 信一から誘ったとはいえ、係長と佳奈に誘導された形でもあった。そのとき、真帆乃とふたたび親しくなるとも予想していなかった。


 真帆乃は説明を聞いて、「ふうん」と小さくつぶやいた。表情に変化がなくて、納得したのかはわからない。


「それに、真帆乃との関係は警察では秘密にする約束だったから。あの場では俺も何も言えなかったんだよ」


「……そうよね。秘密にするって言っちゃったもの」


「そうしないと真帆乃にも迷惑がかかるよね?」


「べつに幼馴染であるってことぐらいは、言ってもいいわ」


「でも、こないだは……」


「か、考えが変わったの! いいでしょ、そのぐらい? それとも信一は迷惑?」


「いや、俺はまったく問題ないけどね」


「良かった。……一緒に住んでいるってことは、隠しておいた方が良いかもしれないけれど。人事にどう評価されるかわからないし」


「いや、まだ一緒には住んでいないけれどね……?」


「そんなことより、『俺よりも出世が大事なの?』って言ってくれないと」


 真帆乃が冗談めかして言い、くすりと笑う。

 少し機嫌も直ったみたいだ。


「ね、今度は邪魔が入らなさそうな場所に行こう?」


「じゃ、邪魔が入らなさそうな場所……?」


「私の水着姿、信一は見たくない?」


 真帆乃はいたずらっぽく片目をつぶってみせた。

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