第10話 半分こ、しよ?
その直後、真帆乃が「あっ」と声を上げて、露店の一つを指差す。どうやらメロンパンを売っている店らしい。
有名店なのか、人だかりができている。
「ジャンボメロンパンだって! 信一ってメロンパン好きだったよね?」
「好きっていうか、高校の購買でよく買っていたけどね」
「それって好きってことじゃないの?」
「嫌いではないけど、いつも買っていたから好きってわけじゃないよ」
そう言うと、真帆乃がちょっと不機嫌そうに、頬を膨らませた。
その可愛らしい仕草に、信一はくすりとする。エリートのキャリア官僚とはとても思えない。
そんな真帆乃は信一をジト目で睨んだ。
なぜ真帆乃が不機嫌なのか、信一はなんとなく想像ができた。
フォローの言葉を思いついたが、的外れだったら恥ずかしい。
もしかすると、真帆乃は自分とメロンパンを重ねている(?)のではないか。
信一はためらいがちに口を開く。
「幼馴染はずっと一緒にいたら、好きになるかもだけどね」
「へ!?」
真帆乃がびっくりした表情で、みるみる顔を赤くする。
しまった、と信一は思う。勘違いだったかもしれない。
「あ、いや、その『好き』っていうのは友人としてだけどね」
真帆乃が「なーんだ」といった安堵の表情を浮かべる。でも、ちょっぴり残念そうな雰囲気もあった。
「信一が、わたしの考えていたことと同じことを言うからびっくりしちゃった」
「そうなの?」
「メロンパンをいつも食べていたからといって好きなわけじゃない。それが、『いつも一緒にいた幼馴染だからって、好きってわけじゃない』って風にわたしには聞こえたの」
信一の想像は当たっていたわけだ。真帆乃と同じことを考えていたと知って、少し嬉しくなる。
それにしても、かなりアクロバティックな思考の飛躍な気もする。
頭の良い人間の考えることは違う……のかもしれない。
信一は微笑んだ。
「やっぱりメロンパン、昔から好きだったかもしれない」
「そう……なんだ」
信一の言葉に、真帆乃がどんな意味を読み取ったのかはわからない。
けれど、真帆乃は頬を緩めて、柔らかい表情を浮かべていた。
信一は露店に近づき、そして、真帆乃を振り返る。
「ジャンボメロンパン、真帆乃も食べる?」
「そうね。食べてみたいかも。でも一つは大きすぎるかも」
「なら……」
「信一とわたしで半分こ。そうしない?」
真帆乃は子供っぽい、しかし可愛らしい言い方でそんな提案をした。
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