第12話 真帆乃の大胆な提案

「恥ずかしいけど、一緒に住む相手がほしくて……。だから、梨香子も東京に下宿しているから、ルームシェアをしようって話があったんだけど……」


 真帆乃は一年前から官舎を出て、このマンションで暮らしていた。もともとは、ここに東京の大学に通う梨香子と同居する予定だったらしい。


 それ自体はとても自然なことだ。

 二人暮らしの方が、なにかと安心だろう。


 ところが、急に梨香子が都合がつかなくなったと言い出したらしい。


「同棲する彼氏でもできたのかしら?」


「姉を差し置いて、梨香子ちゃんもやるね」


 冗談めかして信一が言うと、真帆乃にジト目で睨まれた。

 信一は慌てて、頬をぽりぽりとかく。


「まあ、梨香子ちゃんが楽しく生活しているのは、何よりだよ」


「そうね……」


 8年前の事件の被害者である梨香子は、すっかり立ち直っているらしい。梨香子を守れなかった信一としては、罪の意識が少しだけ軽くなる。


「それにしても、奇遇だな」


「何が?」


「実は俺もルームシェアの相手が突然、いなくなっちゃって」


 俺は簡単に事情を話した。独身寮を出て、警察官の同居人とルームシェアをする予定だったこと。そして、その相手が突然、都合がつかなくなってしまったこと。


「借りる予定の部屋は二人で借りることが前提だったから、契約できなくなった。とはいえ、独身寮はもう出ていかないといけないし」


 信一の住む独身寮は、居住者が多すぎてやや過密だ。後から入ってくる新人警察官のことを考えると、勤務して4年目の信一はもう出ていかないといけない。


 退寮すると告げてしまっているのを、いまさら取り消せない。


「それで困っていて……どうしたの、真帆乃?」


「えっ、な、なんでもない」


 真帆乃がそわそわとした様子で、信一を見つめている。

 何か言いたそうだが、言うのがためらわれるようなことなのだろうか。

 

 真帆乃がぐいと紅茶を飲んで、そして、深呼吸をする。

 何かを決心したようだが、それでも落ち着かないのか、手をもじもじとさせていた。


 信一は心配になる。


「真帆乃……? 言いたいことがあったら、言ってよ」


「えっ、その……あの……頼み事をしようかと思ったんだけど、厚かましいかなと思ったの」


「俺にできることなら、可能な範囲で協力するよ。幼馴染だし」


「……そうよね。幼馴染だものね」


 真帆乃はまっすぐに信一を見つめた。その真剣で、美しい表情にどきりとする。


「信一に私と一緒に暮らしてほしいの」




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