第6話 デートの約束
信一はどう答えようか、迷った。と、そのとき隣を刑事たちが通りがかった。「若い女のくせに……」「あんな管理官に従えるか」などとつぶやいていて、どうやら真帆乃の陰口を叩いているようだった。
「ああいうのって、良くないと思います」
佳奈が美しい眉をひそめて、小声で言う。信一も同感で、「そうだよね」と返す。
年上の男性刑事ばかりの刑事たちをまとめるのは、想像以上の苦労があるだろう。
そんなとき、係長が廊下を通りがかり、こちらを振り向いた。手招きされ、信一は係長のいる廊下へと向かう。
係長は信一の肩を叩く。にこにことした。
「今週末、梓さんをデートにでも連れて行ってあげなさい」
「え? 今週の土日も捜査で仕事ですよね……? 例の強盗事件もありますし」
「解決の目処が立ったようですよ。秋永管理官のおかげでね」
係長はさらりとそう言った。
信一は驚きに目を見開く。捜査本部が立つ事件は、解決に長期を要する難易度の高い事件だ。
連続強盗事件は以前から調べていたとはいえ、速い解決なのではないだろうか。
「なんでも新しいプロファイリングの技法で早期に犯人の絞り込みにこぎつけたとか。それに加えて、今回の事件で犯人は足がかりを残しましたから、ジ・エンドというわけです。いやあ、さすが本庁の管理官、それもキャリア組は優秀ですね。これで私も早く帰れる」
係長はご機嫌な様子で去っていった。
(すごいなあ、真帆乃)
振り向くと、いつのまにか、佳奈が背後に来て、ちょっと嬉しそうな顔をしている。
「先輩。本当にデート行きます?」
「あ、あれは係長の冗談だよ」
「昼間の埋め合わせをしてくれるんでしょう?」
「えっと、じゃあ、再来週の週末、どこか出かける?」
信一がそう言うと、佳奈は目を丸くした。
「ほ、本当にいいんですか?」
「あっ、もしかして冗談だった? なら、ごめん、やっぱり……」
「い、いえ! そうじゃないです! 先輩が誘ってくれるなんて思っていなかったらか、嬉しくて……」
佳奈は頬を赤くして、信一を上目遣いに見た。小柄な美少女に見つめられ、どきりとする。
「約束、ですよ?」
「うん……」
そして、佳奈はふと気づいたように首をかしげる。
「そういえばどうして再来週なんですか? わたしは空いているからいいですけど……」
「今週は捜査がどうなるかわからないし、来週は引っ越しの予定があってね」
「あっ、そっか。先輩。独身寮から引っ越すんですよね」
新人警察官はみな独身寮に入るが、数年も経てば出ていく人間が多い。信一ももう退寮しても良い頃合いだった。
とはいえ、都内の家賃は高いので、ルームシェアをすることになっている。相手は同業の警察官だそうだから、安心だ。
佳奈はふふっと笑う。
「先輩の家、いつかお邪魔させてくださいね?」
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