第5話 先輩の好みって……?

「せーんぱい♪ おかえりなさい! お風呂にします、ご飯にします、それとも、わ、た、し?」


「警察署を自分の家みたいに言わないでよ……」


 署に戻ると、本日二度目の佳奈の出迎えを受けた。もう19時だけど、佳奈はまだまだ元気のようだった。


「自分の家、ではなくて、わたしと先輩の愛の巣ですよ? あっ、冗談ですから無視しないで~」


「まあ、風呂はたしかにあるんだけどね」


 警察署は夜勤明けの職員用に、風呂やシャワーが完備されている。

 佳奈はくすりと笑う。


「一緒に入ります?」


「入らない、入らない」


 そんなことをしたら、不祥事だ。第一、女子用と男子用の風呂は別々になっている。

 佳奈はひとしきり信一をからかって満足したのか、信一のコートを受け取る。服掛けにかけてくれるらしい。


 佳奈は署内の男性警官にかなり人気がある。若いし可愛いし、当然といえば当然だ。そんな佳奈が、どうして自分にここまで親しく接するのか、信一は不思議に思っていた。


 佳奈は上目遣いに信一を見る。


「ところで秋永管理官はどんな人でした?」


「気になる?」


「気になりますよー。同じ女としては、東大出身のキャリア組エリート女性官僚って、ちょっと憧れちゃいますね。お金持ちの家の生まれで、しかもすごく美人ですし!」


「ああ、たしかに美人だよね」


 信一は真帆乃の姿を思い浮かべて、相槌を打った。そして、失言だと気づく。

 佳奈がジト目で信一を睨んでいる。


「先輩ってああいう人が好みなんですか?」


「え? 違う違う。客観的事実として言っただけだよ」


「本当ですかー? あんな美人と二人きりで車でいられて、嬉しかったんじゃないですか?」


「ないない。俺はただの部下だよ。秋永管理官は雲の上の人だしね」


「ふうん。まあ、別世界の人だっていうのは、わたしも思います」


 真帆乃は東大出身のエリートで、大企業の社長令嬢だ。一方で、佳奈は高校卒業後にすぐ警察官になっている。片親家庭で、母はいわゆる水商売をしていて、佳奈も苦労したのだという。


 そういう意味では、二人は正反対なのかもしれない。

 佳奈はくすりと笑う。


「でも、わたしの方がずっと若いですものね! 秋永管理官は26歳、わたしは18歳!」


「俺も26歳だから、若いとは言い切れなくなってきたな……」


「いいんですよ、先輩は。だって、わたしは年上の方が好みですし」


 面白がるように、佳奈は言う。信一は肩をすくめた。


「そろそろ勘違いしそうだから、あまりからわかないでよ」


「勘違いしてくれてもいいんですよ? 男の人って年下好きでしょう? 先輩もわたしのこと、好きになりません?」


 佳奈がきらきらと目を輝かせて言った。



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