第246話 ロボチューブ生配信です! その十一

「あ、はい、あ、はい、あ、見えますか? 皆さん、見えますか?」


 画面に青いメイド服を着て、頭に紙袋を被ったメイドロボが現れた。


『始まった!』

『久しぶりの配信www』

『メル蔵〜!』


「あ、どうも、あ、どうも。皆さん、お久しぶりです。『ご主人様チャンネル』の助手のメル蔵めるぞーです。あ、さっぱりしおしおさん、こんにちは。あ、飛んで平八郎さん、今日もよろしくお願いします。あ、造成クソメガネさん、初めまして」


『でけぇ』

『メル蔵、めちゃかわ!』

『あれ? 黒男くろおは?』


「あ、あの今日はですね。なぜご主人様がいないかというとですね。ご主人様にドッキリを仕掛けるからです!」


『ドッキリwww』

『ワロw』

『なんのドッキリw』


「ご主人様をラーメン屋に誘いまして、そこでドッキリを仕掛けます! ご主人様はロボチューブの配信だということを知りません。ラーメン屋の店主には事前に話を通していて、店にカメラを仕掛けておきました!」


『本格的だなw』

『面白そうwww』

『黒男をとっちめてくれw』


「そろそろご主人様が店にやってきます! 早速ドッキリを仕掛けていきますので、皆様お楽しみに!」


 カメラが切り替わり、店の前に佇むメイドロボを映し出した。


『始まった!』

『やべぇ、楽しみ』

『¥3000。メル蔵ー! がんばれー!』


 メル蔵がカメラに向けてVサインを出した。


『コメントは見えてるっぽいなw』

『あ、来たw』

『黒男が来たwww』


 店の前に白ティー丸メガネ黒髪おさげの女性が現れた。丸メガネの上からグラサンをかけている。


「やあ、お待たせ」

「ご主人様! お待ちしておりました!」

「珍しいね、メル蔵がラーメン屋に誘ってくれるなんてさ」

「いつも美味しいお店に連れていってもらっていますから! 今日は私のお気に入りのお店を紹介しますよ!」

「そりゃ楽しみだ」


 黒男とメル蔵は店の扉の上に掲げられた看板を眺めた。


「『濃厚とんこつロボ無双』って店なのか。初めて聞いたな」

「オープンしたばかりですので、誰も知りませんよ!」


『架空の店だからなw』

『これからドッキリにかけられるとも知らずにwww』


 二人は店に入った。

 カメラが店内へと切り替わる。二人はカウンターに並んで座ったようだ。カウンターの中にはハゲた強面のラーメンロボ店主が腕を組んで仁王立ちしていた。


『あれ? www』

『テーブル席に誰かいるwww』

マリ助まりすけとアンキモじゃんwww』

『おいw 気がつけよw』


 しかしカウンターの背後にいるため、黒男は全く気が付かないようだ。


「さてさて、この店はどんなラーメンを出してくれるのかな?」

「濃厚とんこつ系です!」

「だろうね」

「ではご主人様! 私のおすすめでよろしいですか!?」

「うん。頼むよ」


 二人は濃厚ロボ無双ラーメン海苔トッピングをオーダーした。


「大将、麺固めでお願いします」

「うちは固めはやってねぇんだ」

「あ、そうですか」


 画面にテロップが現れた。

(ドッキリポイント一。固めオーダー拒否)


『地味なドッキリw』

『普通茹でで食えw』

『気まずいw』


 黒男はテーブルの上を眺めた。各種調味料と漬物の壺が置かれている。


「ねえ」

「なんでしょうか?」

「この卓上調味料なんかおかしくない? 中身が空なんだけど」

「ああ、それは全部倒す用の……あ、なんでもありません」

「へい、お待ち」

「はやっ!?」 


 カウンターの上に二杯の丼が置かれた。


「え? 早くない!? まだ一分しか経っていないんだけど」


(ドッキリポイント二。出てくるのが異常に早い)


『早すぎるw』

『麺茹でてないだろwww』

『強制バリカタwww』


「ご主人様! それがこの店の売りですから!」

「ほえ〜」


 二人はレンゲでスープを掬い上げた。これでもかってくらいドロドロのスープには透き通った油が浮いている。


「うっひょ〜! でもラーメンは美味そうだ! いただきます! コラ〜〜〜〜〜!!!!」

「なんですか!?」

「虫が! 虫が入っている!」


(ドッキリポイント三。スープの中に虫が入っている)


「ほら! ゴキブリロボが入ってるよ!」


 黒男はスープの中から黒いなにかを引っ張り上げた。


『きたねえ!』

『ドッキリでもあかんやろwww』

『ロボならまあセーフ』


(※食用の無菌ゴキブリロボを使用しています)


「こらこらこら〜! どうしてくれるのこれ!?」

「ご主人様! 落ち着いてください!」

「すんません。これで勘弁してください」


 ハゲた店主はチャーシュー丼をカウンターの上に置いた。


「ハァハァ、チャーシュー丼をもらったからといって許されると思うなよ!!!」


 黒男はチャーシュー丼をがっついた。


『食ってるじゃねーか』

『美味そうwww』

『ちょろいwww』


「ご主人様! スープのお味の方はいかかでしょうか!?」

「うーむ。とんこつの濃厚さに加えて、鶏ガラのさっぱり感が重なり、さらにそこに魚介出汁のビターさが追い討ちをかけ、野菜出汁の安心感でトドメを刺す。つまり味が大渋滞を起こしている」


『ダメじゃんw』

『ある意味贅沢w』

『食ってみたいwww』


「ご主人様! 麺をいきましょうか!」

「ハァハァ、そうだね。ラーメンの命は麺だからね。麺良ければ全て良し。啜る〜!」


 黒男とメル蔵は勢いよく麺を啜った。


「ロボすぞ〜〜〜〜!!!!」

「ロボすぞ!?」


『なんだ!?』

『ロボすぞってなんだよwww』

『今度はなんだ!?』


 黒男は麺の隙間からなにかを引き抜いた。それは髪の毛であった。


(ドッキリポイント四。麺に髪の毛が絡まっている)


「麺の中に! 髪の毛が! 入っている! ロボすぞ〜〜!!!!」

「ご主人様! 落ち着いてください!」

「すんません! これで勘弁してください!」


 すっかりと立場を弁えたハゲ店主は黒男の丼にチャーシューを乗せた。


「誠意のチャーシュー程度で許されると思うなよ!」


 黒男はチャーシューを一枚頬張った。


「いいかよく聞けよ! うちの動画次第でこの店ロボすことだってできるんだからな!」

「すんません! どうか勘弁してください!」


『だからロボすってなんだよwww』

『悪質クレーマーw』

『こええwww』


「ご主人様! 店主さんはハゲですので、髪の毛は入らないかと思います!」

「ハァハァ、そりゃそうか。ご主人様の早とちりか」


 黒男は気を取り直して麺を啜った。


「うーむ。圧倒的存在感の極太麺ではあるが、固い……バリカタの上のハリガネのそのまた上、湯気通しだ……」

「ですね」


『一分で出てきたからなw』

『地獄かよw』

『もうめちゃくちゃだよ』


「ご主人様! 具はいかがでしょうか!?」

「具っていってもなあ。チャーシューは美味いけど、あとは海苔か」

「海苔トッピングをしましたから!」


 黒男は海苔を箸で挟むとそのまま口へ運んだ。パリパリと音を立てて海苔を味わう。


「海苔というか……味付け海苔だこれ……」

「え……」


(ドッキリポイント五。海苔が味付き)


『味付きwww』

『それはなんか嫌だな』

『ご飯に乗せて食べてw』


 黒男はプルプルと震えている。


「あの、ご主人様。プルプルしていますが大丈夫ですか?」

「あぁっぁぁぁぁあああ! あああああ!」


 黒男は急に暴れ出した。カウンターに並べられていた調味料の瓶を根こそぎ薙ぎ倒した。


「ご主人様が怒りのあまり、卓上調味料を全部倒してしまいました〜! まあ倒す用ですけれど」

「うおっ! うおっ! あぁぁぁあああ!」

「ご主人様! どこにいきますか!?」


 黒男は暴れながら厨房へと乱入した。ハゲのラーメンロボ店主と揉み合いになった。


「ご主人様! やめてください!」


 二人は揉み合いながら厨房のさらに奥へと入っていった。


『あかーん!』

『なにやってんのwww』

『メル蔵逃げろー!』


 次の瞬間、厨房が大爆発をした。轟音と共に巻き起こった煙と爆風に煽られ、メル蔵はたまらず店の外に避難をした。


「ぎゃあ! なんですか!? ご主人様ー!」


 店内から猛烈な勢いで煙が吹き出している。メル蔵は店の外から目をしばたたかせながらその様子を呆然と見つめた。


「大変です! ご主人様が中に!」


 メル蔵が再び店の中に入ろうとしたその瞬間、ラーメン屋は地響きと共に崩壊した。


「わああああああ! ご主人様ー! わあああああ! ご主人様が! ご主人様がー! ああああああ!」


『死んだwww』

『やっちまったー!』

『黒男死す!』


(ドッキリポイント六。黒男が死ぬ)


「わあああああああああ!」


 メル蔵は地面に膝から崩れ落ちた。


「私が! 私がドッキリなんて仕掛けたばっかりに! ご主人様がああああああ!」


 メル蔵は地面に突っ伏して泣いた。

 突然背後から何者かに背をつつかれた。メル蔵は涙を拭いながら後ろを振り返った。


「え? ご主人様?」


 背後にいたのは黒男だった。その後ろにはハゲた店主もいる。


「テッテレー! ドッキリでしたー!」


 黒男は手に持った札を掲げてメル蔵に見せた。その札には『ドッキリ』の文字が記されていた。


「え? これドッキリなのですか?」

「ぐふふ、店主とグルの逆ドッキリだよー!」


(ドッキリポイント七。逆ドッキリ)


 メル蔵はしばらく呆然としたあと、黒男の胸に飛び込んだ。


「わあああああ! ご主人様が木っ端微塵になったかと思いましたあああああ!」

「ふっふっふ。ご主人様は不死身だからね。こんなことでは死なないよ。ドッキリ、だ〜いせ〜いこ〜!」


 二人はしっかりと抱き合った。


『生きてたwww』

『なんなんこれwww』

『¥7000。感動した!』


「あ、紅白歌ラッセンさん、私はね、生きていますよ。あ、大晦日にすき焼きさん、命懸けの逆ドッキリ、いかがでしたでしょうか。あ、ニコラ・テス乱太郎さん、ロボチャットありがとうございます。ではね、見事逆ドッキリが成功したということでね、あの、今日の配信を終了したいとね、思いますよ」


『面白かったwww』

『メル蔵よかったなw』

『また次回〜』


 (軽快なBGM)





 瓦礫の山が動き、崩れ落ちた。その中から現れたのは、煤だらけの金髪縦ロールのお嬢様たちであった。


「ドッキリを仕掛けるために待機していたのに、出番がありませんでしたの」

「あんまりですの」

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