第65話 ナノマシンを作ろう!
「はい、みなさん授業を始めたいと思います」
「起立! 礼! 着丼! メル子先生こんにちわ!」
「はいこんにちわ。今日はナノマシンの授業をしたいと思います」
「よろしくお願いします!」
「では黒乃くん。まずナノマシンとは何か知っていますか?」
「超ちっちゃい機械です!」
「はい、その通りですね。ナノマシンのナノとはナノメートル、10のマイナス9乗メートルの事で、人間の細胞よりもっと小さいサイズなのです。目には見えません」
「その小さい機械で何をするんですか?」
「はい黒乃くん。いい質問ですね。ナノマシンは二十一世紀前半から盛んに研究が行われ、二十一世紀後半には実用化レベルまで進歩しました。主な用途の一つとして病気の治療があります。人間の体内にナノマシンを注入して治療を行います」
「すごいです!」
「他の用途としは微細な素材や回路の生成です。ナノマシンが分子レベルでの作業を行い、ナノ素材やナノ回路を生成します。またロボットの体内で体の補修をしたりしています」
「ナノマシンさんありがとう!」
「では早速ですが今日の本題である『ナノマシンを作ってみよう』のコーナーにいきたいと思います」
「ナノマシンって作れるんですか?」
「はい。ナノマシン作成キットがRobozonで3800円で売っています」
「みんなも買ってみてね!」
「さあキットの箱を開けて内容物を確認しましょう」
「開封の儀ですね。よいしょよいしょ。先生、たくさんなんだかわからないものが出てきました!」
「黒乃くん、落として無くさないように気をつけてくださいよ」
「はい! えーと、シリンダーが四本、それぞれバイオマスプラスチック、タンパク質、赤いのと黒いのです。他には瓶が一本、瓶をセットする装置、変な模様のシャーレ、スポイトが入っています」
「それらを使いナノマシンを作っていきます」
「メル子先生! このシリンダーに入っているのがナノマシンなのですか!?」
「それはナノマシンの元です。これからナノマシンを合成していきますよ」
「はい!」
「その前に黒乃くん、ナノマシンはどういう形をしていると思いますか?」
「形ですか〜? ちっちゃいてんとう虫だと思います!」
「いい発想ですね。昆虫型のナノマシンの発想は古くからあります。その他にはアメーバ型、細菌型などがあります」
「可愛いのがいいです!」
「現在主流になっているはミミズ型です」
「うげっ! 気持ち悪いです!」
「ミミズ型は『ワームチャンク』、通称『ワームちゃん』と呼ばれています」
「急に可愛くなりました!」
「ワームちゃんの良いところは、シンプルな形状なので作りやすいところ。そして移動が自由自在というところです」
「くねくねしながら進むんでしょうか?」
「くねくねというか、ブルンブルン振動しています」
「おっぱいみたいにですか!?」
「ロープの端を持って上下に振動させているのを想像してください。山と谷がたくさんできていますね? それが周波数です。その周波数を変化させる事で前後左右自由自在に移動ができます。何なら空も飛べます」
「空飛ぶワームちゃん!」
「では早速ナノマシンを作りましょう」
「わくわく」
「まずバイオマスプラスチックのシリンダーとタンパク質のシリンダーを瓶にメモリ三ずつ入れます」
「両方ともドロっとした液体ですね。ちゅーと瓶に入れました。あ! なんかもう動いてます! 二つの液体が勝手に混ざり合っていきます!」
「これは化学的な反応です。バイオマスプラスチックがタンパク質でコーティングされているのです」
「不思議〜」
「ではここでバイオマスプラスチックとタンパク質の役割について解説をしましょう」
「お願いします!」
「バイオマスプラスチックは生体分解樹脂と呼ばれるもので、植物から生成される環境にやさしいプラスチックです。これがもう極小の量子コンピュータになっています」
「量子コンピュータ!?」
「量子コンピュータには超伝導方式、光方式、イオン方式、中性原子方式、シリコン方式、ダイヤモンド方式、トポロジカル方式など様々な方式がありますが、これはバイオロジカル方式と呼ばれる最新のものです。この方式の優れたところはとにかく小さい事です」
「ナノマシンにはピッタリですね!」
「この極小プラスチックに回路が書き込まれているのです。これがナノマシンの頭脳『QPU』となります」
「次にバイオマスプラスチックを覆っているタンパク質ですが、これはナノマシンのエネルギー、運動、感知を担当します。ワームちゃんがブルブルと振動しているのもこのタンパク質の力によるものです」
「人間もタンパク質大事です!」
「さあ、バイオマスプラスチックとタンパク質の合成が終わりナノマシンの雛形が完成しました」
「メル子先生! 早く動かしたいです!」
「落ち着いてください黒乃くん。この状態ではワームちゃんは動きません」
「どうやったら動くのですか?」
「ナノマシンに命令を書き込まなくてはいけないのです」
「命令!?」
「ナノマシンが入った瓶を、付属の装置にセットしてください。コンセントも差し込むのですよ」
「はい! できました!」
「では黒乃くんのデバイスを使ってナノマシンに命令を書き込みます」
「実は既にアプリを使って行動プログラムを作っておきました! 小学生でも簡単な命令が作れるアプリでした!」
「偉いですよ黒乃くん。では送信ボタンを押して命令を装置に送信してください」
「はい、ポチッと」
「するとこの装置が瓶の中のワームちゃんに命令を書き込んでいきます。装置の出す電磁波で書き込みが行われます」
「先生、五分経って装置のランプが青くなりました!」
「これで完成です! おめでとう!」
「では、ここでこのナノマシンについてもう少し詳しい解説をします」
「お願いします!」
「このワームちゃんは極小ですので一匹一匹の性能は極端に低いのです。大昔にあったファミコンよりも低性能です」
「それじゃ何の役に立つのかわかりません!」
「一匹の性能は低くてもナノマシンはお互いを助け合って一つの仕事をするのです」
「助け合い!?」
「ナノマシン同士の並列処理によって高度なコンピュータ並みの仕事をしてくれるのです。具体的には128×128=16384個のナノマシンが縦横に並んでマトリクスを作って動きます」
「まるで軍隊ですね!」
「その通りです。一糸乱れぬ隊列で行進します」
「軍隊に入れなかったワームちゃんはどうなるのですか?」
「死にます」
「ひどい( ; ; )」
「いよいよワームちゃんを動かしてみましょう」
「楽しみです!」
「では付属のシャーレの『A』の部分にワームちゃんを垂らしてください。スポイトを使ってくださいね」
「よいしょっとできました!」
「黒いシリンダーをシャーレの『B』に、赤いシリンダーを何個かある『C』に垂らします」
「できました! おや? もう白いワームちゃんが動いています」
「赤いのは餌なのです。命令に従い赤い餌を求めてワームちゃんが動いています」
「メル子先生! 黒いのも動いています! 何ですかこれ?」
「黒いのは悪いナノマシンです。『黒乃』と名付けましょう」
「ワームちゃんがんばれ! 黒乃に負けるな!」
「お互い餌を求めて動いています。しかしシャーレの中は迷路になっているので簡単には餌に辿り着くことができません」
「先生! ワームちゃんの餌が黒乃に食べられていきます! なんて意地汚いやつだ!」
「クズですね」
「あ! 先生! ワームちゃんと黒乃が迷路で接触します!」
「お互い触れると戦いになります。負けた方は死にます」
「いけー! ワームちゃん! 黒乃を倒せー! ああ、ああ……黒乃よわっ」
「黒乃は激よわでしたね。これで勝負ありです」
「やった! ワームちゃんの勝ちだ! 黒乃のゲス野郎! 思い知ったか!」
「これでナノマシンの授業は以上となります。黒乃くんいかがでしたか?」
「とても楽しかったです! ナノマシンに愛着が湧きました!」
「現代ではナノマシンはとても身近なものです。しかし扱い方を間違うと非常に危険なものでもあります。自己増殖をするナノマシンが地球を覆いつくしてしまう『グレイ・グー』という現象も懸念されています」
「グーググー!」
「しかし慎重に安全に使えば人類の頼もしい味方になってくれるでしょう。では今日の授業はこれで終わりたいと思います」
「メル子先生、ありがとうございました!」
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