第14話 復活のパンツ回です!
黒乃はボロアパートの部屋の床に仰向けに寝転がっていた。寝ているわけではない。
今日の黒乃はハンターなのだ。
夕食後(その日の夕飯はチラキレスとバルバコアというメキシコ料理で、大変美味であったが量が多すぎた)満腹で倒れていると見せかけて、作戦を実行する機会を窺っていたのだ。
メル子は夕食の食器の水洗いをしている。以前までは赤ジャージだったので不可能だったが、メイド服に着替えた今なら実行可能な作戦なのである。
黒乃はメル子に気が付かれないように、体をクネクネさせながら寝たまま移動を始めた。メル子に向かって近づいていく。
食器がカチャカチャと鳴っているので、背中が床を擦る音は聞こえないはずである。
「もうちょい……もうちょいだ」
もうすぐメル子の足元まで到達する。作戦成功か!?
グニィ〜〜。
「イデデデデデ!!!」
メル子に顔面を思い切り踏んづけられた。
グニ、グニィ〜。
「イダダダダダ!!」
メル子は足首を回転させて、踵を黒乃の顔にねじり込んでいく。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
作戦失敗である。
先端技術で作られた形状復元ナノレンズとナノフレームの眼鏡でなかったら、粉砕していただろう。
「あら、ご主人様。そこにいらしたのですか。お気をつけあそばせ」
不運にも踏みつけられてしまったが、一度や二度の失敗で諦めるような黒乃ではない。彼女は今までメイドロボを手に入れるために何度も挫折をし、その度に立ち上がってきた。
今度は進むルートを変えてみた。メル子までの直進ルートは危険が大きい。
机の下を経由して隠れながらメル子の足元に向かうべきなのだ。
黒乃はずりずり這いずって机の下に潜り込んだ。ここまでは見つかっていないようだ。メル子は鼻歌を歌いながら食器を洗っている。
「今だ!」
黒乃はタイミングを見計らって机を飛び出し、目標へ向けて仰向けで進んだ。
グニィ〜。
「イデデデデデ!!!」
またもやメル子に顔面を踏んづけられた。
廉価版のメイドロボにはカメラが一つしか付いていないはずなのにおかしい。
グニィグニグニ〜。
「オゴゴゴゴゴ、鼻がもげる」
「あらまあ、ご主人様。そんなところで寝ないで、ちゃんと布団を敷いてくださいな」
やはり作戦失敗であった。鉄壁である。
根本的に作戦を変える必要がある。
「メル子」
「はい、なんでしょう」
「パンツ見せてください!」
黒乃は土下座した。
「パンツならそこにありますが」
メル子が作ったダンボール製の棚を指差して言った。
「ああ、うん。これはこれでもう充分見た」
「なにをしているのですか」
「メル子がはいているところが見たいんだよ」
「ご主人様、それ普通に逮捕されますよ」
黒乃は見たい見たいと駄々をこねだした。
「自分のパンツを見たらいいではないですか」
「自分の見てなにが楽しいねん」
「メイドのパンツは見たら楽しいのですか?」
「そりゃ楽しいよ!」
「どうして楽しいのです?」
「可愛い子のパンツは見たら楽しいでしょ」
「私は自分のパンツを見ても楽しくないですが」
「自分のは楽しくないよ!」
「ではルベールさんに見せてもらったらどうです?」
「いや無理でしょ。なんか……なんか殺されそう」
「私だって無理です」
「そうなの?」
「なぜ私だと見せてもらえると思ったのですか」
「いやだって、ご主人様だし」
「エロマンガの見過ぎでは?」
「エロマンガは見てるけれども」
「現実と漫画の区別をつけてください」
「わかった。メイドポイント使う。今いくつ貯まってるの?」
「5ポイントですね」
「少なっ。パンツポイントは何ポイント必要なの?」
「500ポイントです」
「前借り……」
「え?」
「パンツポイント前借りさせて!」
「パンツポイントは前借りできませんよ」
「パンツポイントに利子つけて返すから! トイチでいいから!」
「闇金ではないのですから」
「うわ〜! あああ〜!」
「急に大声を出すのはやめてください。気が狂いましたか」
「パンツー!」
こうして陰キャ女とメイドロボの夜はふけていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます