第3話 そろそろ名前を付けましょうよ?

「これでデータベースへの最低限の登録は終わりました。おめでとうございます、


 ご主人様!

 黒乃はようやくメイドロボと出会ってからの違和感に気がついた。ずっとお客様と呼ばれていたのだった。このことを認識していなかった。

 しかし今、法律的に完全にメイドロボは黒乃のものとなった! 初めてのご主人様! この世界にご主人様と呼ばれるような人間がどれ程いるであろうか。

 黒乃は成った。歩がと金に成るように、人間として一つ上の存在に成り上がったと確信をした。


「ではご主人様。そろそろ名前を決めてはいただけませんか? 私今はA2-CMS-5000という型名しかありませんので。これでは寂しいです」

「ええ、ああ。うんそうだね。名前つけようか」


 もちろん黒乃はあらかじめ名前を考えてあった。というより、メイドロボが欲しいと思ったあの日から無数の名前を考えてきた。

 シンプルに『メイ』、『メイ子』、『ロボ子』。洋風で『メイリーン』、『メリッサ』、『メリル』。『メイニャン』、『メイロット』なんてのはどうだ?

 メイドロボはニコニコしながら黒乃が名付けるのを待っている。おそらく彼女は、黒乃がなんという名前をつけようが喜んでそれを受け入れるだろう。


「じゃあロボ子……」

「ブブー」

「え!?」


 突然ビープ音がメイドロボの口から鳴り響いた。


「ご主人様、そういうのはちょっと……」

「ええ? ダメなの? なんで?」

「ロボットにも人権がありますし、そういうウケ狙いの名前は〜」

「いや、それはそれで全国のロボ子さんに失礼でしょ!」


 でも確かにロボ子はなかったと黒乃は反省した。ではなにがいいだろう。ロボ子がダメとなると、急に他の名前達が凡庸に見えてくる。可愛くて可憐でインパクトのある名前。しかし際どすぎると浮いてしまう。


「ダメだ」


 黒乃は諦めた。


「全然思い浮かばない」

「あら」

「取り敢えず名付けてみて、後から変えるってのはできないの?」

「できますよ。ただデータベースへの初回登録は無料ですが、二回目以降は審査と手数料が発生しますけど」


 黒乃は怒った。

 なんでも金金審査審査。この国の政府は金の亡者か! どんだけ国民を管理したいのか! まあ人格と人権が認められているロボットの名前をポンポン変えるのはまずい、というのはなんとなく理解はできるが。


「じゃあ、そちら側からなにか名前の提案お願いします〜」


 黒乃は頭を下げた。


「ふふふ。まあそんなにかしこまらずに。二人で考えましょう。では私がAI幼稚園の時に呼ばれていた名前はいかがでしょう?」

「AI幼稚園!? なにそれ?」


 AI幼稚園とは、すべてのAIが最初に入ることが義務付けられているネットワーク上の施設であり、ここで各AIは一定以上の人格が形成されるまで過ごすことになる。


「そこでは私『メル』と呼ばれていました」

「メル!」


 黒乃は感嘆した。シンプルで響きがよく落ち着いたメイドらしい名前ではないか。妙に凝った名前を考える必要などなかったのだ。


「いいねえ! それでいこう!」

「お気に召していただけましたか!」


 メイドロボも笑顔でご満悦のようだ。


「では命名! その名も『メル子』! 『黒ノ木メル子』!」

「え……」


 こうして黒乃とメル子のイチャイチャ百合生活が改めて始まったのだ!

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