第4話闇騎士オブ・ザ・ワイルド


「ナニコレ?」



「ヒヒィン!!!!」



黒馬の嘶きが洞窟に響き渡る。




グラナートは混乱していた。というよりこの場にいる全ての物が混乱していた。




ーーーーーーーーー




時は少し遡り、グラナートは大陸の境界線目指し歩いていた。魔法で飛ぶ事も出来るのだが、それでは魔力探知出来る者に発見されてしまう。少々面倒ではあったが徒歩での移動を選択した。




「うーむ。遠い...遠いぞ! このままでは境界線に着くまで一週間は掛かってしまう! くそぉ、愛馬を連れてくれば良かった。やつなら一人...いや一匹でも帰れるし」




グラナートは自身の選択に悪態をつきながら、平原を突き進む。辺りには一面の草原。ここはまだ魔族大陸の中心部付近。戦争の被害は少ない。だがそれでも見渡せばチラホラと倒壊した砦の残骸等が発見できる。




(こんな戦争早く終わらせねば...その為にも、あの女だけは一刻も早く始末せねば!)




決意を胸に力強く歩みを進める。


魔王の側近としての仕事は多忙を極める。癖者ばかりの四天王達のまとめ役に、戦況管理に指示。魔王様が公務に出掛ける際の護衛に世話。そして今回の様に自らが現場に赴き敵を始末する。




だがそれらに不満を持った事はない。魔王様からの信頼は厚く、今回の様に独断で動く権利や望めば休みも貰える。城の皆はこの仕事の大変さを理解し労いや中には手伝いを申し出る者さえいる。


そしてサルバトーレという多少...いや大癖がありながらも頼れる優秀な秘書がいる。




やり甲斐もある。まさに天職だ。




「さて、今日はここらでキャンプをするか...おや? あれはまさか」




夜も近づいてきた。魔物避けの結界を張りテントを取りだそうとしたその時、少し離れた場所に馬の群れを発見した。




(フフッ、これはシめたぞ。あの馬を手懐ければ一気に移動距離を稼げる!)




グラナートは急いで荷物を纏めると、馬に気づかれぬようゆっくりと歩きだした。




馬は警戒心が非常に優れている生き物だ。隠密の強化魔法を掛け慎重に慎重に近付く。




「...ほぅ。あの馬、群れのリーダーか。なかなかにどうして、美しい馬ではないか」




周りの馬とは明らかにオーラの違う一匹の黒馬。三メートルはあるであろう巨大な黒馬だ。黒馬はその漆黒の毛並みを風になびかせ悠々と草を食む。




(あと少し...あと少し...)




グラナートが迂回し黒馬の背後に着いたその時であった風を切り裂き地面を抉る後ろ蹴りがグラナートを襲った。




「ッ!!! なんという馬なのだ! 俺の影移りシャドーウォークに気がつくとは...やはりそのオーラ!! 風格ッ!! ただ者ではないな! フハハッ!!! ますます気に入った。何としても俺の馬にしてやろう!」




「ヒヒィーーーンンンッ!!!!」




夜の闇が迫る草原に黒馬の嘶きが響き渡る。


その声を聞いた群れの馬達は、一目散に逃げていく。




これは見捨てられたのではない。目の前にいる黒馬の目からは、射貫く様な強烈な殺意。全力で戦う気だ。




「ほほぅ。群れの加勢など不要。なるほど、貴様のその目、実に美しい。負けるなど微塵も思っていないな? この俺を殺さんとするその殺気。ならば、俺も戦士よ。全力で来るがよい!!! 馬の王よッッッ!!!」




「バフッ!!! バフッ!!! ブォォォ!!!!」




助走もせずトップスピードまで加速した黒馬は一気に距離を詰める。




「そんな突進。軽く避け...うおっ!?!」




グラナートはその突進を避けようと軽やかに宙を舞う。しかし、黒馬はそれがわかっていたかの様に走る勢いそのままに宙返りをし空中にいるグラナートに蹴りを見舞いした。




油断していたグラナートの脇腹に強烈な蹴りが突き刺さる。その衝撃は彼の重厚な鎧さえも貫通し吹き飛ばす。




「チィッ!!!」




なんとか空中で身体を捻り威力を受け流す。そして魔力の足場を即座に形成し蹴り飛ばし黒馬の顔面にカウンターの拳を繰り出した。




完全に殺った筈。黒馬は油断していたのだろう。カウンターの拳をもろに食らい体制を崩す。




「貰ったぞ! 黒馬の王よ!」




その隙を見逃さずグラナートが黒馬の背に飛び付く。


そして、怒涛の撫で回しが始まった!




「よ~し。よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし。お前は美しいなぁ♪よ~し! よ~し! よぉしよしよしよしよしよしよし...ホォウホォゥホウ!」




先程までとは別人の如く黒馬を撫で回すグラナート。




これはグラナート流テイム術である。




まずはわかり合う為、互いに一発ずつ心をぶつけ合い。


そして、愛のシャワーで口説き落とす。一応魔法で従わせる事も可能だがグラナートはそれを嫌った。何故なら、馬とは戦場に置いて己の半身みたいなモノ。




それを魔法で無理やり従わせる等ナンセンスの極み。




「ヒヒィン!?? バフッ!! バフォォ!!」




黒馬は困惑の雄叫びを挙げ何とか背中の異物を振り落とそうと暴れる。しかし、




「どうじゃぁ? ここか? ここがええのか? ほほぅなかなか好き者よのぉ~」




セクハラ殿様の如くデレデレと筋骨隆々の首筋を嫌らしい手付きで撫で始めるグラナート。


その姿からは絶対強者闇騎士の威厳は感じられない。ただの動物バカがそこにいた。




そしてグラナートと馬の激しい(?)攻防は朝まで続き、決着が着く。




「ヒヒィ~ン♪ ヒヒィ♪ ヒヒィーん♪」




「やっと愛が伝わり我がモノになったのだな。俺はとても嬉しいぞ。 そうだな、貴様の名はブラック...そうブラックナイトだ。その美しい馬体に馬の王に相応しいその強さ。まさに俺の新たな半身と言って過言ではない! さあ行くぞブラックナイトよ!!! 目指すは人族大陸!! ハイヨォ!!!」




馬を手に入れたグラナートは一週間掛かるであろう道のりを僅か2日で走り抜けた。そして、ゴブリンの洞窟を発見し、安全に人族大陸へと抜けれる抜け穴だと勘違いし冒頭へと戻る事になる。

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