第5話ゴブリン論破 開幕


「誰だ貴様!」



「それはこっちのセリフだ。変態め! その下品な乳をさっさとしまえ! うちのブラックナイトの教育に悪いでしょ!!!」




「ま、また変なのが増えたギャァ...」




グラナートが来たことにより、洞窟内は混沌を極めた。


がに股になり下品なポーズで凄む女騎士。そして巨大な黒馬に乗り、馬を矢鱈滅多に撫で回す鎧の男。


そして、二匹のゴブリン。



「む? 貴様。その声、その鎧...まさか! グラナートか!!! ええい! ここで会ったが百年目! 我が雪辱晴らしてくれるッ!!」



女騎士ーローレッタは折れた剣を拾い飛びかかる。


しかし、その剣はあっさりと躱され勢いそのままに壁へと激突する。




「ふぎゃぁ! うぅ痛い...痛いよぉ...なんでわだぢがこんな目に...」




「ヒィン。ブルル~♪」




「おぉ♪ ブラックライダー見事な身のこなし! やっぱお前は凄いやつだな~。よぉしよしよし♪」




「あ、あのダキャ。ここ、ギャアの家なんだけどギャ...」




夫ゴブリンは、完全に困惑し何とかこの状況を少しでも良くしようと声を掛ける。




ローレッタは子供のように泣きわめき転げ回る。




残された三人と一匹はその様子をドン引きし距離を取った。




なんとみっともない!!!




ーーーーーーーーーーー




「うぅむ。ここは安全な抜け道ではなかったのか。うむ、すまなかったな。ゴブリンよ」




ゴブリンは首を傾げる。魔物、特に下級生物と位置付けされるゴブリンである自分達にこの男は頭を下げ詫びた。


ゴブリン目から見ても立派な鎧を身に着けたその男は、上位階級の人物だろうと容易く見て取れた。




「ギャ? 旦那、ゴブリンに謝るなんて可笑しなやつだギャ...でも旦那のお陰であの狂った女に襲われずに済んだギャ」




「見くびるなよゴブリン。俺の名は、魔王軍闇騎士グラナート!!! そんじゃそこらの有象無象ではない! なんなら我が軍には俺が直々にスカウトした魔物達もいるしな。喋るゴブリンだろうが、空飛ぶ豚だろうが何ら珍しくはない!」




剣を掲げ名乗りを挙げる。


グラナートが喋ったように魔王軍には魔物達も少数ではあるが所属している。皆、各地で暴れ回った悪名高き魔物ではあるが、剣を交えスカウトし配下に加えた頼れる兵士だ。




「やっぱ変なやつだギャ...でも旦那、悪いやつじゃないギャ」




「ギャギャ! 折角ですギャ、私達の洞窟で一晩お過ごしになられるといいギャ。何も出せないけど、雨風は凌げるギャ」




「うむ! 貴様らも悪いゴブリンでは無さそうだ。貴様らの心意気ありがたく頂戴しよう!」




ゴブリンとグラナートの間に温かな絆が出来る。


しかし、あの女がそれを許さなかった!!




「ちょっと待てぃ! 私を除け者にして良い感じの雰囲気になるでない! 貴様は忘れても私は忘れぬぞ。あの戦いで私は貴様に敗れ、折角親のコネで王国騎士になれたのに、今では危険な国境警備員!! 許さぬ...許してなるものか!」




「いやだから知らんて。それに魔王軍には魔物はいるが除け者はいない愛のある国だ。


貴様の国は寂しいな。ていうか、親のコネに頼るようだから、職を外されるのだ。恥を知れ! 恥を!

我の部下ならば即刻左遷だ!」



「うぅ! うぅ!! だってだって! 私の軍の方が多かったのにぃ! 貴様が横から卑怯にも攻めてきてぇ!!!」



ローレッタは地団駄を踏み、幼児退行したように泣きじゃくる。その姿に再びドン引きしながら、記憶を辿る。



「あ、あ~。もしかして春の平原での戦いか? そうそう、お前ら真っ直ぐにしか攻めてこないから横にちょっかい掛けてやったら、バラバラに散らばってな。作戦か? と思って警戒したが、逃げるだけだったから各個撃破したんだ。その時、お前その戦場に居たのか。すまんな、見た事すら覚えてないわ」




「うぅ!! すまんなんて言うなら! わだぢにやられろよぉ!!!」




「こいつ...手遅れだギャ」


「ワッツ…クレイジーだギャ」


「そのようだな」



約2ヶ月程前だろうか、人間軍が魔王軍領地に攻めてきた。その数は約30万。


だが、数は多くとも戦術も何も無くただただ真っ直ぐ攻めてくるだけ。


両脇から攻めると人間軍は蜘蛛の子を散らすように散り散りに散らばり、包囲する形で撃破された。




その時、やたら立派な戦車が我先にと逃げていたが、その戦車の紋章とローレッタの折れた直剣に刻まれた紋章が一致する。


ローレッタは指揮官にも関わらず、我先にと逃げた責任を問われ、王国騎士の座を剥奪された。




元々は国の政治家であった父親が、娘をなんとか王子に近づけ繋がりを得ようとしてコネを使ったが、結果は散々、王子に近づく所か多くの兵士を見捨て、敗走し責任を問われた。結果、父親がなんとか裏金を回す事で、処刑は免れたものの。娘は過酷な国境警備。父親は政治家を辞任。




ローレッタは父親から見放され、そのストレスからか、王都で流行りの浮き世春画絵師の描いた漫画ー【ゴブリンデストロイヤー】を見て、自らもゴブリンに滅茶苦茶にして貰おうと自暴自棄になり、今に至る。




「しかし、災難であったな。入り口にあったゴブリンの死体。貴様の仲間であろう? こやつに殺られたのか?」




「ギャァ...そうダキャ。兄さん達ダギャ」




「待て...卑劣なゴブリンよ」




じたばたと駄々をこねるローレッタがムクリと起き上がる。その顔は狂気にひん曲がり、ケタケタと気味の悪い嗤い声をあげている。




「貴様ら・・・が、先に襲いかかってきたのだろう...?」




「なにを言っているギャ...お前が一方的に...」




「イイヤ!!! 違うね! 私はこいつの仲間に襲われただから剣を抜いた。正当防衛だ! 正当防衛! よってそれ相応の慰謝料を請求する」




ローレッタの狂った凄みに夫ゴブリンはたじろぐ。


完全に頭のネジが抜けきってしまったのだろうか、金など持っていないゴブリンに金銭を要求し迫る。




「だ、旦那ァ...」




「おい。ローレッタとかいうアパズレ女よ。貴様、狂ったか? 死体を見たがモヒカンの死体は背中に傷があったぞ。


どう見ても不意打ちだ」




「それは違うよッッ!!!!」




ーダンッ!!




ローレッタが強く地面を踏み鳴らす。人差し指を突き付け、妄言を主張する。その鬼気迫る冷や汗だらだらの顔に一同萎縮する。




「モヒカンのゴブリンは私を見つけた時、ち○こを出していた。それはもう卑猥なやつだ。しかもやつは私を見た瞬間笑ったのだ! あぁ今でも身震いがする」




「きっとそれは、ションベンしてただけダギャ...出し切って気持ち良くなれば笑顔にもなるギャ」




グラナートとブラックライダーはうんうんと頷いてみせる。


立ちションとなれば解放感もあるだろう、少年時代の若げ至りで友達と崖から立ちションをしどっちが遠くへと飛ばせるかと競った事を思い出していた。


(いやー懐かしいなぁ。あの後近所の警察に見つかって追いかけ回されたんだよなぁ)


自身の糞餓鬼時代に想いを馳せるグラナート。そういえばあいつは元気だろうか…そんな事を考えていると、未だ騒ぎ続けるローレッタは折れた剣先を喧しく壁に打ち付ける。



「いいや違うね! 裁判!! 裁判だ!!! 誰か弁護士を呼んでこぉい!!」




「こやつ...ヤバい薬でもやっているのか? 目が血走ってるぞ」




ローレッタは咆哮する。


狂った様に見せているが、ローレッタの内心はブレーキの効かない電車の車掌のように焦り、なんとか狂い切る事でこの状況を脱しようと、パニックを起こしていた。




目の前には、敵国の将軍と家族を殺され恨みを持つゴブリン。しかも相手には馬までいるのだ。逃げ切れる筈がない。


ならば狂うだけ狂い。哀れみを誘い見逃して貰う。それしかない。最悪数発殴られる覚悟は出来ている。いや殴られるだけですむなら安いものだ。




「裁判か...良いだろう。これも何かの縁。ゴブリンよ! 俺が貴様らの弁護士となり見事勝利を納めてみせよう」




「旦那! ありがとうだギャ」




「ヒヒィーン!!」




「え? なに? ブラックライダーが裁判官をするって...しゅごいでちゅね~流石俺の愛馬♪ よしよし」




「ケーヒャヒャッ!!! 役者は揃ったわね! それじゃ始めるわよ! 逆転も許さぬ私の勝利裁判をね!」




「ふん。負けるのは貴様だ。こっちには証拠がある。この有能弁護士グラナートに敗れ去るがよい!」




かくして不可思議な裁判が始まった。


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