第3話ゴブリンデストロイヤー



今まさに現在あるところに。具体的には魔族大陸と人族大陸の境界線近くに彼らは住んでいました。




「ぐぎゃぁ!! ギャギャギャ! 今回も良い出来だぎゃ~♪」




一匹目は緑色の肌に醜い顔をした大きめのゴブリン。魔族でも人でもない、両者に害を及ぼす魔物と呼ばれる存在。




「キャギャ!! 流石兄さん。兄さんの作る洞窟は最強だギャ! これならどんな冒険者が来ても撃退出来るギャ!」




二匹目はモヒカン頭の一匹目より少し小さなゴブリン。兄ゴブリンが掘った洞窟を羨望の眼差しで見詰め。気味の悪い笑い声を上げている。




「ギャァァ...兄ちゃん申し訳ないギャ。おいら達夫婦の為に一から洞窟を作ってくれるなんてギャ」




三匹目は少し痩せたゴブリン。彼の後ろには腹を大きく膨らませたメスのゴブリンが付き添い、互いに顔を見合せ微笑み合っている。




「ギャ~ありがとうですギャ、義兄さん。これで私も安心して出産育児出来ますギャ」




「へへっ良いって事ギャ。折角の弟夫婦のおめでただギャ。洞窟職人として兄として、お前らに何かしてやりたかったんだギャ」




「ギャ~!!!! 流石だギャ! 兄さん漢気溢れ過ぎて俺のモヒカンも逆立ちまくってるギャァァア!!!」




ギャギャギャと気色悪いながらも朗らかな雰囲気が、ゴブリン達を包み込む。


彼らは願った、どうかこの幸せが長く続きます様に、これから産まれてくる子供達も自分達兄弟の様に仲の良い子らに育ちますようにと。




しかし、幸せは突然崩れる物である。


血の臭いと共に、この日この一家は絶望する...




その晩、折角だからと新居で獲物を皆で食らい眠りに着こうとした時であった。




「ギャ!!! ギャァァァ!!!!」




静かな夜を切り裂く悲鳴。その声に洞窟で寝ていたゴブリン達が一斉に飛び起きた。




「ギャ!? あの声は次男!?? な、何が起きたんだギャ!?」




「フギャァ! おいらちょっと見てくるギャ!」




「待つギャ。敵かもしれないギャ。ここは俺に任せるギャ。お前はここで嫁さんをしっかり守るんだギャ」




「兄ちゃん...」




兄ゴブリンはつるはしを片手に声がした洞窟入り口へと向かうそこには、




「む? まだ居たか! 薄汚いゴブリンよ!! この私! 王国騎士ローレッタが成敗してくれるッ!!!」




「な、なんだギャ。貴様! 夜に突然に...ん? お、弟?」




自信満々に名乗りを上げる矢鱈に露出が多い装備の女騎士。そして彼女の足元には切り裂かれたゴブリンの死体が一体転がっていた。


あの赤毛のモヒカン頭間違いない、先程まで共に飯を食べ笑い合った弟ゴブリンだ。




「あぁ...あぁ...! な、なんて事をしてくれたんだギャ...このゴブ殺しがぁぁぁ!!!」




一気に頭に血が登った兄ゴブリンはつるはしをぶんまわし突撃する。


しかし、ローレッタはそれをスルリと躱し鋭い剣先で兄ゴブリンを切り裂いた。




「ぎ、ャ...!!?? ど、どうしてだ、ギャ...俺達何も悪いことしてないギャ...人間達に自分達から襲ったことも...な、い...グギャァァ!!」




「フンッ! 正義は我にあり!! そこで死ぬがよい!」




ローレッタは兄ゴブリンに止めを刺し意気揚々と洞窟奥へと歩みを進める。


そして、夫婦の元へとたどり着いた。




夫ゴブリンは先程の悲鳴で全てを察したのだろう。涙を流し歯を食い縛り、嫁ゴブリンを守る為立ち塞がる。




「よ、よくも兄さん達を、ギャ!!! 許さないギャ! 麻痺毒霧パラライズミスト!!! 」




「グッ!? なんだこれは!? か、身体が痺れ...」




麻痺毒霧。対象を麻痺させる霧を放つ魔術。夫ゴブリンはゴブリンメイジであった。その賢さから、彼は人と争う事の無情さを感じ愛する者を守り平和に暮らすというゴブリンにしてとても珍しい生き方を選んだ。また彼の考えに賛同し、仲間の為に洞窟を掘り安息の場所を与える兄。それを助ける少しやんちゃだが真面目な次男。そして彼の考えを理解し共に歩んでくれる事を約束してくれた妻。




争いはしない筈だった。しかし、今愛するゴブリン達が二匹も殺された。だがそれでも、夫ゴブリンは怒りに支配された思考を抑え彼女を殺さず麻痺させた。




「くっ!! 殺せ!! 辱しめなら受けんぞ!!」




「本当はお前を殺してやりたいギャ...でもそしたらお前と同じだギャ。今お前を殺せば赤子を抱く手を汚す事になるギャ。ほら、麻痺を解いてやるギャ。さっさと行くギャ。おいらの気が変わらないうちに」




夫ゴブリンはローレッタの剣を破壊し他に武器が無いか確めると、魔法を解いた。




これでよかった。これで良かったんだ。と何度も自分に言い聞かせる。


しかし、ローレッタが行った行為は、彼の決意を踏みにじる物であった。




「んほぉ~♡ 申し訳なございませんでした♡ ゴブリンさまぁ~♡ どうかこの雌ブタの身体をなぶり蹂躙してください♡」




「...は?」




夫ゴブリンは目を疑った。


なんと女騎士はそのやたらに露出が多い鎧をはだけ何とも不気味に腰をヘコヘコさせダンスしながら両手でピースをし此方に迫ってきたのだ。


「ホォワィ!? ホォワィ!? 変態女騎士ピーポー!??? ギャ!?」


気味が悪い!!! 夫婦は身を寄せ合いガタガタと震える。

妻に至ってはパニックになったのか半狂乱で叫びまくる。



「あへぇ♡ あへぇ♡ でへへ♡」




にじりにじりと責め寄るローレッタ。夫ゴブリンはそこまで魔力量が多いわけではない。この混乱した状態では再度、麻痺毒霧を撃つことなど不可能だ。


まさに一転攻勢絶体絶命。




そこへ...




「ハイヨォ!! ブラックライダー!!! このなんとも意味ありげな洞窟は安全に人族大陸に続いている抜け穴に違いない。突き進め!! ぬわっ!? 人だと...ん? ナニコレ?」




巨大な黒馬に乗ったグラナートが現れ、何とも言えない空気が辺りに漂う事になる。

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