第2話 秘書サルバトーレのポップコーンはいかが?
パンパン。 とポップコーンの種が破裂する小気味良い音が書斎に響く。
「なるほどなるほど...留守の件承知致しました。四天王の皆様にも伝えておきます。さて、確かこの辺に~」
暫くこの城を留守にし人間の大陸に偵察に行く為、仕事をその間頼むということを伝えるとサルバトーレはあっさりと承諾してくれた。
普段なら少し留守にするだけでも、チャチャをいれめんどくさくしたがる彼女だが今回はすんなりと話が進み助かった。
「申し訳ないなサルバトーレよ。して、だ。お前、さっきから俺の本棚を漁っているのだ? それにおい、ポップコーンが溢れ始めたぞ。部屋が臭いさっさと片付けよ」
明らか一人分の量ではない種を投入したせいかフライパンからはポップコーンが溢れ、底部は焦げているのだろう。書斎に香ばしさと焦げ臭さが混じり合ったカオスが広がる。
「おやぁ???? 仕事を私一人に巻かせといてそんな事言ってもいいんですかぁ??? 折角、グラナート様が泣きむせぶ程喜ぶであろう贈り物を用意したといいますのに。あっ、見つけました。いやーこの本棚にあったと思ってたんですよね。カレー粉」
彼女は物色する手をそのままに首だけグルリと此方に向け意地悪く嗤い、本棚の置くからカレー粉を取り出す。
おい、お前は俺の本棚に何をしてくれてるんだ。最近なんかそこの本棚の前を通る度に少年時代の夕暮れ時を思い出したのはそいつのせいだったのか。
「はぁ...お前はそんな事言ってもしっかり仕事だけはやってくれるから俺も強く言えん。後な、俺の本棚に食品を隠すのはやめてくれ。大切な本がカレー臭くなるだろうに」
「まあ大胆な告白ですこと。ですが大胆な告白は闇騎士の特権みたいな所ありますし。いいでしょう。んっ、モグモグ、うんスパイシーでございます」
「そんな特権あるわけねぇだろっ!!」
「いやーん。グラナート様が怒ったぁ。サルバトーレ、ぴえんぴえんですぅ~。モグモグ...」
サルバトーレは俺がやつれきった顔を見ると、飯が旨いと言わんばかりに山盛りポップコーンをあっという間に平らげてしまった。
歯に殻が詰まったのか無表情で悪びれも無く爪楊枝で歯の掃除をし始めるサルバトーレ。
こいつは確かに美人だ。街を歩けば皆が振り返る程。だが、知り合いは皆避ける。少しでも隙を見せればここぞとばかりに奇人ぷっりを披露してくるからだ。特に昔からの付き合いである俺には無遠慮にやってくるのでタチが悪い。
そしてスーツの胸ポケットから拳サイズ箱を取り出し目の前に差し出した。明らか胸ポケットに入るには大き過ぎるが、もう考えるだけ無駄だろう。
「ん? なんだこれは、コンパス? これが先程言っていた贈り物か。ありがたいが俺はこんなもの無くても道には迷わん」
「おや、私のポケットの許容量についてはツッコンで下さらないのですね。しかし、ツッコむ...なんだか卑猥でございますね」
「中学生か! お前は!」
「100点満点でございます」
拍手をしながらクラッカーを鳴らすサルバトーレ。クラッカーから飛び出したカラフルな紙くずが書斎を舞う。
ため息一つつき、サルバトーレから貰ったコンパスを手に取る。一見普通のコンパスだが傾けたり動かしても針が動かない。
「これ、壊れてないか? 針が動かぬぞ」
「ふふふ♪ それはね、ぐら太くん」
「誰がぐら太じゃ! 俺は眼鏡でも無いし1秒で入眠もできんわっ!」
「テッテレー。探索方位磁石たんさくしゃ~♪」
「は? 探索方位磁石? ただのコンパスではないのか?」
真顔でどこぞのタヌキ型ゴーレムの真似をするサルバトーレ。
俺はもう一度コンパスにを手に取った。
「鑑定」
「おや、こういうモノには付き物なありふれた魔法でございますね」
「ん?」
「申し訳ございません。お気になさらず。どうでしょうか? なかなかの物でございましょう? 今からでも私を褒め讃え嫁いでくれてもよろしいのですよ?」
「誰がお前の婿になるか! しかし、それはさておきこれはなかなかに、眉唾物ではないか...」
探索方位磁石。これは魔導具だ、所有者が魔力を送ると、所有者が現在最も欲するモノへと導いてくれる。そんじゃそこらにあるような代物ではない。高度な技術者が作ったのであろう代物だ。売りに出せば金貨10枚は下らないだろう。
「サルバトーレよ。こんな物何処で手に入れたのだ? 素晴らしい! 渡りに船とはこの事よ! 感謝するぞ」
「グラナート様が喜んで下さったようで何よりでございます。ちなみにそれは私が昔夏休みの工作で作った思いでの品でございますので、どうか私だと思って大切にお使い下さいませ...あっ、そういえばグラナート様はそれで女を探すのでしたね。なんということでしょうか。しかししかしでございます。最後に私の隣にいればそれで良いッッ!!! と私の祖母も浮気する祖父に言ってましたし、ここは寛容になるとしましょう」
「お前の祖母は世紀末覇王か何かなのか...しかしお前の突然くる有能さは本当に助かる。よし、それでは俺は任務開始といかせて貰おう。...何かあれば頼んだぞ」
今から敵領土へと侵入するのだ。もし何かあれば俺は殺されてしまうかもしれない。緩んだ気持ちを引き締め書斎を後にする。
「お帰りをお待ちしております」
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