追放なんてさせないからな!〜魔王軍闇騎士奮闘記〜
あくた
第1話 いきなり破滅!? 時をかける闇騎士
何が起こったんだ?
閃光一閃。目にも止まらぬ斬撃が王を斬り伏せる。
「ぐっ...! ガハッ...はぁはぁ...」
目の前で起こったことをそのまま話そう。
俺が仕える魔王様が今、少女一人に一瞬で追い詰められ瀕死寸前になったのだ。勿論、迎え撃とうとしたが、瞬く間もなく魔王様はやられかけている。
「お、お前は何者だ!!? なんなんだ! その力はッッ!!!」
少女は動かない。だがその顔は自信と哀愁が入り交じり...とても気分が良さそうだ。
「ふふっ、私を捨てたやつら。驚くだろうな~私の事を無能だって捨てたやつら。...くふっ。くふふふっ」
目の前の女が気味悪く嗤い声を上げる。
「捨てた? 無能? なんの事だ! お前みたいなチートみたいな力を持つやつが捨てられる訳ないだろっ!! いい加減にしろッッ!! 被害妄想メンヘラ女かテメェ! しかも俺の名乗りを無視して魔王様をいきなりぶん殴りやがって! お前の常識どうなってんだ! まずは腹心である俺をやってからだろ! この非常識女ッッ!!!」
俺の名前はグラナート。魔王軍魔王様の側近闇騎士だ。その力は魔王軍ナンバー2であり、剣も魔法も使えるオールラウンダー。
控えめに言って俺はかなり強い。そして魔王様は更に強いはずだったのだが...
「あら? 雑魚が何かほざいてるわね。アンタみたいな子ネズミいつでもヤれるのよ? 黙ってなさい...ふふっ、いつぶりかしら? 私の攻撃を一度耐える敵が現れるなんて...流石魔王ね♪」
え? 一撃? そういえばさっきから四天王と連絡が取れない。まさかやられた?
じりじりと女は近づく。魔王様はもう死にかけている。次の一撃は耐えられないだろう。
俺は覚悟を決め二人の間に立ち塞がる。
もの凄い圧だ。この世界にこんな実力者が居たとは、汗が止まらない。俺は多分、一瞬の足止めにもならないだろうがやらせる訳にはいかない。
「さ...さあこいメンヘラ女!!! 我こそは魔王様の腹心! 闇騎士のグラナートッッ!! 貴様を地獄に送ってやる!!!」
名乗りをあげ自身を震え上がらせる。その時であった。
「カハッ、くっ仕方あ、るまい ......グラナートよ...こやつを過去に行って...止め...」
魔王様は血を吐きながら俺の首根っこを掴み...そして放り投げる。
何かに身体が吸い寄せられる。
「ま...うわぁぁぁ!!!」
突如の浮遊感そして竜巻に吸い込まれる様な激しいうねり。
これは魔王様の時空間ワープ。自分以外の者を、過去や未来、別の時間軸へとワープさせる事ができる秘技。
完全に飲み込まれる刹那、あの女の剣が魔王様の胸を貫いた。
「魔王様ぁぁああッッ!!!」
吸い込まれる様に二人から遠ざかる。そして闇が蓋をした。
ーーーーーーーーーー
一瞬の暗闇、そして強烈な閃光が視界を覆い、目を開くとそこには
「......ここは、俺の書斎?」
黒曜石で作られた重厚感のある椅子とつくえ。そして戦術書や魔道書などの本が並んだ本棚。
間違いない。ここは城の俺の部屋だ。
「本当に、過去に戻ったのか...?」
机の端に置かれた卓上カレンダー。そこに記された日付、先程の惨劇の丁度一年前。
机に積まれた書類にも目を通したが、見覚えがある。そして一年前の日付がしっかりと書かれている。どうやらタイムトラベルは成功したらしい。
「そうだ!!! 魔王様! 魔王様ァァ!!!」
俺は慌てて部屋を飛び出し、王の間へと駆け込んだ。そこには、椅子に腰掛け本を読み茶を啜る我が王の姿が。
「む? どうしたのだグラナートよ? お前程の男が血相を変えおって、ノックぐらいはしたほうがよいぞ」
魔王様は一瞬驚き、気の良い老人の様に笑ってたしなめる。どうやら、魔王様には一年後の記憶はないらしい。となれば俺のやることはただひとつ...!
「魔王様!!! このグラナート、火急の仕事が出来た故暫くこの城を留守に致します! 城の警備や、側近としての仕事は秘書や四天王達に伝え、やらせます故、どうかお許し下さい!」
ホウレンソウ。これがしっかり出来なければ仕事は回らない。流行る気持ちを抑え頭の中でこの後の対応を組み立てていく。
「...ふぅむ。お前には全幅の信頼を置いておる。しかし、どうしたのだ? 此度はまるで慌てふためいている子供の様ではないか? 留守の件は承知した。だが、その仕事の内容を教えてはくれぬか?」
「はっ! 私としたことが...すみません。ですが、王よ。この仕事の内容は貴方様を混乱させてしまうかもしれません...あぁそうです。恥ずかしながら上手く言葉に出来ませんが...ですが。そう、言うなれば偵察任務でございます」
突然、未来から来ました! それでヤバいやつが現れるのでそいつ殺してきます! と言っても相手からすればちんぷんかんぷんだろう。時空間ワープは確かに魔王様だけの技。しかしそれをいままで使った事はない。魔王様は恐れているのだ自分のせいでこの世界が乱れる事を。
「そうか...まあよい。しかし、だ。近頃は人間諸国との国々が戦争が激しくなってきた。くれぐれも無茶はするでないぞ!!」
王の顔に影が差す。戦争...これはおよそ数百年前、人間と魔族の間に起きた戦争の再来とも言われている。此度の戦争の発端は、数百年前の種族間の違いによるトラブル等ではなくもっと原始的な物。そう領土を広げようと魔族の大陸を人間の国々は結託し攻めてきているのだ。
そして何故か近頃は魔物達も凶暴化し人々を襲い初めている。現在我が国、いや世界全体が大いに混乱していると言えよう。
本当は茶の時間でさえリラックス等出来ないのだろう。カップに注がれた茶が余り減っていない事からも我が王の不安は窺えた。
俺は王の間を後にし、自らの書斎へと向かった。
「...あの女。必ず見つけてみせる」
「女? おや、グラナート様...私以外の女にご執心でございますか?」
「のわっ!? サルバトーレか...驚かせるでない」
「いえいえ、グラナート様の驚き顔を見るのがこの私めの最大の楽しみでございます」
ツンっと澄ました顔でつらつらと戯言を吐く女性。
彼女はサルバトーレ、俺の従者であり秘書だ。彼女はシャドー族と呼ばれる暗闇に溶け姿を消す事が出来る種族で見た目はロングの黒髪に整った美貌を持つ女性なのだが、いかんせん性格がよくない。顔色ひとつ変えず俺をからかい、その反応を見て楽しむのだ。
こいつとは昔からの仲なのだが、事ある事に本気なのか嘘なのか分からない悪戯をしてくる。
だが仕事は優秀なので、余り強くは出れない。
「サルバトーレよ...お前に伝えねばならぬことがあってな。色々と話すことがある故、書斎まで着いてきてはくれぬか?」
「ふむ、告白ですね。もちろん喜んでお聞きしましょう。あ、ポップコーンとか食べながらでもいいでしょうか?」
ため息をつき、サルバトーレの顔を見る。眼鏡をくいっと上げ、顔色を変えずにスーツのポケットからポップコーンの種を取り出す。
こいつの行動原理は理解不能だ。頭はキレる。馬鹿と天才は紙一重ともいうしで片付けているが余りにも自由過ぎるのだ。
しかし種からフライパンで作るつもりか...一応俺上司だぞ?
フライパンはどこでしょう? とボケをかますサルバトーレを無視し書斎へと向かう。
しかし、どうしたものか...あの女。何処にいるか検討もつかない。そして名前も知らない。知っているのは彼女の顔のみ。
人間達の大陸は広い。無闇に探せばまず見つからない。
「おやおや、グラナート様はポップコーンの味付けを迷っている御様子。ちなみに私はカレー味にしようと思います」
「はぁ...サルバトーレよ。俺は今けっこう真剣に悩んでいるのだぞ? ...なんだろうか、始める前から疲れる...」
「ニマァ~」
サルバトーレは俺の疲れ顔を見ると、口のみ意地悪げに釣り上げた。
笑ってない目と、その口は何時見ても不気味だ。その不気味がる顔さえも彼女にとっては楽しみになるのだと思うと更に疲れてくる。
若干気が抜けた己を引き締め書斎の扉を開ける。俺がやらねば魔族が滅びる。やるしかない。
「よし。作戦開始だ」
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