第49話 ノアVS呪体②
(――つ、強い……対峙しているだけで、精神力が削られる。一瞬の隙も見せることはできない……)
呪体と交わした一瞬の攻防。
ただそれだけで、呪体の強さを感じ取ったノアは、視線を外すことなく対峙する。
一方の呪体も、自身が放射した粘性の魔力から脱したことでノアの強さを感じ取っていた。
『――ギギギッ』
一瞬の隙が勝敗を決める。そう認識した呪体はノアを一瞥すると脚に力を入れ、粘性の魔力を放出しながら周囲を跳躍する。
それは、さながら蜘蛛の巣の檻。
自分にとって有利なフィールドを作り上げ、その中で捕食する蜘蛛そのものの行動。
ノアは、地面に落ちているボールを手に取り、それにステータスを付与していく。
そして、魔力のベクトルを周囲に浮かべると、そのベクトルにボールを乗せた。
そんなノアの姿を見て、イデアは笑みを浮かべる。
「ふえっ、ふえっ、ふえっ……流石はノア。私との鍛錬を攻撃として昇華させるか……」
その瞬間、その場の空間を歪めるほど膨れ上がった魔力が周囲を覆い。周囲に張り巡らされた粘性の魔力を一瞬にして霧散させていく。
『――ギギッ!?』
一瞬にして破壊されたこと驚く呪体。
その隙を逃さずノアは呪体に肉薄する。
「――うおぉおおおおっ!」
ありったけの魔力を戦斧に流すと、銀色に輝く戦斧が紅色に染まっていく。
そして、戦斧に填められた魔石が限界まで輝くと、刃から炎が溢れ呪体の胴体を真っ二つに切り裂いた。
――ドォオオオオオン!
断面から発火し爆散する胴体。
火の粉が舞うその中に、キラリと光る物体が見える。
(――あれは、同化のピアス?)
黒々とした同化のピアスを手に取ろうとすると、イデアが声を上げる。
「不用意に触るんじゃないよっ! それにはまだ呪が残ってる!」
「――えっ?」
しかし、そんなイデアの忠告も時既に遅し。
手にした瞬間、同化のピアスから黒いシミがあふれ出し、ノアの体を覆い尽くした。
◆◇◆
レジーナの心に宿る憎悪の炎。
その炎は、死して、なお消えることなく『同化のピアス』の中に封じられていた。
(――なんで、なんで私がこんな目に……なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないのっ!? 私は……私はただ十歳の頃、『付与』のスキルを授かっただけじゃない!)
ノアの頭の中に絶え間なく入ってくる思念の奔流。
(――許さない。絶対に許さないっ! 私は呪う。呪うわ。神を……私を苦しめるすべての者を……そして、私からすべてを奪い、笑みを浮かべる。この異常者をっ……! 絶対に呪ってやる!)
「――これが、あの娘の……同化のピアスに封じられたレジーナの思念……いやそれだけじゃない」
同化のピアスには、レジーナがダグラスを呪ったその時から今に至るまで殺されスキルを奪われた人たちの思念が残されていた。
(――痛い。苦しい。なんで俺が死ななければならないんだ!)
(――私がなにをしたっていうの!? 殺されなきゃいけないことなんかしていない!)
(――怖いよ。寒いよ。苦しいよ。ここはどこ……皆、どこにいったの……?)
「うっ……!?」
(――あなたもこちら側に来ましょう?)
(――そうだよ。ズルい。一人だけ生きているなんて!)
(――全てを諦め楽になろう。そうすれば、もうなにも考える必要はない。ここには同じ境遇の仲間が多くいる)
ダグラスに殺された人々の痛みや悲しみ、苦しみが急速にノアの心を蝕んでいく。
「――痛い……悲しい……苦しい……寂しい……もう駄目だ。死んで楽になりた……」
ノア自身の思考が死者側に傾き『同化のピアス』に閉じ込められたモノたちに絡め取られそうになった時、手に強い痛みが走る。
「――痛っ!?」
あまりの痛さに目を見開き手に視線を向けると、そこには心配そうな表情を浮かべるイデアとブルーノ、そして前歯でノアの手を噛むホーン・ラビットの姿があった。
「――イデアさん? ブルーノさん?? それにホーン・ラビット? なんで……」
イデアたちは『同化のピアス』に侵食されたノアを励ますよう必死に声をかける。
「ああ、そうだよ。ノア、戻っておいで! お前はまだ死んじゃいない。そっち側に引っ張られるんじゃないよっ!」
「頑張るんじゃ、ノア! ワシらより先に死んだら承知せんぞっ!」
「キュイキュイ!」
ステータスをリセットされ、ダグラスにより致命傷に近い傷を負い、本来、歩けるような状態じゃないはずの二人と『そっち側に行っては駄目だ』と言わんばかりに手を噛んで引き留めるホーン・ラビット。
「そうか……そうだよね……」
二人が優しく握るその手が、少し痛いが心配し噛み付くホーン・ラビットの心が温かい。
皆の温かい心に触れたノアは、ゆっくり手を動かすと『同化のピアス』を強く握る。
そして、ただ一言『リセット』と呟いた。
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