第48話 ノアVS呪体①
――ベキッボキッ……ボキボキッ
『同化のピアス』を飲み込んだ瞬間、ダグラスの体に異変が起きる。
「――あ、がっ!? ぎゃ⁉︎ げっ⁇」
絶叫を上げる度に、体のあちこちが隆起し、あまりの苦しさに喉を締め上げ、掻き毟るたびに体の形状が変わっていく。
そんなダグラスの姿を見て、イデアはヤレヤレと首を横に振る。
「――愚かな……呪われた『同化のピアス』を体内に取り込んで無事で済む訳がなかろう……」
ダグラスの持つ『同化のピアス』は呪われている。
鑑定するまでもない。そんなことは、ダグラスの様子を……同化のピアスを見れば一目瞭然だ。
『同化のピアス』や『同化の指輪』に使われている素材は聖銀。聖銀には呪われることにより黒く変色する特性がある。そして、呪われた聖銀は身に付けているだけで体に悪影響を与え、精神を汚染する。
身に付けているだけで、体に変調をきたすのだ。体内に取り込めば、体が変質するのは必然。
「イデアさん、一体なにが……」
『同化のピアス』を口にしたダグラスが異形に変貌していく姿を見てノアは戸惑いの声を上げる。
イデアはダグラスから目を離さずに言う。
「……いいかいノア。よく覚えておきな。あれが呪いを受けた……人の魂を私利私欲で弄び数え切れないほどの怨みを買ってきた人間の末路だよ」
「呪い……ですか?」
「ああ、呪いさ。それも死の間際にあった付与のスキル保持者の怨みや辛み、憎しみ……その時思った感情すべてをスキルに変え、運命を呪い、その魂ごと『同化のピアス』に宿った特級のね……」
呪いは、怨みや憎しみから相手の不幸を願う悪意という名のエネルギーの塊。
付与のスキル保持者は、モノに自らのスキルやステータスを付与する性質上、呪いと親和性が高く、死の間際に呪いを発症しやすい傾向にある。
「……これまで何度か似たようなものを見たことはあるが、ここまで強力な呪いは初めてだよ。そして、呪いが受肉したら、受肉した体が壊れるまで止まらない」
――ベキッボキッ……ボキボキッ!
ダグラスだったモノに視線を向けるも、そこにダグラスの面影はもうどこにもない。
黒く禍々しい手足が体中から伸び、ダグラスの体だったものから血の涙を流した女性の体が生えてくる。
その姿はまるで、女性の下半身が蜘蛛に変じたように禍々しい。
「可哀想に……辛かっただろう。悲しかっただろう。私は、心が読めるからね。あの娘の悲しみが伝わってくる」
ステータスをリセットされた自分では、あの娘の苦しみを和らげることができない。
自分の無力さに歯噛みしていると、戦斧を持ったノアがイデアに背を向け前に歩み出た。
「イデアさん……俺にはイデアさんのように人の心を読む力も、心に寄り添う力もありません。むしろ、あの娘のように人に奪われ、人を呪う気持ちの方がわかるかもしれない。俺も一度、ステータスを奪われてしまいましたから……」
自嘲気味にそう言うと、イデアは少し悲しそうな表情を浮かべる。
「ノア……」
「あの時は、本当につらかった。涙が枯れるまで泣いたのを今でも覚えています……でも、死んでしまった後も人を呪い続け苦しむ彼女の姿を見るのは、もっとつらい。彼女もつらいはずです。自分で敵を討ってなお埋まらない傷に苦しみ、今も涙している。だから……彼女がこれ以上、苦しまなくてもいいよう、俺が彼女を止めます」
ノアは戦斧を構えると、中心に填められた魔石に魔力を流す。
そして、戦斧に填められた魔石が限界まで輝くと、ノアに向かって紅い光が伸び、背中に赤い翼を作り上げていく。
「ノアよ。あれは呪体……心臓部分に元となった『同化のピアス』があるはずだ。どうかあの娘を楽にしてやっておくれ……」
「はい。任せてください!」
呪いに呑まれ、まるで神話に出てくる蜘蛛女、アラクネのように変異した呪体。
ノアは『同化のピアス』を呪体から取り除くため、距離を詰めようと赤い翼をはためかせる。
その瞬間、呪体がノアに視線を向けた。
「――っ⁉︎」
視線を直視しただけで体が強張る。
それはまるで、ブルーノとの鍛錬で対峙したドッペル・フィアーを相手にした時のように……。
もしかしたら、自分もああなっていたかもしれない……そう思うと、どうしても体が竦み上がる。
『グルッ……アア』
ノアの接近に気付いた呪体が首を横に傾け手を前に向けると、手のひらにある穴から放射状に粘性の魔力を飛ばす。
それはまるで蜘蛛の巣のようにノアに絡み付くと、呪体は蜘蛛の巣に掛かった獲物を捕らえるように跳躍し襲い掛かる。
「――くっ! 千切れない!?」
ダグラスがノアに放った粘性の魔力とは明らかに魔力の質が……濃度が違う。
「――それならっ!!」
ステータスに任せ逃れることができないのであれば、魔力をもって逃れるまで。
戦斧に魔力を込めると、ノアの背中に生えた赤い翼が燃え上がり、呪体の放った粘性の魔力を焼き尽くしていく。
『――ギッ?』
獲物が蜘蛛の巣から逃れた。
襲い掛かる直前でそう判断した呪体は、ケツから粘性の魔力を放射すると、一度、距離を取り、舐めるような視線をノアに向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます