第46話 ノアVSダグラス①

「な、なにっ⁉」


 ノアのステータスを覗き見たダグラスは思わず声を上げる。


(――し、信じられぬほどの雑魚だ。こいつ、もしかしてアレか? ガンツから報告のあったあの子どもか……?)


 ◆――――――――――――――――――◆

【名 前】ノア・アーク

【年 齢】15    【レベル】‌1

【スキル】リセット 【ジョブ】なし

     付与

【STR】体力:1   魔力:1

     攻撃:1   防御:1

     知力:1   運命:1

 ◆――――――――――――――――――◆


 ノアのステータスを『鑑定』したダグラスは考え込む。


(――『付与』のスキル保持者はそういない。まず、間違いなくそうだ。しかし、だとすると妙だな……あんなゴミクズのようなステータスでなぜ動くことができる? 『読心』があれをやったのではないとすると、なぜ、この俺に傷を負わせることができたんだ⁇)


 観察するような視線をノアに向けると、指先に銀色に光る指輪が嵌っていることに気付く。


(――っ⁉ あ、あれは『同化の指輪』⁉︎ なぜ、あの指輪を……しかし、理解した。そういうことだったのか……!)


 同化の指輪は、ステータス値を移すことに特化した『付与』のスキル保持者専用アイテム。その指輪を着けているということは、指輪に相応のステータス値が付与されていると見て間違いない。

 そして、もう一つ分かったことがある。

 それは、ノアの持つ特殊なスキル『リセット』の効果について……

 ダグラスは笑みを浮かべると、イデアに視線を向ける。


「……いいだろう。折角だ。お遊びに付き合ってやろうじゃないか。ただ、そのことを後悔しないことだっ!」

「――むっ⁉︎ いかんっ!」


 ダグラスの思考を読み、その企みを阻止しようとした瞬間、イデアはそのまま地面に倒れ込む。


「――っ! イデアさん⁉︎」


 その様子を見ていたノアはイデアの周囲にベクトルを浮かべると、倒れた際、怪我をしないよう倒れる際の勢いを相殺していく。


「――体中から力が抜ける感覚……これはっ……⁉︎」

「おや……俺の心を読んだか……、流石は『読心』……伊達に長く生きていないようだな……」


 ダグラスは暗い笑みを浮かべながら馬鹿にするように拍手する。


「――そう。お前のステータスを『リセット』させて貰った。到達者のステータス値を初期化するのは少しばかりもったいないがなぁ!」


『リセット』をイデアに使ったと聞き、愕然とするノア。


「……ステータスをリセット⁉ なんで……そんな、まさかっ!」


 余裕を取り戻したダグラスは饒舌に話し始める。


「――そう。その通り! 先日手に入れたスキル『共有』で、俺とお前……そして『読心』を繋ぎステータスを『リセット』させて貰ったんだよ! 中々、良いスキルを持っているようだな! しかし、まさか、こんな恐ろしいスキルを持った者がいるとは思いもしなかったぞ!」


『付与』のスキル保持者・ウールから奪い去った固有スキル『共有』。

 ダグラスはこのスキルを使うことにより、イデアのステータス値を『リセット』することにより無力化した。


「――油断したね。まさか、ノアのスキルを……」


 イデアは、ダグラスの内心を読み歯噛みする。

 そんなイデアを眺めながらダグラスは思案気な表情を浮かべる。


「(――やはり『読心』のステータスを初期化したのは勿体なかったか? いや、まあ、良しとしよう。これは危機を脱するために必要なことだった。今は『読心』の持っていたステータス値より価値のある固有スキル『リセット』と巡り会えたことに感謝するとしよう)さて……」


 ノアに視線を向けると、ダグラスは笑みを浮かべる。


「そこの少年……確か、名をノアと言ったな。この俺の下に来ないか? もし君が俺の下に来てくれるというのであれば、俺の作る新しい傭兵団の幹部待遇を約束しよう」


(――『付与』と『リセット』……この有用性は実際にその効果を確かめた者にしかわからない。『使役』と『読心』が手元に置こうとするのも理解できるというもの……『同族殺し』スキルで『付与』と『リセット』を奪うのもいいが、『リセット』には、看過できないデメリットが存在する。ここで重要なのは、『付与』と『リセット』。この二つのスキルを一人の人間が持っているということ……)


 ダグラスに話を持ち掛けられたノアは、イデアに視線を向ける。


「――ノア。そんな奴の話を聞くんじゃないよ。こいつは……」

「……外野は黙っていてくれないか?」


 そう呟くとダグラスはイデアの側に移動し、剣を振る。

 到達者から赤子並みのステータスにリセットされてしまったイデアと、到達者を遥かに凌駕するダグラスのステータス。

 イデアの体にダグラスの剣が当たる瞬間、イデアの体がかき消えた。


「――ほう。本気ではなかったとはいえ、俺の一撃を避けるとは中々やるじゃないか」


 ダグラスがそう告げた先には、イデアを抱きかかえるノアの姿があった。

 樹木にもたれかかるようにイデアの体を地面に降ろすと、ノアは憤怒の表情を浮かべる。その側では、イデアのことを守るようにホーン・ラビットが『キュイ!』と鳴いた。


「……やはり君は見所がある。怖い顔をしないで考え直してくれないか?」


 悪びれず、そう声を掛けるとダグラスの足元に銀色の斬撃が走った。

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