第45話 邂逅
「――ふえっ、ふえっ、ふえっ……」
ノアが宙に浮かべたベクトル。
そのベクトルの進行方向に従ってボールが宙を舞い、周囲の魔物を塵に変えていく。
周囲にバリアを張ったイデアはその様子を見て呟くように笑う。
「……爺さんの魔戦斧が形無しだね」
ステータス値を付与することで得た圧倒的な力。魔戦斧から召喚した悪魔を倒すなら他にもやりようはあるが、力で圧し潰すを地で行くこの方法は、おそらくノアにしかできないやり方だ。
(――だが、まだまだ詰めが甘いのぅ……)
イデアは宙に浮かぶベクトルに従って豪速球で舞うボールの進行方向に立つと、重力魔法でボールの勢いを殺し、魔物の血で赤く染まったボールを手に持つ。
そして、ペンションハウスから出てきたノアの頭上にボールを転移させると、そのままボールを落下させた。
「――痛っ⁉︎」
ボールを頭の上に落としただけ。
大して痛くないだろうに、ノアは目を白黒させ、両手で頭を抱える。
「――さて、デッドボールはここまでにしておこうかね……」
イデアはダグラスに視線を向ける。
(――ふえっ、ふえっ、ふえっ……爺さんがやられたか。あの爺さんを倒すとは、敵ながら中々、やるねぇ……)
ダグラスの思考を読んだ所、ブルーノは四肢を裂かれ虫の息。だが、まだ死んではいない。
イデアはノアに視線を向けると、ニッと笑みを浮かべ、ダグラスを指差した。
「――鍛錬とは、学ぶだけでなく実践で試すことにより昇華する。さて、最後の鍛錬といこうじゃないか。ノアよ。スキルを十全に駆使してあの男を無力化して見せな」
「えっ? あの人を……? って、誰ですか、あの人……?」
ダグラスは、ノアの住んでいた村、サクシュ村の警護をしていた傭兵団の団長。
そのことを知らないノアはポカンとした表情を浮かべる。
(――どこかで見たような気がするんだけど、どこだったかなぁ……? まあいいか……)
ノアが視線を向け構えるとダグラスは怒りの炎を目に灯す。
「……鍛錬? 鍛錬だと?(――『使役』を倒したこの俺を相手に鍛錬? この俺を無力化するだと??)」
ダグラスは『読心』を睨めつけ深呼吸すると、ゆっくり息を吐く。
「――ああ、そうさ。それじゃあ、鍛練を始めるよ……うん?」
ダグラスは『転移』でイデアの背後に回ると剣を突き付ける。
「――先ほど、俺の魔物を消し飛ばしたのは、『読心』。お前か……?」
ダグラスの問いかけに、イデアは首を横に振る。
「ふむ。お主には魔力の質が見えていないようだね? あれをやったのは私じゃないよ」
「……世迷い言を!」
声を上げ、剣を振るうとイデアの周囲を覆うように、突如としてベクトルが出現した。
「――なっ⁉︎」
そして、切っ先がベクトルに触れた瞬間、手に持っていた剣が進む道を変えダグラスを襲う。
「くっ――⁉︎ 読心がぁぁぁぁ!」
手に持っていた剣を放し、膝を折って背後に避ける動作をするも、宙を舞うベクトルが剣の通り道を変幻自在に作り出していく。
「……まだ、勘違いしているようだね。それをやったのも私じゃあない。ノアだよ」
ベクトルに操られた剣はダグラスの頬に一線の切り傷を作るとそのまま樹木に突き刺さる。
ダグラスが、信じられぬと目を向けた先には、銀色に輝く戦斧を構えた少年が立っていた。
◇◆◇
「――ぐっ……(なんだこいつ……ただ子供じゃない。この俺に傷を負わせるとは……)」
視線の先には、得体の知れない子どもが一人と、読心の魔女、イデアが一人……
ダグラスは、冷静になって状況を確認する。
(――『同族殺し』の力でミギーから取り込んだスキル『リライフ』で捻出できるライフはあと一つ……くっ、まさかライフで操っていた魔物すべてをバラバラにされるとは……こんなの反則だろ。『使役』と『読心』とではここまで力の差があるのか……)
一瞬にして、バラバラにされた魔物たちの残骸。
それを見れば、力の差は一目瞭然。
ダグラスの頬に一筋の汗が流れ落ちる。
「ふえっ、ふえっ、ふえっ……怖気づいたのかい? ダグラス傭兵団の団長ともあろう者が情けないねぇ……そんなんじゃ、ノアの鍛錬相手にもなりはしないよ」
心底ガッカリしたとでも言わんばかりの言動に、ダグラスはこめかみに青筋を立てる。
(――ぐっ……このババア……言いたい放題言いやがって……!)
しかし、今はそんなことを言っていても仕方がない。
まずは情報収集が先と、イデアのステータスを確認するため、『鑑定』でイデアのステータスを覗き見る。
◆――――――――――――――――――◆
【名 前】イデア・エイドス
【年 齢】150 【レベル】95
【スキル】付与 【ジョブ】魔女
全属性魔法
【特 殊】読心
【STR】体力:50 魔力:100(MAX)
攻撃:50 防御:50
知力:100(MAX) 運命:95
◆――――――――――――――――――◆
(――ステータス差は歴然。断然、こちらの方が上だ。しかし、だとしたら、なぜだ……なぜ、読心の魔女はあの魔物の群れを一瞬にして倒すことができたのだっ⁉ やはり、読心の言う通りあの子どもがやったとでもいうのか⁇)
思索に耽る中、ふと、視界に入ったノアを鑑定する。
すると、目の前にノアのステータス値が表示された。
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