第44話 傭兵団VS『使役』⑤
「……『使役』よ。無様な姿だな。今のお前は到達者とは、思えぬほど弱くなった……いや、俺が強くなったのか?」
体中を血の色に染め立つ傭兵団の団長、ダグラスは、腹を刺され脂汗を流すドワーフに話掛ける。
「……だとしたら? お主は、力を得てなにを求める」
生き絶え絶えとなりながらも、そう呟くとダグラスは意気揚々と告げる。
「そんなことは決まっている……俺が目指すのは最強の頂。そして、今、俺はお前の上に立った。他でもない、悪名高き『使役』の上に立ったのだっ!」
その言葉を聞き、ブルーノは苦笑する。
「――くだらぬな……」
「そうかい? お前にとってはくだらぬことでも俺にとっては大事なことなのだよ。お前たちにはわからないだろうな。『回復』と『指揮』……他人を支援する……ただそれだけのスキルしか授かることのできなかったこの俺の悔しさがっ!」
ダグラスは、血が滴った剣の刃先を地面に擦りながらブルーノに近付く。
「俺は小さい頃、馬鹿にされ続けてきた。他人の支援をするしか能のない腰抜けダグラスとな。お前たちにはわからないだろう。だからこそ俺は力を求めた! スキルに頼らず、己の剣技を磨き『付与』のスキルホルダーを見付けては、その力を搾取して、ようやくここまで来たんだっ! 俺が傭兵団を立ち上げたのもそう。全ては力を求めてのこと……まあ、その傭兵団もお前たちに潰されてしまったようだがな……」
所彼処に散らばった団員たちの死骸。
ミギーの持っていたスキル『リライフ』を『同族殺し』の力で取り込んだからだろう。今、すべてのライフがこの身に集まって来ている。
「……しかし、彼らの死も無駄ではなかった。なぜなら、ここで亡くなったすべての同胞のライフがこの俺に集まっているのだから……ミギーも良いスキルを残して逝ってくれたよ(――本当は、『使役』のスキルも欲しかったが、種族が違うためか、上手くスキルを抜き取ることができないようだな……だが、まあいい……)」
「――がっ⁉」
持っていた剣でブルーノの四肢を切り裂くと、ダグラスは深い笑みを浮かべる。
「……お前は後回しだ。後でじっくりとステータス値を奪い取ってやる。だから、今は、そこで寝ていろ」
「ぐっ……!」
ダグラスの言葉に、悔しそうに唇を噛むブルーノ。
「(――このまま行かせてなるものか……婆さんとノアは夢の中にいるはず……このまま行かせては……婆さんが……ノアが……!)――
「――な、なんじゃと……⁉」
驚愕の表情を浮かべるブルーノ。
対するダグラスは呆れた表情を浮かべた。
「……無駄だ。ミギーの持っていたスキル『リライフ』で
ダグラスの言葉にブルーノは目を見開き口を大きく開ける。
「……こんなこともできるという訳だ」
ダグラスの体から溢れ出た光の玉の数々。
それらが、ブルーノにより格子状となった魔戦斧・666に吸収されると、姿を変え悪魔となって格子から這い出てくる。
「ば、馬鹿な……」
驚くブルーノを見て、ダグラスは嬉しそうに笑う。
「――いいね。その表情……その表情が見れただけで、十分だ。まあ、そこで見ていろ。この俺によってすべてが蹂躙される。その様をな……」
笑いながらそう言うと、魔戦斧・666から這い出てきた悪魔たちが森の中心へ向かっていく。
(――『使役』は捕らえた。後は『読心』を捕らえステータス値を奪うだけだ……!)
ダグラスの体から溢れ出た光の玉に触れた瞬間、ブルーノが召喚した魔物たちがダグラスの配下に降っていく。
「さあ、ブルーノの召喚した魔物たちよ。その力をもって『読心』を生け捕りにしろぉぉぉぉ!」
ブルーノの手を離れ、魔の森を覆うようにして展開された666体の悪魔と魔物たち。
ダグラスの命を受けた魔物たちは、読心の魔女イデアとノアを捕らえるため、森の中心へと向かっていく。
「もうすぐだ。もうすぐ俺は二人分の到達者のステータス値をこの手に……(――そうすれば、もう俺を止めることができる者は存在しない……すべては俺の思いのままだっ!)」
大蛇の背に乗り森の中心部に近付くと、小さなペンションハウスがあることに気付く。その側に慌てた表情を浮かべる『読心』の姿を視認する。
「――見つけたぁぁぁぁ!!」
ダグラスは己が未来を……『読心』を捕らえ、ステータス値を奪い最強となった自分の姿を夢想し、歓喜する。
「――魔物共、『読心』を捕らえろぉぉぉぉ!」
『読心』の魔女イデアを捕らえるため、殺到する魔物たち。
「――うん? ああ、そういうことかい。ふえっ、ふえっ、ふえっ……馬鹿だねぇ……」
そうイデアの声が頭に響いたその瞬間、場の魔力が急激に膨れ上がる。
「――な、なんだっ⁉︎ 一体、なにがっ……」
この場の空間を歪めるほど膨れ上がった魔力。魔力は魔物たちを覆い。数多のベクトルが宙に浮かび上がると、どこからともなく轟音が上がり、一瞬にして、魔物たちの体がバラバラとなる。
唖然とした表情を浮かべていると、ペンションハウスから一人の子供が姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます