第2話 奪われたステータス
「――があっ!?」
裏路地に連れて来られたノアは傭兵風の大男に思い切り殴られる。
なぜ殴られたのかわからず、睨み付けると、傭兵風の大男はノアを指差し馬鹿にするように笑った。
「ぐははははっ! 俺の名はガンツ。この村の傭兵団に所属するガンツだっ! ようやく見つけたぜぇ! どうやら一番乗りみたいだなぁ!」
オールバックにした鼠色の髪と頬の傷が特徴的なこの男の名はガンツというらしい。
ノアはガンツに視線を向けると体を震わせながら後退る。
「な、なんでこんなことを……俺がなにをしたって言うんだっ……?」
痛みに震えながら、声を上げると、ガンツは口を歪めながら言う。
「別に、なにもしてないぜ? 強いていうなら運が悪かっただけだな。俺はただ、お前が『付与』のスキル保持者だと小耳に挟んだから、ここに来ただけだ。ちょっと、こいつにお前のステータス値を付与してもらいたくてなぁ……」
ガンツは腕輪を外すと、ノアに詰め寄り視線を横に向ける。
「……ほら、見てみろよ。そこにいる奴等もみーんな、お前が『付与』のスキル保持者だと聞いて集まってくれたんだぜぇ?」
ガンツに促され横に視線を向けると、数名の傭兵たちが舌打ちしながら去っていく姿が見えた。
多くの人に狙われていたことを知り震えるノア。
そんなノアを眼下に収め、笑みを浮かべながらガンツは話を続ける。
「皆、お前のステータスが欲しくて堪らないのさ……悪く思うなよ。悪いのは全部、『付与』のスキルを賜わったお前なんだからなぁ。恨むんなら神を恨みな。ああ、安心しな、全ステータス値を寄こせなんて言わねぇよ。体力値だけは残しておいてもいいぜ? お前にはまだ使い道があるからなぁ……」
「な、なんで俺がそんなこと……うっ!?」
反論するノアにガンツは舌打ちをする。
そして、ノアの首を絞め上げるとオーガのような表情を浮かべた。
「……お前は黙って『はい』って言えばいいんだよ。わかったか?」
「は、はいっ……」
『はい』と言わなければ殺されるかもしれない。
ガンツの脅迫に負けノアは泣きそうな表情を浮かべる。
その言葉に満足したガンツは、ノアに腕輪を持たせると『付与』の使い方を指示していく。
「それじゃあ、まずは『ステータス』を開け……」
「……は、はい。『ステータス』」
ガンツに指示されそう言うと、目の前に半透明な四角いボードのようなものが現れる。
これはこの世界にいる者なら誰でも表示することのできる『ステータス』という魔法。『ステータス』には、名前や年齢、所持スキルや数値化された自分のステータス値などが表示される。
「よし。それじゃあ、ステータスを見せてみろ」
「は、はい」
言われるがままに、自分のステータスを開示すると、ガンツはただ一言、「クソ弱えステータスだな」と呟いた。
十歳の時、固有スキル『リセット』で、レベルとステータスを初期化してしまったのだから弱いのは当然だ。
◆――――――――――――――――――◆
【名 前】ノア・アーク
【年 齢】15 【レベル】5
【スキル】リセット 【ジョブ】なし
付与
【STR】体力:5 魔力:2
攻撃:2 防御:2
知力:5 運命:5
◆――――――――――――――――――◆
そんなノアのステータスを見て、ガンツは悪態をつく。
「ちっ、ハズレかよ……まあいい。ステータス画面にある『付与』に指を当てろ」
「は、はい……」
ガンツに言われた通り『付与』に指を当てると、『なににステータス値を付与しますか?』という画面が現れる。
ノアは嫌々ながらガンツから受け取った腕輪を指定すると、今度は『どのステータス値を付与しますか?』といった画面が現れた。
ノアが戸惑いの表情を浮かべると、ガンツは背後から脅すように言う。
「体力以外のすべてだ。すべての値をゼロにしろ」
「はい……わかりました……」
ノアは泣きたくなった。
強制とはいえ、十歳からの五年間、頑張って育ててきたステータス値を自ら0にしなければならない状況に置かれるとは思っても見なかったからだ。
体力以外のステータス値を0にし『付与しますか?』という画面で『はい』を選択する。
すると、体から力が抜け、ノアのステータス値がガンツの腕輪に移っていく。
「どれどれ……?」
ガンツはノアのステータスを覗き込むと、『体力』以外のステータスが0になっていることを確認する。そして、ノアから腕輪を奪い取り大声で笑った。
◆――――――――――――――――――◆
【名 前】ノア・アーク
【年 齢】15 【レベル】5
【スキル】リセット 【ジョブ】なし
付与
【STR】体力:5 魔力:0
攻撃:0 防御:0
知力:0 運命:0
◆――――――――――――――――――◆
「ぐはははっ! 酷いステータスだなぁ! 大した付与はできなかったが、しょうがねぇ! この位で勘弁してやるよ! ステータス値が上がったら教えてくれ。そうしたらまたもらいにきてやるからよ。まあ、そんなクソみたいなステータスじゃ魔物すら倒せないかもしれないがなぁ! この端金ももらっておいてやるよ。ありがたいと思えよなぁ!」
「う、ううっ……」
余りに理不尽な仕打ちにノアは涙する。
レベルを上げるためには、魔物の体内にある魔石を破壊しなければならない。
しかし、最初の内は比較的に上げやすいレベルも、レベルが上る毎に破壊しなければならない魔石の量が増えていく。
そもそも、こんなステータスでは、倒せる魔物が限られてくる。
ノアのステータスで倒せる魔物がいるとすれば小型の魔物、ホーン・ラビット位のものだ。
しかし、元のステータスに追い付くためには、今まで以上のホーン・ラビットを倒さなければならない。
「これからどうしよう……」
笑いながら去って行くガンツを後目にノアは呟くように言う。
ノアに残されたものは、絶望的なステータス値と汚れた衣服のみ。
その日、ノアは裏路地で涙が枯れるまで泣き腫らした。
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