仕立てる為のオパール

 夜市へ出す新作のデザイン、委託先へ納品する作品、石座と石留めの練習。リッカは多忙だった。オパールは唯一無二の石。故に新作は一点物にしようと決め、どうすればオパールの美しさ、良さを引き出せるか考えていた。


 それと同時にコハルに譲って貰った魔工オパールを使って石座作りと石留めの練習を繰り返す。銀の板と銀線、角棒を加工して一つ一つの石に合った大きさの石座をひたすら作り続け、石留めの練習を繰り返した。


(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい)


 どれくらいの強さで爪を叩くと傷がつくのかを試すために、心の中で謝りながら石が傷ついたり割れるまで叩いてみたり、爪の細さに合わせてタガネを新調したりした。石は種類ごとに硬度が異なる。やはり「オパールで練習できる」というのは大きい。提供してくれたコハルに感謝だ。


 新作のオパールだけでなく夜市には勿論既存の作品も並べる。リッカは毎年アクアマリンの作品を出す事に決めていた。古い時代に蝋燭の灯りの下で美しく輝く事から「夜の女王」として愛されていたというエピソードがロマンティックで好きなのだ。実際、夜市では各店舗が照明を用意するので雰囲気を重視してランタンを用いて宝飾品を飾り立てる店も多い。夜ならではの「そういう演出」も大事なのだ。


 練習と並行して秋の手仕事祭で売れた作品の補充も行う。売り切れたものも多く在庫がごっそり減ってしまったのでその再生産をしなければならいのだ。やる事が多くて嬉しい悲鳴が出そうだ。アサクサバシへの買い出し、パッケージの組み立て、作品の生産、練習、デザインの模索。目まぐるしい毎日だった。


「ちょっと休憩するか」


 日も暮れた頃、一息つく為にホットミルクを煎れた。ハチミツをたっぷり入れてかき混ぜると甘い香りが広がる。季節はすっかり冬。寒い日にはちょうどいい。


「委託先へは納品したし、在庫補充もあとは仕上げだけ。問題は新作だなー」


 練習で作った石座を掌の上で転がしながら考える。オパールは難しい石だ。リッカの好きなウォーターオパールは透明で素体の色が薄いので「透けすぎてしまう」。最大の特色である遊色も透かした状態だと色味が薄まってしまう。販売されているオパールが黒いルースケースに入っていることが多いのは黒背景の方が遊色がはっきりと見えるからだ。


 また、装飾品として仕立てて身に着けた際、石座の裏側に空いた穴を通して肌の色が透けて見える。透明系のオパールだと遊色が見えにくくなる上に地肌の色が合わさって「ルースの時と見た目違う」という印象を与える可能性もある。


(私の好みは透明なウォーターオパールだけど、仕立てるとなったらまた違った目線で選ばないといけないかもしれない)


 暗い中で展示するならば照明を工夫する事で遊色を目立たせる事も出来る。しかし日中身に着ける場合と見え方が違ってしまうのが難点だ。ホワイトオパールのような不透明なオパールの方ならばそこら辺の課題を克服できるかもしれない。次の即売会で石を仕入れるまでにどのようなオパールを使うのか良く考えなければならないとリッカは感じた。


 年末に行われる石の即売会は全国から業者が集まる大規模な催事だ。一年の締めとして石の愛好家たちもまたこの場所に集ってくる。リッカも例外ではなく「石納め」として毎年参加しているのだった。


「お財布よし、予算よし」


 会場となるホールの入口で財布の中身を確認する。カード対応の店が多くなってきたとはいえ、未だに現金対応のみの店もあるからだ。



「今年も買うぞー」


 入口でチケットを買いパンフレットを貰う。店の配置と簡単な出品物紹介が載っている所謂「宝の地図」である。


(お!宝石商さんとコハルさんのお店発見)


 配置図の中に宝石商とコハルの店を見つけ、ペンでマーキングする。ここは絶対に寄らねばならない場所だ。あとは一通りぐるっと回りながらオパールが置いてある店に立ち寄ることにした。店の数が多くオパール専門店でなくてもオパールが置いてある場合がある為、一通り目を通さなければ見落とす可能性があるからだ。


 年内最後の石の即売会ということもあり会場内は愛好家達で賑わっている。人混みにながされないよう気を付けながらオパール探しが始まった。

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