第46話 王女、扉に問われる

「わぁ~マキアス凄い…ゾンビバッタが全部消えちゃったわ」


 僕の【水分創成】によって広間のイーゴナゾンビはすべて浄化されたようだ。

 遺跡内の水も引いていく。


『ま、マキアス様の水は聖水よりも清められているの!? これ瓶詰で売りだしたら凄いことになるかも、あれもこれも買えちゃう』


 女神様は買いたいものがいっぱいあるようだが、やめてほしい。聖水の価値が暴落してしまう。


「さてと」


【風力創成】少々に【火力創成】をほんの少し同時発動。

 僕の手から温風が発生してリーナとエレニアの服を乾かしていく。


 2人ともフワフワの服に戻る。ふぅ良かった。

 先程まで水で服が張り付いて、2人ともまったくけしからん事になっていたからね。


「ねぇ、マキアス。あれ何かしら?」


 リーナが指さした場所には、なにか四角い箱のようなものがある。


『マキアスさまの水流で流れてきたようですね』

「宝箱のようだけど」


「宝箱!」


『う~ん。硬いわね。リーナやってみて』

「ザビ付いてはなさそうだけど、ダメ、エレニア開かないわ」


「す、すごい! は、はじめてみた!」


『リーナは施錠解除魔法使えるのかしら?』

「ごめん、使えないのエレニア。でもここに鍵穴みたいなのがあるわ」


「ほ、本当に宝箱とかあるんだ! ワクワク!!」


『「マキアス! 今開けてるから静かにして!」』


 女子2人に怒られたので大人しくする。

 しかしワクワク感が止まらん。何が入ってるんだろう。


 待つこと数分、リーナとエレニアが僕の方を振り向いた。

 お! 開いたのかな!?


『「マキアス! これ切って!」』


 どうやら、2人とも僕が切るしかないとの結論にたどり着いたらしい。


『「中身は切っちゃダメよ! うまくやって!」』


 ええ~、そこそこ無茶な要求…

 まあ、鍵部分をうまいこと切ればいいか。


 僕は、抜刀して宝箱に剣を打ち下ろした。スパッと。


「あっ」


 ああ! しまったぁ! 真っ二つにしてしまった…宝剣トラミスだということを忘れてた。切れ味が抜群すぎる。

 ふたつに割れた宝箱をじっとみる王女と女神。


『「………」』


 2人とも何かしゃべってくれ! 無言で宝箱の中身を凝視しないでくれ。


「何かしらこれ?」


 リーナが割れた箱の奥から何かを取り出した。


「あ、マキアスごめんね。中身は大丈夫よ」


 なるほど、リーナが取り出したものは小さな箱だった。外側の箱はほとんど空洞だったようだ。とりあえず中身が無事でよかった。

 リーナが小さな箱を開ける。


「指輪? 箱にも文字が書いてあるけど読めないわ」

「本当だ、見たこともない文字だ」

『マキアスさま、これは古代文字ですね。ジャミングの指輪、はめると偽りの波動を妨げる。と書いてあります』


 エレニアが箱に書いてある文字を解説してくれた。


「偽り? どういうことだろう」


 僕は指輪をリーナから受け取り、じっくりとみる。エレニアも横から覗き込んできた。


『特に呪いのようなものは感じられませんね』

「ならはめてみるか」


 僕が指輪をはめると、ザーザーという耳障りな音が聞こえてくる。


「―――っ、なんだこの音!」


「どうしたのマキアス。私は何も聞こえないけど」


 エレニアもリーナに追随してうなずいている。

 どうやら僕にしか聞こえてないらしいな。この音。


「あ! マキアスあれ!」


 リーナが指さす先にはポッカリと通路が開けていた。あんな通路は今までなかったはずだぞ。


「すごいや、通路が出てきたよ」

「その指輪が通路を開いてくれたのから?」

『う~ん、通路を開いたというよりは、もとから通路はあったようね』


「「?」」


 僕とリーナは同時に疑問の表情をエレニアにむける。


『通路は、はじめから存在していましたが、認識疎外のような電波で存在を隠していたようです。ですが指輪の力で正常に作動しないようにしたみたいです。その指輪は電波に干渉できる機能があるようですね』


「つまり、指輪がこの通路の場所を教えてくれたってことかしら?」


『そうねリーナ』


 通路に足を踏み入れると、あたりが明るく照らされる。


「なんだか、さっきまでと雰囲気が違うな」

「そうねマキアス、床も壁もみたことのないデザインね」


 リーナの言う通り見たことのない不思議な通路だった。何て言えばいいのか、整ってはいるが無機質な感じがする。


『そうですね、この遺跡はかつての大戦時の建造物で間違いなさそうです』


 さらに奥へと進む。


「マキアス、あれ扉かしら?」


 通路の突き当りに、扉らしきものがみえてきた。


「にしても大きな扉だなあ…」

 僕らの目の前に現れた扉は大型ゴーレムでも通れるかというほど大きかった。


 とりあえず僕らは押したり、引いたりしてみたがビクともしない。

 鍵穴らしきものも見当たらないな、さてどうしたものかな。


[なんじ、この先へ進みたいか?]


 僕らが色々試している最中に、いきなり扉から重厚な声が響いきわたる。


「扉がしゃべった?」


『いえ、マキアスさま。どうやらこの遺跡の制御システムのようです。簡単に言えば、遺跡の主みたいなものです』


 遺跡の主の声か。


「僕らはさきに進みたいんだ」


 僕がその旨を伝えると、扉はさらに問いかけてきた。


[進みたくば、われの問いかけに答えよ]


 扉は重々しい雰囲気で話を続ける。


 な、なんだろう? 神話みたいな問いかけかな? あまり知らないんだけど。


[この問いに正しき言葉を発せし者に道はひらけん。銀髪の娘に問う]


「え? 私?」


 どうやらリーナへの問いかけらしい。


[銀髪の娘、汝の膨らみはいかほどか?]


「何の話かしら? もっと具体的に言って!」


 こ、これ…


[銀髪の娘、汝の膨らみの大きさを教えよ]


「膨らみって何よ? ちゃんとわかるように言って」


 いやいや、これもしかして…


[銀髪の娘、バストのサイズ教えて]


「『はあ?』」


 女子2人が何言ってんだと声をあげる。そりゃそうだ。


[教えてくれないと扉は開けない]


「『くっ、この変態扉…』」


「マキアスは耳ふさいでて!!」


 このあと、大きな扉の前で赤面して口を開く王女と、必死に耳を塞ぐ特級騎士という良くわからない儀式により、扉は開いた。

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