第45話 王女と女神、絶叫する

 王都を出て数日後。

 僕らは、国王陛下から依頼された遺跡調査の現場に到着していた。


 ちなみに第一王女もついてこようとしたが、丁重にお断りした。


「これが遺跡かな…」


『そのようですね』


「ねぇ、なんか岩山にしかみえないけど」


 眼前の岩山をリーナが見上げてみたまんまの感想を口に出した。


 見渡す限り草原だが、その中央に突如として岩山が隆起している。つい最近岩山の斜面が崩れて入り口が見つかったらしい。

 遺跡の近くには先ほど僕等がいた小さな町がみえる。食料補給で立ち寄ったのだが、僕が特級騎士であることがバレて大変だった。


「この剣、なんか立派すぎて僕には合わないような気がするよ」


 国王陛下からもらった剣「トラミス」。

 金ぴかで目立つんだよね。仰々しい王家の紋章とかついているし。


『何言ってるんですか。マキアス様ならそれぐらいの技物は持って当然ですよ。ふふん』


 実体化しているエレニアが、いつもの口調で上機嫌だ。

 彼女は女神っぽいいつもの服装ではなく、ワンピースを着ている。リーナの部屋から勝手に持ってきたらしい。あいかわらず自由な女神さまである。


「ふふ、マキアスは素朴な剣の方が好きなのね。でもそれ王家の家宝らしいわよ。たしか付与の宝剣とか言ってかしら。よく切れんるんじゃない」


「か、家宝…ほ、宝剣…」


 なんちゅうもん渡してくれたんだ…使いにくいじゃないか。家宝とか簡単に渡しちゃダメだぞ王様。


 ちなみにリーナは、いつもの旅人の服だ。ドレス姿の彼女も綺麗だが、旅人の服もスマートに着こなしている。王女ということはバレないけどとんでもない美人であることは隠しようがない。


 町の人たちに、「特級騎士さまともなると奥方さまもお美しい」とか言われてから上機嫌のルンルンだ。


 そんな上機嫌の2人とともに、遺跡内部に入った。


「遺跡というか、洞窟だな」


「ええ、なんだかひんやりしているわね」


 地面は硬い岩盤を砂利が覆っている。ぬかるみなどもなくそこまで歩きにくいということもない。

 人の気配はまったくしない。王国が遺跡発見と同時に入り口を封鎖したためだ。


 歩き進んでいくと徐々に道が良くなってくる。石畳のような作りに地面が変わってきた。


「このさきに、大きな広間があるはずよ」


 リーナが地図を片手に前方を指さした。


 すでに王国の調査隊が一度遺跡に入ったが、しいて何も発見できなかったようだ。専門家が発見できないのだから僕らも何ができるのかわからないが、女神であるエレニアが何かしら発見できるかもしれない。


「ここが広間ね」

「エレニア何かわかるかい?」


『いえ、マキアス様。ここだけではなんとも、でもなにか見覚えがあるような…』


 大きな広間だった。中央の円状の広間から小さな洞窟らしき入り口が無数に口をあけている。


『建造物からみるに数千年前のものみたいだけど。これだけじゃ何とも言えないわ。せめて碑文かなにか文字があれば手掛かりになるんですが』


 文字か。

 う~ん、なんもないなぁ。ただ広い広間なだけにみえる。


「キャァァァァ!!」


 その時リーナの叫び声が洞窟中に響いた。


「ま、マキアスぅ。あれ、あれ、あれ」


 無数にある洞窟の入り口から、どす黒い塊がはい出てくる。かなりの数だ。


 ブーン ブーン ブーン


「マキアス…この音…」

『ま、マキアスさまぁ…この音…』


 ああ、この音は僕も良く知っている音だぞ。


 ブーン ブーン ブーン ブーン ブーン


 そう、イーゴナだ。


「『ギャァアアアアアアアア!! でた~~~!!』」


 どす黒い塊の正体は、害虫退治の時に大量に出会ったバッタの魔物イーゴナだった。


「なんだあのイーゴナ? 腐ってる?」


 広間を取り囲みつつあるイーゴナ達はどれも五体満足といえる個体は無かった。というかこれ生きてんの?


「『ギャァアアアアアアアア!! ゾンビバッタでた~~~~!!』」


 王女と女神が恐怖で取り乱しまくる。


 ぼくは抜刀して、近くのイーゴナゾンビ数匹に斬撃をあびせた。


 どろり。


「うわぁ~、これはヤバい」


 切りつけたイーゴナの顔や体が半分になるもそのままモゾモゾと動き出す。見た目がヤバすぎる。


 ギギギ~


 僕の切りつけたイーゴナ達が、不気味な音を立てながらリーナとエレニアの方にジャンプした。


「『ギャァアアアアアアアア!! 半分になったの飛んできた~~~~!!』」


 王女と女神の絶叫が遺跡中にこだました。


「成仏してぇええ! ホーリーライト!」

『ひぇいいい~、聖水! 聖水! 聖水~~~こないでぇ~』


 リーナが必死に光の浄化魔法を使う。

 エレニアは狂ったように聖水をぶっかけまくる。

 効果はあるのだが、いかんせんイーゴナゾンビの数が多すぎる。


 僕は【風力創成】で速度アップしつつ宝剣トラミスでイーゴナゾンビを切りまくる。


「さすが、王家の宝剣だ! 切れ味抜群!」


 そこにエレニアとリーナが抱き着いてきた。

 ああ、2人ともベチョベチョだ…可哀そうに。


『マキアスさま~水で流して~』


「わかってるよ、でも先にゾンビたちをどうにかしないと…」


『ヤダヤダヤダ~マキアス様、口の部分裂けているのにモゴモゴしている~』

「イヤイヤイヤ~マキアスもうお嫁に行けない~」


 ダメだ取り乱しすぎだ。しょうがないので【水分創成】で2人とも洗い流す。


 ギ…ギギ…


「あれ? なんかイーゴナゾンビの様子がおかしい!?」


 なんか僕の周りの個体が苦しみ始めている、湯気を立て始める個体もいる。


『ふぇ~ん、マキアスさま~もしかしたらマキアスさまの水分が聖水なみにキレイなのかも~』


 エレニアが泣きながら解説してくれた。


「そっか、ならここは! 【水分創成】全てを押し流せぇえええ!!」


 イーゴナゾンビは次々と浄化されながら流されていくのであった。






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【読者のみなさまへ】


いつも読んで頂きありがとうございます!

作者の「のすけ」です。


みなさまのおかげで、第45話まで更新することができました。

感謝の限りです!


作者の日中業務が年末繁忙期に突入してしまい、投稿間隔を下記に変更させて頂きます。

週2回投稿(原則:水曜日、土曜日投稿)

※完結まで必ず投稿します。


また、12/1投稿開始予定の新作も作成中です。

※12月開始のカクヨムコンに参加予定です。


これからも面白いお話を投稿できるように頑張りますので、

引き続き応援よろしくお願いします!


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