第44話 ゲイナス視点(マキアス父) 王様に追放を否定される

 マキアス達が遺跡調査に出発した翌日。


 マキアスの父、ゲイナス・ルイガイアはエセシオン王国の王都にある王城に呼び出されていた。息子のソクアも一緒に連れてきている。


「むふふ、国王陛下からの直々のお呼び出し。これはソクア、おまえの【剣聖】スキルの件で間違いない」


「ええ、父上。おれ…じゃない私の【剣聖】スキルが認められたのですね。ついでに特級騎士とかに任命されるのか~俺様」


「おい、ソクア。言葉使いには気を付けろよ! 陛下の覚えを悪くしては元も子もないからな」


 まったく、こいつはすぐに調子に乗るのが悪い癖だ。


 しかし特級騎士か、あり得るかもしれんな。【剣聖】という超優良スキルを手に入れたのだ。王国にとってこれほど得難いことはない。当然ながら山のような褒美が用意されているのだろう。


 俺はニヤケ顔をなんとか抑えながら、謁見の間に足を踏みいれる。


 玉座にて、国王陛下が待っていた。


「陛下。ゲイナス・ルイガイア、ただいま参上いたしました」


 俺とソクアは陛下の前にてひざまずく。


「うむ、久しいなゲイナス。おもてをあげよ」


 久しぶりに見る陛下の顔は…やけに厳しく険しいものだった。


「単刀直入に問うぞ。お主、息子のマキアスを追放したそうじゃな」


「は、仰せのとおりです」


 当然だ、あんな外れスキルの無能は追放されるべき人間だ。人の上に立つ以上は無能を次期領主にするわけにはいかんからな。まあ、国王陛下は国のトップだ。だからこそ追放という俺の最高の判断には最高級の評価を下されるだろうな。なるほど、【剣聖】に加えて、追放という行為にも褒美を出すおつもりだな。うむ、わかっておられる。


「う~む…」


 陛下の顔がさらに険しくなる。

 ふふふ、なるほど俺の判断が素晴らしすぎて、追加の褒美を考えておるなぁ~。

 よいぞ、よいぞ~


「ゲイナス!」


 きた、きた、きた~

 領地か? 金か? 王家秘蔵の宝剣も捨てがたいぞ~


「はっ!」


「お主、何故ゆえにマキアスを追放したんじゃ?」


 おっと、さらにお褒めの内容確認か~まあいいさらに褒美が増えるだけだからな~


「は、陛下! マキアスめはこともあろうに外れスキルを引き当てました。本来であれば即刻打ち首にしても良かったのですが、王国の礼拝堂を外れスキル目の血で汚すわけにもいきませんからな。このゲイナスの配慮にて追放という最高の判断を下しましてございます!」


「はぁ~お主はそれでも親か?」


「いえ、外れスキルのマキアスとは親子の縁を切っておりますゆえ、もはや我が息子ではありません!」


 さあ、じらすな、じらすな~はよう褒美の話をきりだせ~


「では、マキアスはお主の息子ではないと?」


「はい! あんなクズスキル持ちは息子でもなんでもありません!」


 あ~もう。外れスキルのマキアスはどうでもいいんだよ!!


「なるほどな。よくわかった、下がってよいぞ」


「へ!?」


「聞こえんかったか? 下がってよい」


「へ!? いや…陛下っ!? へへぇ!?」


 俺は事態が呑み込めず、変な声を連発してしまった。


「あっと、そうじゃ。忘れるところじゃった。ソクアよ」


 お? おお~そうだろう、そうだろう。

 陛下も人が悪い。まずはソクアの【剣聖】スキルのお褒めからだな。


「我が娘リリローナに近づくでない」


「「へ!?」」


「半径100メートル以内に入れば牢屋行きじゃ」


「そ、それは何の冗談でしょうか…?」


「冗談? 言葉通りじゃ。近づいてはならん。お主の自慢の息子ソクアは、我が愛しのリリローナの前で変態行為をしまくったそうじゃな。本来なら即牢屋行きだが、リリローナはそこまでは望まんかったでな。感謝せい」


「ぬぅうう…」


 クソう、あの第三王女め。ソクアを惑わしよって、さっさと暗殺されれば良いものを…


「し、しかし陛下! 我が息子ソクアには【剣聖】のスキルがあります! 王国の未来を託すにたるスキルですぞ」


「なにを言うとるんじゃお主は? 頭でも打ったのか?」


「頭はご心配に及びません! それよりも【剣聖】の話です! 陛下!」


「あのな、人の価値は人によって決まるのじゃ。スキルによって決まるものではないぞ」


「は、はぁ…」


 なんだ? 陛下は何を言っているのだ? 意味がわからん。


「陛下! 俺…じゃない私が100メートルも離れたらリリローナ姫をお守りすることができません!」


 俺が困惑しているさなかに、ソクアが横から発言をする。

 バカ者が、俺を差し置いて勝手に話すんじゃない。


「ソクアよ、我が娘リリローナには特級騎士のマキアスに護衛を頼んでいるから大丈夫だ。お主の出る幕はない」


 ん? ちょっと待て? マキアスの奴が特級騎士だと!?


「へ、陛下。わたくしソクアも特級騎士です! 私の【剣聖】の方が優れておりますので、リリローナ姫の護衛にはぜひわたくしを!」


 状況が把握できんうちにソクアがペラペラと話を進める。


「はぁ、何言うとるんじゃソクアよ。なんでお主がマキアスより優れておるのだ? しかもお主は特級騎士でもなんでもないぞ」


「え、つ~か、俺は…じゃない私は今日、特級騎士になるのでは?」


「そんな予定はみじんもないわ」


「だって、外れスキルのマキアスが特級騎士になれたんでしょ! あんな奴になれて俺がなれないわけがないですか」


「ふぅ、まったくどういう教育をしていおるんじゃゲイナス。本当に同じ兄弟かのぅ。マキアスは王国発展に多大なる功績をあげておる。特級騎士になって当然じゃわい。お主は何かなしたのかのう?」


「無茶苦茶やってるぜぇ、じゃなくてやってます! 魔物から民を守ってやって、見習い騎士を育成してやって。え~と、え~と。あと魔人退治しましたっ!」


「んん? いまお主が言ったことはすべてマキアスが成したことであろう? もしかしてお主は王にウソをついておるのか? いまから牢屋でもいいんじゃぞ? どうする? 行くか? 牢屋?」


「ひぃっ! い、いえ…あの…その、リリローナ姫には近づきません!」


「ふむ、しかしマキアスの奴めあれだけの功績をあげて、一向に褒美を取ろうとせん。領地だけは与えたくてな。ゲイナスと親子関係が続いておるなら、お主の領土付近にとも思うたが、もう関係ないのじゃろ?」


「え? ええ…まぁ…」


「なら、王都の近場にしよ~と。直轄領から与えてやろう~ふふふん♪ さあお主らはもう下がれ」


 ぐぬぅ、なんなのだこれは!


 こんな屈辱ははじめてだ!


 なぜゆえに【剣聖】のスキルに注目しないのだ!


 マキアスが【剣聖】のスキルよりすぐれているだと?


 追放した俺の判断が間違っていたとでも言いたいのか!


 いいだろう、マキアスの実力とやらを俺自らが確認してやる。

 化けの皮をはいでくれるわ。

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