第41話 父(王)と娘(第三王女)
「ん? マキアスわしの話を聞いとるのか?」
「ふぇ? ふぁい!!」
僕はとっさに返事をしたものの、よくわからん声をあげてをしてしまう。
特級騎士という称号を授かってから、僕とエレニアはこの個室に連れてこられて国王陛下がなにやらお話をしている。
信じられないことが起こりすぎて、正直なところ僕の脳みその理解が追い付いていない。
「マキアス…とりあえず開けた口を閉じてね」
リーナが僕を心配して声をかけてくれた。
「ははは、まあ驚かせてしまったようで悪かったのう、マキアスよ」
「い、いえ! 特級騎士を頂いたうえに陛下のお部屋にまでお招き頂き…むにゅ」
う、言葉遣いが難しい…慣れないことすると噛む。
「マキアスよ。普通に話すが良い。ここはわしの私室じゃ、無礼講でよい。さて話の続きじゃが…」
国王陛下が僕の前に凄まじく豪華そうな箱を置いて、開いた。
「これは王家に代々伝わる至高の宝石じゃ、これをお主にやろう」
「そ、そんな高価なもの受け取れません!」
「なんじゃ、気にくわんか、では」
国王陛下が王国の地図をぼくの目の前で広げる。
「ほれ、好きな王家の直轄地を言うが良い。お主にくれてやるぞ」
「ひぃぃ、けっこうです!」
「なんじゃ、領地も気にくわんか。まったく欲のない奴じゃなぁ、男ならもっとギラギラせんといかんぞ」
「陛下! 僕は褒美欲しさにリーナ…じゃなくてリリローナ姫を護衛したわけではないです! 姫は僕の大事な友達…というかお知り合いみたいなもので…それで僕が勝手に手助けしただけで…それにもう特級騎士と騎士の剣まで頂いて充分です」
「いやいや、わしの大事なリリローナを守ってくれたのじゃ、この程度の褒美ではまったく足らんわい。にしてもこうなるとあとはリリローナをお主にくれてやるぐらいしかないのう…しかしのう…もう少しわしの娘でいてほしいのう…」
「ちょ! お父様!!」
「おっと、すまんこいつは言ってはならんことだったか、年を取ると物忘れがひどくてのう」
ん? 何言ってんだこの人? これは王族ジョークなのかな? そもそも王女様が僕をそんな対象として見るわけないじゃないか。
リーナが顔を真っ赤ににして俯いている。そんなに面白いのか? かなり高貴なボケなのかもしれない、うむ王族ネタは奥が深いぞ。
『こほん』
「おお、すまぬすまぬ、麗しいレディを放置しておったのう。というか女神さまかのう」
『はい、陛下。スキルの女神エレニアです』
「あらためて。クライツ・ロイ・エセシオン、エセシオン王国の国王じゃ」
国王陛下が私室に僕らを呼んだのは、例の機械兵の件である。概要だけリーナが先もって陛下に報告したらしい。
「ふ~む、やっかいじゃのう、古代兵器にフードの男3番か…」
エレニアから詳細な内容を聞いた国王陛下は、威厳たっぷりのヒゲを触りながらうなるように呟いた。
「エレニア殿、その機械兵とやらはどのぐらいの数が残っておるのかわかるかの?」
『そうですね、大戦時はかなりの数が製造されたので、一部の工場もしくは保管倉庫が今に至るまで残っていたなら数百から数千単位で存在しているはずです。世界各地にある遺跡も実は古代文明時代のものが多くてなかなか場所が特定できないんです』
「なるほどのう…では、我が王国の情報部を使い早急に各遺跡に異変がないか調べさせよう。あとは3番という機械人間の行方も探させるかのう」
「あの、国王陛下。リリローナ姫が狙われる理由は、心当たりがありますか?」
僕は、リーナの件について口を挟んだ。機械兵も重要案件だが、リーナのことも重要に違いないからだ。
「ふむ、マキアスよそれについても情報部に探らせておる。まあ、リリローナは優秀なうえ国民に人気のある王族じゃてな。様々な可能性を探らんといかんのじゃ」
「は、はい…なるほど…」
う~ん、様々な、か…王族で人気あるとなると嫌でも恨みを買うことはあるんだろう。僕なんかでは知りえない裏事情などもあるんだろうな。ふと、リーナを見ると心なしか緊張した表情で、膝に重ねた手がすこし震えているような気がする。
「リーナ」
僕はリーナの手の上に自分の手をそっと重ねた。
「マキアス、大丈夫よ。ありがとう」
リーナの表情から緊張が少し和らいだ様な気がする。これぐらいしか僕にはできないけど、少しでも役に立てたならそれでいい。
「ほぅ~、マキアスよ、わしの大事な娘とずいぶんと仲が良いようじゃのう~」
国王陛下殿が、僕とリーナが重ねあった手を、鬼のような形相でニタニタとみつめていた。
「あ、あの、陛下これはその…あの臣下としての、えと」
いかん、つい旅路のような友達感覚になってしまった。すぐに手を離さないと。
あれ? リーナさん?
いつの間にかリーナが重ねた手をしっかり握りしめてはなしてくれない。それどころか、なんか彼女の胸元に持っていかれそうになるので、必死に踏ん張る。リーナ陛下の前! 陛下の前! ていうか陛下の前じゃなくてもアウトだった。
「わしだってボディタッチはさせてくれんのに…。ふう、まあええわい。それよりもマキアスよ、お主にはエレニア殿とともに頼みたいことがあってな」
国王陛下からの頼み事とは、ある遺跡の調査だった。例の機械兵がらみの可能性があるため僕とエレニアに確認してほしいとのことである。
もちろん、国王陛下からのお願いだし、機械兵から人類を守るというエレニアの願いからも断る理由がないので準備が出来次第出発する運びとなったのだが、ひとつ問題が発生した。
そう、リーナも同行したいと言い出したのである。
「ねぇ、お父様、帰ってきたら一緒にお茶してあげるから、ね」
いやいや、そんなんで許可出るわけないでしょ、なに言ってるんだリーナ。王女様なんだよ。
「………う~む、むぅううううう」
―――王様、悩むんかい!!
「帰ってきたら肩もんであげるから、ねぇいいでしょ」
「う~む、肩もみかぁ、随分としてもらってないのう…むむむぅ…もうひと押し!」
―――王様、してもらってないんだ! ていうか追加要求するんかい!!
「もう! わかったわ! 帰ってきたらハグしてあげるから!」
「マキアス! 我が娘リリローナをよろしく頼むぞ! 必ず無事に連れ帰るのじゃ!」
ええぇぇぇ! ハグで釣られるの! いいの! 王様それでいいの?
「ちょ、陛下、まだ暗殺者たちの件も解決してないのに、リリローナ姫になにかあったらどうするんです!」
「ふむ、まあ特級騎士のお主がついとるなら大丈夫じゃろ、へたな護衛よりも安心じゃわい。それにのう王宮も安全ではないかもしれんからのう…」
国王陛下が複雑な表情で再びヒゲをいじっている。
「陛下…それはいったいどういう…」
「うむ、まあ今は確かなことは言えんのじゃ、全ての情報も揃っておらんでな。よって現状リリローナのそばにはお主がいることが最善なんじゃ」
僕はそれ以上突っ込んでは聞かなかった。にしてもリーナにせよ陛下にせよ僕への期待が大きすぎると思うけど。
「やった、またマキアスと一緒ね!」
『あきれた王女様ねぇ…』
リーナとエレニアがいつもの会話を交わしたところで、僕らは陛下に一礼して退出しようとする。
「うむ、そういえばお主、草原地帯に川を作ったそうじゃの?」
あ! 暗殺剣士相手に水分創成でやりすぎた件だ、あのあと本当に川ができてしまったらしい…これはさすがに怒られる!
「ちょうど、あの地区は水源の確保に悩んでおってのう、お主のおかげで解決じゃ。ようやってくれた。どうじゃ、「マキアス川」と名付けるかのう」
「いえ、それはあまりにも身に余ることです、どうかお考え直しください!」
「ふう、本当に欲の無い男じゃ。まあ出発まで王宮でゆるりと休んでいくが良い」
勘弁してくれ、マキアス弁当ですら恥ずかしすぎるのに、川の名前とか永遠に恥ずかしいじゃないか…
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