第42話 マキアス、王女の話を聞く
国王陛下と話した翌朝、僕らは王城のテラスで朝食をとっていた。
綺麗な庭園を前にしての食事。朝食なのにスプーンやらフォークやら良くわからん銀の棒みたいなのが並びまくっており、僕が悩んでいると、リーナが優しく使用方法を教えてくれた。
もっとテーブルマナーを学んでおけばよかった。
『わぁ~さすが王族! これ美味しいですよ! マキアス様!』
エレニアさんが豪華な朝食に興奮してらっしゃる。
僕の右にリーナが座り、左にはエレニアだ。2人とも横は譲れないと言い張るので横一列での食事なのだ。
エレニアは食事の時は実体化して食べるようになった。
ちなみにスキルプレートの時は、どうやって食事してたんだ?
『むふふ、まえから言ってるようにマキアス様と一心同体なんですよ。それはマキアスさまの食べたものを共有してぐふふ…』
ぐふふって…話が不穏な方向にそれたので、それ以上聞くのはやめにした。
ただエレニアの食事作法はとても優雅で美しかった。正直リーナにもひけはとらない。さすが女神さまといったところか。
「ま、ま、マキアス! ど、どう? 美味しい?」
あとなぜか第一王女のキルネシア様もいる。
僕がベチョベチョにしてしまって以来、なぜかついてくるのだ。
追放するネタでも探しているのだろうか、王族よくわからん。
良く考えたら、第三王女、女神、第一王女と、とんでもないメンツと食事しているぞ。
「でも、賑やかだからいいや」
僕は豪華な食事を堪能することに気持ちを切り替えた。
◇◇◇
「やあ、リリローナじゃないか」
食後の紅茶を楽しんでいる僕らに誰かが声をかけてきた。
「ナルスお兄様…」
心なしかリーナが今までとは違う声色になった気がする。
「ずいぶん大変な目にあったらしいね。君が無事に戻ってくれて心より安堵したよ」
誰だろう? リーナがお兄様というからには王子なんだろうけど。
「君が私のかわいい妹を救ってくれた特級騎士様だね?」
いきなり話をふられた僕はびっくりして、その場にて立ち上がり一礼して名乗る。
「ま、マキアスと申します!」
「はは、そんなにかしこまらなくてもいいよ。私はナルス・ロイ・エセシオン、この国の第二王子だ」
やはり王子か。ここ王族多いよ。王城だから当たり前なんだけど。
「お兄様、どういったご用件でいらしたのかしら?」
僕がほぼ棒立ち直立不動でいると、リーナがナルス王子に問いかけた。
「いやいや、特になにもないさ。しいて言えば、ぼくのかわいい妹の顔をみにきただけだよ」
「そうですか、見ての通り私はピンピンしているわ。ご期待に添えたかしら?」
期待? なんの話だ?
「のようだね。いや良かったよ。では私はここで失礼する。マキアス君、妹をよろしく頼むよ」
ナルス王子は優雅にマントをはためかせて去っていった。
なんか、いかにもっていう王子ぽい人だったな。まあポイというか本物なんだけど。
「マキアス、私の部屋に来て。少し話しておくことがあるの」
◇◇◇
うぉ~女子の部屋! 女子の部屋初心者がいきなり王女の部屋とか大丈夫なのか!?
しかしこれがリーナの部屋かぁ。ふむふむ、王族っぽい豪華な家具で固めれているが、どこか品のある女性らしい雰囲気のある部屋だ。
僕がキョロキョロしていると、ゾクっとする寒気に襲われた。
「ところでリーナ」
「なあに? マキアス?」
「その、うしろにいる人は…」
「ああ、メイドのミランよ。ミラン、マキアスに挨拶して」
リーナの後ろに立っていたメイドのミランさんが僕の前に出てきて、綺麗な所作でお辞儀をする。
「特級騎士のマキアス様。リリローナ様、専属メイドのミランでございます」
「ま、マキアスです。よろしくお願いします…」
うわ、めっちゃ睨まれているんですけど…さっきからの寒気はこの人の発する視線だ。
「このたびは、私の大事な大事な大事なご主人であるリリローナ様を救ってくださり、ありがとうございます」
そう言うとミランさんは僕のティーカップに紅茶を入れてくれた。
大事な3回言った…
実は朝食の時からミランさんはリーナの後ろに控えていたのだが、かなり気になっていた。怪しい動きをした記憶はないが、リーナと話をしている時になど刺さるんじゃないかというほどの強視線を浴びせてきてた。
こ、怖い…できれば早く部屋を出たい。変な汗をかいていると、リーナが口を開いた。
「では、お話を始めるわ」
リーナがいつになく真剣な表情になった。その綺麗な瞳が憂いを帯びる。
彼女の雰囲気が変わった事を感じると、僕も持っていたティーカップを置いて、呼吸を整えた。
「マキアスには、王族の現状を知っていてほしいの」
リーナはまず次期王様候補の話をしてくれた。
現在王族には大きく2つの派閥があるらしい。
1つはナルス第二王子の派閥。当然ナルス第二王子を次期王様に推す派閥だ。
もう1つはリーナ第三王女の派閥。まあリーナ自身は派閥を組んでいるつもりはないらしいが。
「え~と、その第一王女のキルネシア様や第一王子さまが次の王様候補じゃないんですか?」
「あたいは政治とか無理! 剣を振るのが好きだ。あと好きなことと言えば、う~ん魔物討伐とか、真剣の訓練とか!」
あ、この人は王様になっちゃダメな人だ…
「第一王子は、人前に出るのを嫌って王城から出ないのよ」
なんだそれ、王族って変わった人が多すぎるぞ…。
話をまとめると、王様候補は実質リーナと第二王子の二人ということだそうだ。
『へ~、リーナは次期国王候補なのね。まあガッツはあるし、それなりに可愛いくて、それなりにおつむもいいし』
エレニアさん、「それなり」とかつけるとミランさんの視線が強くなりますよ。
しかし、僕も失礼ながら驚きではある。リーナは聡明で美人だけど次期国王候補だとは思っていなかった。
「そうね、エレニアありがとう。王国は必ずしも長兄長女が王位を継ぐとは決まっていないわ」
「そ、そう。あたいのリリローナは優秀でかわいいの! すごいでしょ!」
「リリローナ様の人気は王国ナンバーワンです!」
第一王女とメイドさんが食い気味にセリフをかぶせてきた。2人の圧がすごい。
「ところで、ナルス第二王子さまはどんな人なの?」
「ナルスお兄様は頭のいい人よ。でも…」
リーナの表情に黒い影がさした。あまり話したくはないのだろう、今朝の王子に対する反応からも何かあるんだろう。
「う~、あたいあの男キライ」
第一王女も微妙な顔をしている。
『あまり良いうわさがないということね? というかいけ好かないやつよね。あの王子』
エレニアさんが、どストレートに言う。
「そうね…お兄様の支持層は主に領土拡張派の軍部や武器商人よ。ここ数年大量の武器を製造しているわ。王国の防衛に必要以上の量をね…」
「ん? それって、もしかして」
『戦争準備をしているってことね』
「ええ、マキアス、エレニア。そのとおりよ。おそらくナルスお兄様が王位を継承したら戦争をはじめるわ。それが、軍部の支持を取り付けて、武器商人を潤すためのものだとしても」
「戦争か…」
僕はそう呟くと、リーナの顔をみた。
「ナルス兄様が王位につきたがっているのは間違いないわ。そのためならどんなことでもするはずよ」
「どんなことでも…リーナ、なにか心あたりがあるの?」
「私が王都に出した手紙だけど、おそらくお兄様によって処分されてるわ」
手紙か、そういえばリーナが何回か出してたな。たしかに迎えの騎士団はなかなか来なかった。
「処分って…」
「私が二度と王城にもどれないようにしたかったのよ」
「それってナルス王子が、リーナ暗殺の首謀者…!? てこと?」
僕の問いかけに、リーナは黙って小さくうなずき、その視線を下に落とした。
「リーナ…」
彼女の顔をみて、僕はなんともいえない気分になる。
王族だからそりゃ色々あるんだろう。
だけどそこまでする必要があるものなのだろうか?
僕は追放されたけど、父上や兄上が死んでいいなんて絶対に思わない。
リーナの手をそっと握って、彼女をみた。青い綺麗な瞳が潤んでいた。
「リーナは必ず僕が守るから。安心してね」
「ええ、ありがとう…マキアス」
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