第38話 ゲイナス(マキアス父)視点、ソクア(マキアス兄)視点 俺様は最強?

 ◇ゲイナス(マキアス父)視点



 ルイガイア領主の館にて、マキアスの父ゲイナスは手元にある収支報告書を鬼のような目で睨んでいた。


 ピケット(領内内政官)の報告には「使途不明金の使用が多すぎます、務めてクリーンな領地経営を目指すべき」との但し書きがある。


 グシャ! グシャ! グシャ!


「何がクリーンだ! 領主は俺なのだ! 俺がルールなのだ! 領民はわしのために税金をおさめるのだ! どう使おうが俺の勝手だ!!」


 くだらん報告書をグシャっと丸めて、ゴミ箱に投げ捨てる。


 ピケットのアホにはほとほと愛想がつきる。俺が表も裏も支えているから我が領土は栄えているのだ。そんなこともわからんのか。


「クソ~~~!! あの使えん暗殺者どもめ! あいつらにいくら支払ったと思ってるんだ!!」


 使途不明金の原因である。


 リリローナ姫の暗殺にことごとく失敗しおって! なぜ俺だけがこんな目にあわなきゃいかん! なぜ優秀な俺がこんな理不尽なことになるのだ!


 フードのクソ男も行方をくらましたままだ。機械兵とやらもたいしたことないではないか。散々もったいつけてこのざまか。


「どいつもこいつも使えんやつらだ。俺の優秀さを少しでも見習えんのか、まったく」


「ゲ、ゲイナスさま!! い、一大事です!! 王都からの登城命令が!!」


 慌ただしく入室して来たのは、使途不明金を指摘してきたピケットである。


「ん? 王都からだと? なになに」


 俺はピケットの持ってきた書状をひったくって、目をとおす。


 書面には、「王城へ急ぎ参上せよ」。との文言しか書かれていない。


「何を慌てる必要がある? ピケット」


「ゲイナスさま、この呼び出しはおそらく、最近のわが領内は失態続きの件です。国王陛下から領内統治不行届きの叱責を受けることになりましょう」


 はぁ?


 不行届き? 


 陛下から叱責??


 こいつ何を言っている? わしはしっかりと領民から税を搾り取っているんだぞ、領主の鏡ではないか。何故ゆえに陛下から怒られるのだ? ついに頭がおかしくなったか?


「貢ぎ物程度で陛下のご機嫌が直るとは思えませんが、無いよりはましです。館の私財を売り払って、なにかしら用意せねば!」


「おい、ピケット。おまえ文字が読めんのか? 貢物などいらん、むしろ褒美を頂くのはわしの方だぞ」


「へ? ……………」


「頭の悪い奴だな! 我が息子ソクアが【剣聖】のスキルを授かったことに対する褒美だ!!」


「え? ……………」


「わからんのか! 【剣聖】のスキルを保有すれば他国より優位に立てるだろうが! 陛下はそれをお褒めになるのだ!」


「あ、はい……………」


 ピケットはポケ~と口を開けたまま、部屋を出ていった。まったく使えん部下をもつと苦労するわい。子供でもわかる理屈だろうに。


「さてと、愚息を呼びに行くとするか。なにせ【剣聖】のスキル持ちだからな」




 ◇◇◇




 ◇ソクア(マキアス兄)視点



 ガタガタガタガタ


 ブルブルブルブル



「この部屋は嫌だ。この部屋は嫌だ。この部屋は嫌だ。この部屋は嫌だ。この部屋は嫌だ」


 どうしてこうなった。俺様は【剣聖】のスキルを得て誰よりも強くなったんじゃないのか? 王国最強の戦士として尊敬されて、国中の俺様美女ハーレムを作って。リリローナを俺の物にして。


「なのになんだこれ? なにひとつ実現してないぞ、俺様の一番嫌いな部屋に閉じ込められて。なにをやっているんだ」


 この部屋は嫌だ、小さい時からマキアスの野郎と比べられてきた。いつもあいつが優れていた、いつもあいつには勝てなかった、いつもあいつにばかり女が寄っていく。そして俺は父上にいつもこのお仕置き部屋に入れられていた。


「母上だけが助けてくれた。この部屋に入れられた時もこっそり食事をくれた。いつかマキアスを超えることができると言い続けてくれた」


 しかしその母も数年前に死んでしまった。

【剣聖】を手に入れた俺を見てほしかった。だが、それはもうかなわない。

 ならば、死んだ母の分まで存分に【剣聖】で俺の時代を作ってやると1人誓った。


「やっと手に入れたんだ。誰よりも優れた人間の証である力を」


 なのになんだよ…なんなんだよこれ。

 俺はガタガタ震えが止まらない体を必死に抑えながら、自分の手を見つめた。


 あってはならない、絶対にあってはならないが、ひとつの疑念が脳裏によぎる。



「もしかして…俺様はそこまで強くないのか…?」



 その時、凄まじい勢いでお仕置き部屋の扉が開け放たれた。


「ち、父上…」


 幼少のころから恐怖を叩き込まれてきた人物が俺の目の前に立っていた。


「さっさと出ろ! すぐに出立の準備だ!」


「え? え? ち、父上。ど、どこに行くのですか?」


「王都だ! 国王陛下からの呼び出しだ! おそらくは、おまえの【剣聖】のスキルが認められたのだろう。陛下からお褒めの言葉と褒美を頂く! 早く準備をしろ! 汚い鼻水をしっかりふけ!」


 父上はそれだけ言うと、さっさと部屋を出て行った。



「へ、へへ、へへっへ~~~」



 そうか! そうか! そうか! そうか! そうだよな! 俺様の【剣聖】は世界最強なんだ! やっぱ俺様は凄いんだ!


「ふひ~~~見てろよマキアス! 国王陛下に認められて、リリローナを俺の物にしてやる!」



 父と子は己の考えに一切の疑問を持たず、ニヤニヤしながら王都へ出発するのであった。

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