第37話 女神の目的とマキアスの決意

 現在僕らは王都へ進む馬車の中にいた。周りは精鋭の王国騎士団が囲みつつ移動している。


 どうやら僕は罪を問われて呼び出されたわけではないらしい。国王の呼び出し書面をみて動揺しまくっている僕にリーナが駆けつけてくれた。彼女は悪いことなわけがないと言ってくれたので、とりあえずは落ち着いたところである。

 ……国王陛下が僕を呼びだす理由が全く思い浮かばないけど。


「やった~マキアスと一緒にお城~へへへ」


『ちっ、おっぱい王女とバイバイでしたのに…王め余計な事を』


「な~に、エレニア? 聞こえてるわよ~マキアスと2人きりなんてさせないんだからね~」


 馬車の中は、威厳ある王女も淑女な従者(女神)もいなかった。僕の良く知るいつもの2人だ。ちなみに馬車への同乗はリーナが無理やりねじ込んだらしい。騎士団のみなさんの視線が痛かったが、王女さまになにも起こらないから安心してほしい。馬車が揺れてばい~ん祭りになるとかもない、そもそも高級な馬車はあまり揺れないと聞いている。


「ふふ」


 いつもの2人をみて、僕は思わず声が漏れてしまった。


「あ~マキアス! いま私の事バカにしたでしょ!」


「いや、そんなことないよ。王女様なリーナもいいけど、僕は普段のリーナのほうがいいなって思ってただけだよ」


 ちなみにリーナは先ほど着替えをすませて、綺麗なドレス姿になっている。どこからどう見ても完全に王女様だ。


「え!? やだマキアスたら、そんなこと言われたら私…どうしよう…」


 なんかリーナは頬を赤くして、モジモジしている。なるほど、王女な自分をみられて照れているのだろう。王族は大変だな、人前での威厳とか色々ありそうで。


『まあまあ、さっそくいつもの勘違い王女ですか。いつものあなたらしくていいですけどね』


 エレニアもいつものリーナの方が好きなんだろう。口は悪いけど間違いなく2人は仲がいいからね。そんなエレニアに騎士団が来てから据え置きになっていた疑問を口にしてみる。


「いや、しかしエレニアって女神だったんだね。ずっとスキルプレートだと思ってたよ」


『はい、マキアス様、自己紹介が遅れましたね。私はスキルの女神エレニアです。まあこの時代ではエレヌリアとも呼ばれているようですね』


「「スキルの女神!?」」


 僕とリーナ同時に驚きの叫びをあげた。


『はい、この世の人たちが授かるスキルは全て私が授けていますよ。といってもほぼ自動で振り分けられるので私がどうこうする場面はほとんどないですけどね』


 エレニアはさも当然のように言ってるが、なにそれ。めちゅくちゃ凄い人じゃないのか…。まあ女神というのだからそもそも人知を超えた神様なんだろうけど。


 う~ん、改めてエレニアを見ると僕がスキルを授かった教会の女神像ぽい衣装だ。ちなみに草の冠は騎士団が来る前に外してもらった。さすがにこれつけてたら目立ちすぎるからね。


「エレニアは何故スキルプレートになっていたの?」


『探していいたんですよ、世界を救える人を』


 ん? どういうことだ? 


『数千年前に大きな戦争が起こりました、人と機械兵の戦争です。当時の人類はいまより高度な科学力をもった文明でした。私は女神として人間とともに機械兵と戦っていたのです』


 そ、そうなんだ。ていうか数千年てエレニア何歳なの!


「女神が人間の味方をしていたってことよね? いいの? 神様がそんなことして?」


『リーナ、たしかにあなたの言う通り、天界の神々は基本的に下界の争いには関わらないわ。私は自分の判断で介入したのでもう天界には戻れないわ。』


『機械兵はもともと人間が作り出した兵隊ロボットなのよ、魔物を駆除するためのね。』


「でも、人間と機械兵は戦争になったんだよね?」


『マキアス様、そうですね。機械兵は魔物駆除に大きく貢献しました。でもそのうち機械兵を統率する機械の指揮官たちが知恵をつけ始めたんです。』


「それって、あのフードの男? 3番ってやつのこと?」


『ええ、当時指揮官アンドロイドは1番から12番まで12体いました。3番はその生き残りです。指揮官たちは力で劣る人間たちに支配されるのは合理的でないとの考えを持つようになり、魔物と同じく人間も駆除すべきと反乱を起こしました。これが戦争の始まりです』


 フードの男も数千年生きているってことか、機械て長生きなんだな。


『私は機械兵に圧倒される人間たちにスキルを与えることで、なんとか生き残る希望を与えようとしました。大きな犠牲を出しながらもなんとか機械兵のエネルギー工場を破壊することで、彼らを機能停止にすることに成功したのです』


「そうなんだ、それとエレニアがスキルプレートになったのはどう関係しているの?」


『1人の天才的な人間がいました。彼は開発者と呼ばれており、自身のスキルを研究してスキルを新たに加える技術を生み出しました。彼はそのスキルの事をコードと呼んでいました』


「え? エレニア? それって…」


『そうです、【万物創成コード】のことです。彼はスキルの計算式を解明してより純粋な力を引き出すことに成功したんです』


 エレニアが懐かしい思い出を話すように口調が柔らかくなっていく。


『私は開発者と行動を共にするようになりました。人類は機械兵との戦いに終止符を打ちましたが、世界は汚染されてしまい、生き残った人間もほとんどが死に絶えてしまいました。完全に文明が崩壊してしまったんです』


「でも、僕らはこの世界で生きているし、今って汚染されているのかな?」


『汚染されていませんよ、安心してください。 開発者は【万物創成コード】を使用して世界のすべてを元に戻そうとしたんです。戦いに使うのではなく、創成して元に戻そうとしたんです』


「世界を元に戻す!? そんなことできるの!」


『全てのコードを獲得すればできると信じていました、彼は…』


 エレニアは少し言葉に詰まりつつも話を進める。


『コードの数は星の数ほどあるんです。全てを獲得するには人間の寿命では足りないですからね。それでも彼はあきらめずに【万物創成コード】の完成を目指し続けました。彼は汚染を除去することに成功したあとに亡くなりました。彼自身が汚染地区で長く活動してしまいましたから…止めても聞かないんですよね。あの人』


 エレニアにとってその開発者って人は大事な人なんだろうな、開発者の話をする時の彼女の表情は懐かしさと嬉しさが混じりあったような顔をしている。


『大戦後、自然は長い時間を経て回復してきました。そして人間もまた新たな文明を築きはじめています。それが今の世界です。』


「エレニアはなぜスキルプレートになっていたの?」


 僕は再び冒頭の質問を繰り返した。


『彼、開発者が死んでから【万物創成コード】のスキルは1人の人間にずっと引き継がれてきました。その人が死んでまた次の人へ。私は実体化するのにとても力を使います。だからスキルプレートとして、歴代のスキル保持者とともに行動をともにしていました』


 だけどエレニアは僕の時に実体化した。


『マキアス様なら大丈夫だと思ったんです』


「え?」


『コードを正しく使うことのできる人だって確信したから』


 だから実体化してくれたのか。


『機械兵が活動を始めています。どれほど生き残りがいるのかは不明ですが、絶対に前の世界のような悲惨を繰り返してはいけません』


 少し前にエレニアが僕やリーナと話せれば楽しいなといった言葉。それはエレニアが僕らの前に姿を表すということだったのか。そして「機械兵」があらわれたということは、エレニアの経験したかつての悲惨な争いになってしまうかもしれないということを危惧してのことか。


「じゃあ、僕がスキルを授かった礼拝堂に聞こえてきた声って…エレニアだったのか」


『ふふ、そうですよ。マキアス様、世界を救ってくださいね』


 エレニアは屈託のない微笑みとともに僕の手をそっと掴んだ。


「エレニア、大丈夫だよ【万物創成コード】を完成させないといけない世界になんか絶対にしないよ」


 僕はエレニアの手を強く握り返した。


 このあと、揺れないはずの高級馬車が大揺れして、王女と女神の間に挟まれまくるという「ばい~ん祭り」になった…。


 相変わらず締まらないや。

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