第30話 王女は肉弁当が好き
無人島でリバークロウと魔人を倒した僕らはそのまま船で海路を進み、港町ルナビーチに到着していた。もうここは父上のゲイナス領ではない。
ちなみに王城の騎士たちは一向に来る気配がない。リーナは僕らが出航した港町リマンで再度王城への手紙を今度は姉のメイド宛に出した。何かしらの妨害でリーナのメイド宛の手紙が陛下に届いていない可能性を考えてのことだ。だが、いずれにせよあまりあてにはできないだろう。
いったん昼食をとってから、すぐにでも王都への街道に向かう予定だ。
「王都まであと少しか、だいぶ海路で稼ぐことができたね」
生まれ育った領地から出たこともあるし、王都に行ったこともあるがそれは僕がゲイナス家の息子としてだった。追放されて1人のマキアス個人として領地を出ることにはなるとは夢にも思わなかったな。
正直なところ追放という2文字は、今の僕にとってはもはや過去のことになった。
僕にはリーナを王都に無事送り届けるという目的がある。
そのことに全力を尽くすだけだ。
『あとは陸路だけですよね、マキアス様! …はあ…ようやく地に足が着いた!』
「やった! マキアス! 陸よ! 町よ! お昼買いましょう!」
スキルプレートと王女さまは船酔いから解放されて浮かれ気味なようだ。まあ難しいことを考えるのはここまでにして、お昼を探すことにしよう。
ルナビーチも僕らが出航したリマンに負けず劣らずの活気ある港町だった。商店街もかなり大きく、色々売っているようだ。
「マキアスは何食べたい? わたしはお肉かな~でも串焼きも捨てがたいのよねぇ~あとはローストビーフかな」
王女様はどうしても肉が食べたいらしい。まあ船旅では硬いビスケット(乾パン)に豆と水ばかりだったので、気持ちは良くわかるけどね。
「そうだね、お肉は食べたいけどできれば出来合いの物にしよう。馬車の準備もあるしあまり食事に時間をかけられないしね」
「わかったわ! 肉弁当にするわ!」
そう言ってリーナは目の前にある露店の弁当を物色し始めた。うむ、己の欲に忠実で良い。
「おお、けっこう種類があるんだね」
弁当の具材の種類が想像以上に豊富でどれにするか迷うな、僕もリーナのように肉系にしようか。
う、まさかマキアス弁当とかないよね…。
『マキアス様のお弁当を置かないなんてセンスを疑いますね、まあ広まるのも時間の問題でしょうけど』
僕の心を読んだのか、スキルプレートのエレニアさんがどんでもないことをおっしゃる。絶対に広めないでほしい、僕の心が死んでしまう。
あれこれ物色しつつ、昼食を確保した僕らは、海岸沿いにある砂浜で食事をとることにした。丁度大きな木が後ろにあるので日陰になっており、浜風がほどよい気分にさせてくれる。
「マキアスは鶏肉と野菜のお弁当にしたのね」
「ああ、そうだね。船では新鮮な野菜が食べれないかったから」
「じゃあ、早速食べましょ」
ウキウキしながら食べ始めるリーナ。たしか買うときに「肉祭り弁当」とか言ってたような気がする。僕も食べよう。
僕がモクモクと食べていると、リーナがお肉を一切れ僕の弁当に載せてくれた。
「じゃあ、僕のもあげるよ」
そんな僕らのささやかなおかず交換をみたのかエレニアが独り言のように呟く。
『なんですか、そんなことして。お行儀の悪い王女様ね』
「ふふ、エレニアは食べれないものね~羨ましいんでしょ」
『あ~ら、何を言ってるのかしらリーナ。わたしはマキアス様と精神的につながっているのよ。マキアス様が召し上がった食事の味だって共有できるのよ』
「ええっ!? きょ、共有しているの…!?」
そんな話初めて聞いたぞ…てことは食事以外にもあれやこれや全部エレニアには筒抜けってことなのか! なんともいえない事態に僕は急に変な汗が出てきた…決して1人の時に変な事しているわけではないけど。
『マキアス様たら~そんなに照れなくてもいいんですよ。あ、でも唾液の味とかも共有しているから、これってキスしまくっているようなものですね~きゃっ♡』
まじか! そうなの!? いや…え?…う?…いかんなんか思考回路がおかしくなってきた…
「な、なにそれ…ズルい…じゃなくてヘンタイスキルプレート!」
『あら? 羨ましいのかしら? リーナさん?』
羨ましい要素が一切見当たらないが、僕は少し冷静になってみた。
「エレニア…ウソだね…」
よくよく考えたら、エレニアが僕と色々共有しているなら船酔いなんかしないはずだ。だって僕は全然平気だったんだから。それにこれまでの付き合いでなんとなくエレニアの性格はわかっているつもりだ。いつものリーナいじりだな。
『ふふ、バレました~』
「ちょ、な、なんでそんなウソつくのよ! あせったじゃない!」
『ん? なんでおっぱい王女があせるのかしら?』
「そんなこと…! マキアスのはじめては私が…ってなんでもないっ!」
『いつも無駄にでかいおっぱいをマキアス様にひっつけるクセに、肝心なところははっきりしないお子様王女なのねぇ』
「う………」
リーナは頬を真っ赤にして僕を横目でチラチラ見ながら、言葉にならなないうめき声を上げている。2人の会話は良くわからないが、とりあえずエレニアと僕の全てが共有されていないことにほっと胸をなでおろした。
「そういえば、エレニアは食事をしなくても大丈夫なの?」
よくよく考えれば、スキルプレート自体が話すという意味不明な状態だが、意思がある以上は何かしらの生命維持をしなければならないんじゃなかろうか。
『まあ! マキアス様は私のことを気遣ってくださるのね、愛を感じます! 深い愛を感じますよ!! ご安心ください、あなたのエレニアは食事などは不要ですよ。厳密にはマキアス様の生命力から少しだけエレルギーを頂いているので特に問題はありません。身も心もマキアス様と一心同体ということですね♡』
「そ、そうなんだ。たしかに食事と言ってもどうやって食べるんだって話になるしね」
僕のエレニアうんぬんは聞き流すしつつ、素直な感想を口に出す。
「一心同体とか聞き捨てならないけど、こんなに美味しいお肉が食べられないのはちょっと可哀そう…」
『そうね、1人の女性としてマキアス様やリーナとお話や食事ができる日がくるかもしれないわね。でもその時はたぶん…』
「エレニア?」
『いえ、なんでもありません! さあさっさと食べて、このお子様王女を王都に送り届けましょう』
エレニアの最後の言葉が良き聞き取れなかったが、いつもより不安の混じった口調だった気がした。だが、今はリーナを無事王都に送り届けないとな。僕も静かに頷いて出発の準備に取り掛かった。
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