第29話 ゲイナス視点(マキアス父) 俺は判断を間違えない

 マキアスがリバークロウと魔人を退治した数日後。


 ルイガイア領主の館にて、マキアスの父ゲイナスと兄ソクア、そして内政官のピケットが先日のリバークロウ討伐の報告会を行っていた。


「うむ! 久しぶりに良いワインではないか、ピケット!」


 俺は久々にうまいワインが飲めて上機嫌だった。それにこの箱詰めのつまみもなかなかにうまい。


「は、マキアス様が港を封鎖していたアイランドタートルを討伐してくれたおかげで領内の物流が戻りつつあります」


「む…あのハズレスキルのマキアスが? 笑えん冗談を言うな、ピケット。ソクアの【剣聖】のスキルでもあるまいし」


「いえ、あいつ…ではなくソクア様では、天地がひっくり返っても無理…ではなく難しいかと。討伐したのはマキアスさまです。正確には追い払ったとのことですが」


 アイランドタートルを追い払っただと? 

 あの外れスキルのマキアスが??

 あり得ん…神話級の怪物だぞ。わしもかつて一度だけ奴を見たことがあるが、人間がどうこうできる怪物ではないぞ…おそらくは、怪物自らが移動しただけだろう。まったくバカ領民どもは騙されやすくていかんな。


「ふん、まあいい。さっさと今日の本題であるリバークロウ討伐の報告を済ませろ。せっかくのワインが不味くなる」


「は、報告を続けます。領内の海岸線村落を襲撃していたリバークロウはマキアス様によって討伐されました。これで村落への襲撃もなくなり、海路もより安全に航海ができるようになりました。ありがたい限りです」


「あ? マキアス? ピケット、何をいっているのだおまえは? リバークロウはソクアが討伐したと聞いておるぞ、ソクア本人からな」


「いえ、討伐したのはマキアスさまで間違いございません。一部の領民からはすでに「英雄」の二文字で呼ばれているとか。ゲイナスさまが召し上がられているものはマキアス弁当なるものですよ」


「なにが英雄だ! なにが弁当だ! おい! ソクア!!! これはどういうことだ!!! まさか前回に引き続きまたウソの報告ではあるまいな!」


「ひっ! ち、父上違います! 間違いなく私が討伐したのです! マキアスの奴が卑劣にも手柄の横取りをしたのです!」


 ピケットは報告書に再度目を通して、「ふむ」とうなずきつつ口をひらいた。


「それは報告と食い違いますね。ソクアさまはリバークロウとの戦闘を途中放棄して討伐隊を置き去りにして逃亡したとありますね。村長の家を全壊させて、その他の家にも損害を与えたと。そして最終的にリバークロウにくわえれれてどこかに連れ去られたと」


「なんだと…ソクア…それは本当の事なのか?」


「てめぇ! ピケット! この野郎!…ひぃいいいち、父上…これは違うんです!」


「何が違うのだ?」


「ピケットが数少ない酷評を報告しているだけです! おれさま…いやわたしを村人たちが称えないはずがありません!」


 ピケットが報告書に再度目を通し、再びふむとうなずいた。


「なるほど、ソクアさまの言う通り、全ての声は報告出来ておりませんね」


「おらぁ! なに隠してんだよ、ちゃんと全部言えてんだ! 使えねぇ奴だなぁ! おまえわ」


「では…」


 ソクアは両腕を組んで、ピケットの報告を自信満々のニヤケ顔でうずうずしながら待っている。


「急に押しかけてきたくせに、わたしたちが提供したお酒や料理に文句しかいいません、お酒と料理に謝ってください。匿名希望 女性」


「…」


「急に押しかけてきて宿代も払わずに無銭宿泊をされました。あとトイレの使い方が酷すぎます。どうやったらあんなに汚くできるのでしょうか? トイレに謝ってください。匿名希望 女性」


「……」


「普通に目つきがキモいです、あとむやみやたらと体を触らないでください。領内の女性全員に謝ってください。匿名希望 女性」


「………」


「ピケット! なに言ってんだ! 俺様がありがたく食事してやって泊まってやって触ってやてんだろがぁ!」


「まだありますが? どうしますか?」


「いらねぇよ! 後半ほぼ悪口じゃねぇか! ぎゃっ!」


 俺はソクアの頭をつかみ、そのまま体を持ち上げつつ再度問う。


「おい、ソクア? 失敗したらどうなるかは覚えておろうなあ?」


「ひっ! 父上! これは違う…まって」


 わめきたてるソクアの頭をつかみつつ、護衛騎士を大声で呼びつけた。


「こいつを例の部屋に閉じ込めておけ。俺が許可するまで開けるな!」


「ひ、ひぃいい、ち、父上…あの部屋は嫌だぁあああああああ」


 ソクアは鼻水を垂らしながらガン泣きで、護衛騎士に引きずられていった。


 くそっ、イライラする。リリローナの暗殺は成功しない。ソクアは偉大なスキルを何故かうまくつかえん。追放したマキアスの名前ばかりが聞こえてくる。なぜ誰も俺の指示通りにできんのだ? これだけ正しい判断を下してやっているというのに。




 ◇◇◇




「おい、いい加減出てきたらどうだ? もはやこの部屋にはわしと貴様しかおらんぞ」


 部屋の隅の空間が歪み、フードを深くかぶった男が現れる。


「ふむ、少し情報を整理しててな。確認するぞ、我々のターゲットであるリリローナ第三王女は貴殿の息子と共に行動している」


「そうらしいな」


「貴殿の息子が、我々の情報にあったすご腕の魔法使いであった」


「はぁ、おまえもか…そんなわけがないだろう。だいたいあいつは魔法なんぞ使えん。いずれにせよソクアの情報だけでは何とも言えん。あんな追放された外れスキル持ちが、そこまでの力を持っているわけがないからな」


「しかし、ジャイアントロックをはじめ、数々の魔物を倒し、はてはアイランドタートルまで退けた。これはどう考えても尋常ではない力の持ち主であろう」


「ふざけるな! そんな力があればこの俺が追放するわけなかろう!」


「………が、貴殿の送り込んだ暗殺剣士も全て撃退されている」


「そんなものは偶然だ! 【剣聖】でもない外れスキルが正攻法で私の送り込んだ暗殺者どもに勝てるはずがない!」


「といってもな…現にターゲットの暗殺に失敗している。わたしもあの方への報告義務があるのでな」


「わかっているわ! すでに暗殺剣士を集結させている最中だ。全力で王女を始末する!」


「しかし、そうなると貴殿の息子殿も殺害することになるが良いのか?」


「ああ? おまえもピケットと同じく脳みそがないのか? 外れスキルだぞ! そんな奴が俺の息子であっていいはずがないだろう。 安心しろ、今度こそ決着をつけてやる!」


「なるほど、ではその結果を待ってあの方に報告するとしよう。わたしも部隊に同行させてもらうぞ、貴殿の息子が真の脅威かこの目で確認する必要があるからな。状況によっては例の人型を試運転させる機会になるかもしれん」


「ふん好きにしろ。俺の大事な金を使って暗殺剣士全戦力を投入するのだ。貴様の人形が出る幕などないがな」


「ああ、そうなることが一番だがな」


「くそ…にしてもマキアスのやつめ、追放しても俺の足を引っ張りおって…【万物創成コード】だったか? 意味不明のハズレスキルのくせに…」


「なるほど領主殿は追放する相手を間違えたか…」


 フードの男がピクリとしてから、ぽつりと呟いて姿を消して去った。


 ふん、俺が間違った判断をするわけないだろうが。あいつは追放して当然の外れスキル持ちだ。

 俺は誰もいなくなった部屋で残りのワインを一気に飲み干した。

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