第31話 暗殺剣士軍団は流される
「ふう~気持ちいいなぁ~、王都の近くにもこんな広い草原があるんだね。」
「そうね、マキアス。この草原地帯を抜ければ王都の直轄領よ」
「うん、あと少しで王都だね」
港町ルナビーチを出発して10日ほどが過ぎた。僕は馬車から周囲一面に広がる草原を見つつ、無事にリーナを王城へ送り届けることができそうなことに少し気が緩みそうになった。
「いや、何考えているんだ僕は…まだ油断はできない」
「なに? 何か言ったマキアス?」
リーナの綺麗な銀髪が風に吹かれて流れるように波打っている。無事王都にリーナを送り届ければお別れの時がくる。色々な事態が重なって彼女と旅することになったけど、リーナは僕にとても感謝してくれているし、巻き込んで申し訳ないという気持ちも感じ取れる。
でも本当は僕の方が感謝しないといけないんだよな。
「うん、いやなんでもないよ。ちょっとリーナのことを考えていただけだから」
「へ?? わたしのこと?? な、何を?」
リーナと旅をしたからこそ、僕の心は追放というどん底から解放された。だから僕の方が感謝しないといけないんだ。
「ありがとう、リーナ」
「え? え? えと? マキアス?」
『はいはい、またイチャイチャですか? マキアス様も言葉を選ばないと、単純リーナがなんか勘違いしちゃいますよ』
「な! なによ! 勘違いって! エレニアこそ毎回邪魔してきて、狙ってるんでしょ! いいところなんだから引っ込んでなさい」
『ねらう? まったく単純王女ですね。わたしはマキアス様のスキルプレートだからもともと一心同体なの。何回同じこと言わせるのかしら』
「まあまあ、僕は2人とも大好きだよ」
「きゃ! マキアス~、そ、それって…」
『マキアス様にそんなこと言われたら♡』
リーナの顔がとても赤い、あとスキルプレートも若干あついし。まあこの二人が仲の良いことは知っている。ぼくはそんな2人が大好きだ。
そんな他愛もないやり取りを楽しみながら馬車を進めていた僕らだったが、そんな時間も終わりを告げることになる。
前方に複数の人影がみえた。あからさまな殺気を放っている。
『マキアス様。あの者たち、あきらかに不自然ですね』
「そうだね、リーナも気を付けて。普通に通してくれればいいだけど」
そんなわけないか。
どうみても通りすがりの旅人いう風貌ではない男が3人、僕らの進む道に立ちふさがっていた。
「よう、小僧! いい天気だなぁ」
真ん中の男が僕らにむかって声をかけてきた。腰には帯剣、重装備の鎧。どう考えても通りすがりの旅人ではない。
「ええ、いい天気ですね」
やり過ごそうと馬車を横道に入れようとするが、進路を阻んできた。
ふう、やるしかないか。
「まあそう焦るなよ、俺たちはそこのべっぴん姉ちゃんに用があるんだよ。にしてもお姫様みたいにきれいだねぇ、いや本物のお姫様だったかな」
男たちはニヤニヤとしながら、抜刀して声をあげる。
「火の暗殺剣士 バーナー!」
「土の暗殺剣士 ソイール!」
「氷の暗殺剣士 スイア!」
さらに馬車の後方からも声が飛んできた。
「弓の暗殺剣士 アチェリー!」
「木の暗殺剣士 ボクトン!」
「マキアス! 後ろにも2人いるわ!」
リーナが後方をみながら僕に状況を教えてくれた。
『暗殺者なのにまた名乗っている…こんな奴らにお金払う雇い主ってバカなの?』
エレニアさんに色々言われているが、こんな見晴らしのいい場所で襲ってくるということは、自身の力に絶対の自信があるからだ。また、絶対に逃さないという意思の表れでもある。
「おい! グダグダとうるさいぞ! 女! おまえはここで消えてもらう! ははは~王女に産まれたことを後悔するんだな! たっぷり可愛がってから惨たらしく殺してやる!」
火の暗殺剣士バーナーが剣をかかげつつ、口角を引き上げてニヤリとする。
「ねえエレニア、うしろの奴なんか弓ぽいの持ってるわよ、弓で剣士てどういうつもりなのかしら」
『たしかに良くわからない設定ね。隣の奴なんか木刀持ってるわよ。木の剣士だから?』
「『マキアス! とりあえずうしろ2人は変な奴よ!』」
リーナとエレニアの声が絶妙にはもられつつ、こだました。
うしろの剣士さんたち、好き勝手言われてますよ。火のバーナーさんがイライラしはじめてるから2人ともそのぐらいにしておこうね。
「なめるなよ、ガキどもが! 暗殺剣士の恐ろしさを思い知らせてやる! やっちまえ!」
前方にいた3人が一斉にこちらに突進してくる。
「土の暗殺剣技! 砂嵐!」
敵の斬撃を受け止めたとたんに、砂の嵐が吹き荒れて巻き込まれる。
「ぐっ…目が…」
痛い!
これは痛い!!
滅茶苦茶に目が痛い!!!
「エレニア! す、【水分創成】!」
うおぉぉぉ! 痛すぎる! 地味に強力な攻撃だそこれ! なんとか目を洗いたい―――!
「ごぼごぼ~~~ふきゃ~~~~~~~~~~~~~」
なんだ土の剣士の声が遠くなっていくような?
いや、そんなことより目を洗いたいから!
『マキアス様! ちょっと加減してください! 多すぎます! もう土のなんとか剣士はどっかに流されちゃったから!』
「いや、そんなこと言ったって、目が痛すぎるよ!」
痛い! 痛い! 【水分創成】【水分創成】!
「お、おいなんだありゃ、水魔法か? いや滝魔法か?」
「へ、水魔法使いか。残念だったな氷の暗殺剣士スイアさまにとっては水はなんの役にもたたないぜ! すべて凍結させてやる! 氷の暗殺剣技! 氷結斬!」
「マキアス! 氷のなんとか剣士が水をこおらせてはじめてるわ!」
「む、リーナ! ちょっとまって! その前に目が…うぅ…」
「そらそらそら~、どうだ俺さまの氷結斬は! そらそらそらそらそら~」
「もうちょい水が足りない! 【水分創成】!!」
僕はより力を込めて【水分創成】を発動させた。いい感じで出てる! これなら目の砂も洗えるぞ!
「そらそらそら…ごぼごぼ~~ふきゃ~~~~~~~~~~」
なんだ氷の剣士の声が遠くなっていくような、いやそんなことより早く目の砂取りたい!
「もうちょい! 取れそう!」
「くそ! ソイールとスイアを一瞬でやるとは! だが俺様は同じようにはいかないぜ! 火の暗殺剣技! ヒートブレイド!」
『マキアス様! 火のなんとか剣士の剣が燃えてる!』
ぐ、目を洗っている最中だと言うのに火事か!?
「こうなったら全力だ! 【水分創成】!!!!!」
「そしてくらえ火の暗殺剣技最大奥義! ヒートクラッシャ…ごぼごぼ~~ふきゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
なんだ火の剣士の声が遠くなっていくような? よしようやく視界が回復してきた! 回復したばかりの僕の視界には先ほどとは違う風景が飛び込んできた。
「え? あんなとこに川あったけ? エレニア?」
『マキアス様…川ができてしまいましたね…』
「あれ? 敵が2人しかいない!? もっといたでしょ? リーナ?」
「マキアス…3人とも流れていったわ…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます