第23話 マキアス、気合で隕石の軌道を曲げる

「ぼ、ぼうず!! 無詠唱でなんちゅうもん作っとるんじゃぁあああ!!!」


『マキアス様、目標を指定してください』


「目標! アイアンゴーレム10体!!」


『目標を捕捉、着弾まで50秒』


「うぉおおおおお、結界! 結界! 結界!」


 おじいさんが無我夢中で結界を多重展開しまくる。

 しかし上空まで伸びた結界は、地上に迫る真っ赤な隕石に次々と押しつぶされていく。


「おじいさん! 結界が消えてく!!」


「やっとるわい!! 結界! 結界! 結界! 結界! 結界! 結界! 結界!」


 消える! 消える! 消える! 消える! 消える! 消える! 消える!



『着弾まであと40秒』


「がぁあ! ぼうず!! ガチの隕石出す奴があるか! あんなもん囲えるかい! あと聞いてくれ!」


「なに!」


「魔力が切れてもうた…もう結界は無理」


「ウソでしょ…思い切りやっちゃったのに…」


『マキアス様! 隕石が大きすぎます! リーナも子供たちもおじいさんも教会も港町も消し飛びますよ!』


 つまりこのままじゃ全部消し飛ぶってことだ。


「エレニア! 目標変更だ! できる限り遠くの海に変更してくれ!」


『一度指定した目標は変更できません! すでに隕石は目標に落下を開始してます! 着弾まであと40秒』


「え、エレニア~!」


『手動でいきます!! うるぅううううううううううう!!!!!』


 エレニアがすさまじくうなり始めた。今まで聞いたことないぐらい野太い声出してる…


『マキアス様も手伝ってください! なんとか海の方向に軌道をずらすんです!』


「わかった! でもどうやって?」


『気合しかありません! はやく!』


 まじか…僕は全力でスキル発動して、落下中の隕石に干渉する。


「ぐぎぃ、硬いいぃぃぃ」



『着弾まであと30秒』


 上空全てが真っ赤な色に染まっている。以前使用した時と同じだ。


「さあ、子供たち私の周りに、この世が終わっても私たちはいつもまでも一緒です。さあ神に祈りましょう」


 シスターが神に祈りはじめてしまった、やばい絶対にこの子達の未来を奪うわけにはいかない。



『着弾まであと15秒』


「はわわわわ~なんだぁようあれ~聞いてねえぞぉ~こんな気ちがい野郎がいるなんてぇ~、神様~助けてくれよぅ~」


 何故かテッケンも神に祈りだしていた。いや、おまえは違うだろ…



『着弾まであと10秒』


「マキアス! 大丈夫よ! あなたならできるわ!」


 リーナだけは、いつでも信じてくれる。

 ぜったい死なせない!!


「うぉおおおおおおおおおお~ま~が~れぇぇぇぇぇ!!!」


『マキアス様~~!! 軌道が変わりました! やったさすが私のマキアス様!』


 上空を巨大な火の玉が弧を描いて海にむかっていく。

 凄まじい轟音と熱量だ。周囲にいたゴーレムが余波でドロドロに溶けつつ消滅していく。


『着弾まで5秒4秒3秒……』


「ぜぇぜぇぜぇ…なんとかまがった…」



『着弾』



 一瞬の静寂のあとに海の沖合から強烈な光が浜辺や港町を包み込み、凄まじい爆発音が沖合から飛んでくる。

 はるか上空まで爆炎が舞い上がり、地面が踊るように揺れまくる。


「ふひゃぁ…こりゃあ、凄まじいのぅ…」


 おじいさんが腰を抜かしたのも忘れて、大爆発する沖合を見て驚愕のため息をついた。


 少しずつ視界が回復していく。


「うわぁああ…あれ」


 沖合の大きな島がごっそりえぐられていた。小山の部分が吹っ飛んで、爆炎があがっている。


「ん?」


 地面の揺れがさらに激しくなりはじめた。

 なんだこれ? 前回はここまで長く揺れなかったぞ。


「な、なんか島が動いてるような? エレニア! あの島って!」


 島の端から山のような塊が現れた。顔!? 大きな口らしきものが開き、大音量でウォンウォン泣き叫んでいる。


『アイランドタートルですね…』


 アイランドタートルは、とてつもなく巨大な亀そのものだった。甲羅部分が島に見えていたのだが、僕の隕石が直撃してボロボロになっている。


「こりゃぁ、たまげたわい。沖に居座っていたアイランドタートルを追い払いよった…あんなもんを撃退できる人間がおるとわのぅ。」


 アイランドタートルは、その島の先端についている大きな目から滝のように涙を流しながら、海の彼方へ去っていった。


 僕は沖合からリーナ達の方に目を向けると、みんな口を開けて時間が止まったように固まっている。


 あ、1人騒いでいる男がいる。テッケンである。


「ひぃいい、ば、ばけものだ~アイランドタートルを追い返しやがぁたぁああああ~人間じゃ~ねぇ~」


「きゃっ! ちょっと、この男……!」


 リーナが、テッケンをみてドン引きしている。


 テッケンの股間が水浸しになっている。

 衝撃的すぎて、漏らしてしまったようだ。


「ひぃいい、ひぃいい、ひぇああ――――――!! ごめんらさい、ごめんさい、ごめさい~」


 テッケンは意味不明な奇声を発しながら、猛烈な勢いでダッシュして逃げて行った。

 僕はというと、もうほとんど体が動かない。隕石創成と軌道修正でほとんどの力を使い果たしてしまい、かろうじて立っている状態だ。


「マキアス~~~!!」


 リーナが、満面の笑みで僕にダイブしてきた。だめだ正面から抱き着かれたら色々あたってしまう! けどもう抱きついてきたリーナを支えるだけで精一杯だ。違うんです、不可抗力なんです。


「すごいわ! また助けてくれたのね! ありがとう!!」


 さらにリーナの締め付けが強くなる。

 もう凄い、ふくらみの感触凄い、僕の胸の前でバインバインしてるの凄い、なんかいい匂い凄い、いろんな凄いが一斉に襲い掛かってきて意識が飛びそう。


「ふぉふぉふぉ、ぼうずモテモテじゃなぁ、うらやましい奴じゃ」


 おじいさんがニヤニヤしながら僕を見ている…見てないで助けてください。「王女正面ばい~ん罪」とかで国外追放だけはいやだ。


 十分すぎるほどのリーナのバインバイン…じゃなくて、抱擁から解放された僕は、子供たちにお別れをして宿屋への帰路についた。

 あんな隕石落としておいてなんだけど、港町リマンでは目立ちたくないな…

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