第24話 港町の人に感謝されまくる
「英雄マキアス!」「英雄マキアス!」「英雄マキアス!」
なぜか僕らのいる宿屋は、港町リマンの住人に囲まれていた。囲まれていると言ってもなにか悪事を働いて包囲されているわけではない。
今朝がた、僕が落とした隕石が島のようにでかい怪物のアイランドタートルに直撃して、怪物は泣きながらどこかに行ってしまった。
「いやいやいや、もういいでしょう。みんなどこまで大げさなんだよ。こんなに騒がなくてもいいのに」
「何言ってるのよ、マキアス。あなたは誰にもできないことをやったのよ! もっと胸をはっていいの!」
リーナが両手に腰をあてて胸をはるポーズをする。勢いあまってすさまじく揺れている。バインバイン揺らすのやめなさい、仮にも王女なんだよ…
「そうですよ~、マキアスさんがアイランドタートルを退治してくれたおかげで、港の船が出航できるようになったんですよ~、英雄に決まっているじゃないですか~」
元大賢者おじいさんの孫娘であり、宿屋の受付嬢が興奮気味に窓の外で英雄コールをしている人だかりをみながら言う。
「しかし、これ凄い量の料理だな…」
僕らは夕食を宿屋で取っていたのだが港町の人たちがお礼といって、大量の料理を運んできたのだ。というか今もどんどん運びこまれて、もう宿屋の小さな食堂が食料倉庫みたいになりつつある。
「これもマキアスさんが港を解放してくれたおかげですね! みなさん海路の物流が再開するから、これからは物資の補給はできるし、料理ぐらいいくらでも作るっていてましたよ!」
「いや、まあそれはありがたいけど、今は内陸部は食糧不足なんだよ。こんなに無駄使いしていいのかな…」
「無駄なんかじゃないです! 明日への活力は大事ですよ~、活力がなきゃ流通はまわりませんよ~。さて、わたしもマキアス弁当の続きを仕込んできますね~」
「え? なにそれ! その恥ずかしいのなに!? 僕、何も聞いてませんけど!」
「ふふ、マキアスさんの偉業を知らしめるために私が余った食材でお弁当作ってみんなに配ってるんです~」
「ああ…なるほど、それはいい考えだね。でも弁当名だけは考えなおしてください! 今すぐにでも!」
「何いってんるんですか~町を救った英雄ですよ~今回は無料で配ってますけど、のちのちは有料にして我が宿名物のおみやげにしま~す。あ、そうだ。のちのちはマキアスさんの似顔絵を包み紙にしようと思ってるので~」
や、やめてくれ、そんな恥ずかしいものを港から各地にばらまかないで。
なんの罰ゲームなんですか。
しかしそんなぼくのささやかな抵抗も気にせず、孫娘さんはスキップしながら調理室に消えていった。
「もうこの町に来ることはできないかもしれない…」
「ふふ、マキアス楽しそうね」
僕ががっくりとうなだれていると、リーナがそのきれいな青い瞳を僕に向けて微笑かけてきた。リーナは王女のドレスではなく、旅人の服装をしているが、それはそれで凄まじく綺麗だ。透き通るような銀髪がさらに美人ぶりを倍増させている。
か、可愛い…
「えっと、マキアス…そんなにじっと見つめられたら私…」
「へ! あ、いや違うんだ、ちょっと考え事をしていて」
いかん、可愛すぎて思わず見とれてしまった。これは恥ずかしい…
「そうよね、マキアスだって色々あったものね。ごめんね私の事情で振り回しちゃって。マキアスは何かやりたいことあるの?」
「やりたいことか…」
リーナの問いかけは、追放されてからずっと僕が考えている問題でもある。
「そうだなぁ、色んな国に行ってみたいかな」
「え、それって?」
「冒険者にでもなって生計をたてつつ、色んな国に行って僕のスキルをみがこうと思ってる」
リーナの目を真っ直ぐにみて、僕は言葉を紡いだ。
「素敵よ、良いと思うわ。 私はマキアスのこと昔も今もずっと応援しているから」
そう言ってくれたリーナは、僕の手を取ってやさしく握りしめてくれた。
「ありがとう。外れスキルなんかじゃないって言えるように。どうせやるならスキル最強を目指すよ」
僕は外れスキルで追放されたけど、そのおかげでリーナと旅をすることができた。そして僕のスキルで彼女を救うことができたんだ。
「で、でもね…」
「ん? なんだい?」
「でもね…王都に着いてからも、ずっと一緒に…いてほし…いな…なんて…」
なんだか最後の方はよく聞き取れなかったけど、王都に無事に戻れるかを心配しているのだろう。そりゃそうだ。2度も暗殺者が送り込まれてきたのだから、不安になるのは当然だ。
「もちろんだよ!(必ず無事王都に送り届けるよ)」
「え? ま、マキアス、も、もちろんて…」
何故かリーナは顔を真っ赤にして、俯いてしまった。
『は~い、マキアス様。イチャイチャはそれぐらいにしてもらって、明日は出航ですよ』
突如として乱入してくるスキルプレートのエレニア。
スキルプレートの枠を超えた相変わらずの自由ぶりだ。
アイランドタートルを退治した際に町から謝礼金を渡したいという話がでたのだが、僕は断っていた。そのお金は物流の復旧に使ってほしい。資金に余裕がないのはわかっていたし、物流の回復が速ければその分食料不足の地域に物資が届くのが速くなるしね。
それでも、町としてはどうしても何かお礼をしないと気がすまないと迫られたので、明日の朝便で出航する船に乗せてもらうことにした。まあ結局は料理やら、馬車に載せる物資やら大量に町の人が持ってきはじめて、今の状態に至っているのだけど。
「とにかく、明日は目立たないようにして船に乗り込まないと」
僕はリーナを無事に王都に送り届けなければならない。迎えに来るであろう王都の騎士団は一向に現れる様子もない。
『といってもマキアス様、これで目立つなって方が無理がありますけどね』
「う……」
僕は言葉にならないうめき声を出して、窓の外をチラ見する。
「英雄マキアス!」「英雄マキアス!」「英雄マキアス!」
まだ、宿の周りに人がうじゃうじゃいる…英雄とか言ってるし…
もうお礼は十分なんです…これ以上は騒がないでくれ!
そんなマキアスの願いとはうらはらに、英雄コールは夜中までずっと続くのであった。
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