第10話 ゲイナス視点(マキアス父) 俺は優れた領主さま!

 マキアスを追放した父ゲイナスは、ルイガイア領主の館にてフードを被った1人の男と会話を交わしていた。


「情報によると、アクアスの施設を一撃で吹っ飛ばした魔法使いがいるらしい。そんな術者はそうそういない。おそらくはジャイアントロックを撃破した奴だろう。第1施設のアクアス工場を失ったのは大きな痛手だが、焼失したおかげで、証拠は残っていないことが唯一の救いだ」


「な、何が唯一の救いだ! 俺の工場を全部吹っ飛ばしやがって! クソ野郎がーーーーー!!」


 たんたんと話をするフードの男にイラついた俺は、持っていた愛剣で応接テーブルをぶった切りつつ絶叫した。


「ゲイナス殿、ほどほどにしろ。あまり騒ぎたてると、周りに感づかれるぞ」


「はぁはぁはぁ…やかましぃ! 俺が領主だ! 俺のテーブルをどうしようが貴様の知った事ではない! 俺は俺の好きなようにやるんだ!」 


 くそっ、また魔法か、面白くもない。あの施設に俺は莫大な出資をしてたんだぞ。まったく出資分を回収できていないではないか! すべてを無駄にしやがって、許さんぞ。絶対に許さんぞ! 相応の報いを受けさせてやる!


「話の続きだ。ということはリリローナ姫もそばにいるはずだ。まだそう遠くには移動していない可能性が高いだろう」


「まあ、俺に任せておけ」


「姫を仕留める算段があるのか?」


「当然だ、もっとも速い風の暗殺剣士を送り込む。あいつにかかれば、クソ野郎に魔法なぞ詠唱する間もあたえずに姫を切り殺すだろう。」


「ならば何も言うまい。あのお方に素晴らしい報告ができるよう作戦の成功を祈っておこう。わたしはこれから第2施設の視察があるのでこれでお邪魔する、「MSE」の製造を止めるわけにはいかんのでな」


 フードの男は俺の前から音もなく姿を消した。抜いたままの剣をみながら俺はひとり呟いた。


「ふん、アホが。優秀な俺がしくじるわけがないだろう。暗殺剣士には高い金を払ってるんだ。失敗など絶対に許さん」




 ◇◇◇




「ゲイナス様! 領内南部コルナ村にて害虫の発生あり! 村人より駆除の要望がでております。いかがいたしましょう?」


 領地内政官のピケットが俺の執務室に入ってくるなり、まくし立てるように言ってきた。


「ああ? 害虫ごときでなにを騒いでおる。そんなくだらんことは農民どもにやらせておけばいいではないか」


 おいおい、俺はいま大好きな我が領内産のワインを楽しんでる最中だぞ。こいつは、そんなくだらん報告と俺のワインの時間と、どっちが重要かもわからんのか?

 俺は、くだんらん報告をしてきたピケットを睨みつけながら、手元のワインを一気に飲み干した。


「しかし、放置しては南部の村々に大きな被害が出る可能性があります。村人たちでは対処は難しいかと、以前はマキアス様がゲイナス様のお手を煩わす前に、都度対応してくださいましたが…」


「ふん、マキアスだぁ? 追放されたやつの名前など口に出すな! あいつは我が栄光あるルイガイア家とは無関係のクズだ!」


「しかし…何かしら領主としての対応を領民にみせねばなりますまい…」


 そういえばマキアスの奴は、「虫を取りに行く」とか言ってよく訓練をサボってたような気がするな。虫の駆除など、あのマキアスにすらできるのだから、誰にでもできるではないか。

 あいつもそんなことをして無駄な時間を過ごしていたから外れスキルなんぞ与えられるのだ。あんな使えないやつは、さっさと追放して大正解だったな。


「あ~わかったわかった、では3等騎士たちを派遣しろ」


「ゲイナス様? 見習いの3等騎士ですか? 正規騎士の1等騎士か2等騎士を派遣すべきかと存じますが」


「おまえはアホなのか! たかが虫ごときに栄光の正規騎士の剣を汚せと言うのか! あんなものは半端の見習いどもで充分だ! 村人どもも泣いて喜ぶだろう」


「し、しかし3等騎士たちでは指揮を取る者がおりません、せめて指揮官だけでも1等騎士を派遣しないと…」


「なにを偉そうに指揮官だと? そんなものいるのか? ただの虫だぞ? まあいい、では我が息子ソクアを指揮官にして派遣しろ!」


「えぇぇ? そ、ソクア様ですか?」


 内政官のピケットが、少し顔を引きつらせて俺の言葉を確認した。どこにそんな顔をする必要があるのかまったくわからん。


「なんだ貴様? ソクア以外におるまい、【剣聖】のスキルを存分に試させる良い機会ではないか」


「い、いやしかし、ソクア様はまだ部隊を率いた経験が少なく、ここは経験豊富な第1騎士隊長のデミアスさまの方が…」


「はあ? お前脳みそ大丈夫か? ソクアは【剣聖】のスキルを持っているのだぞ! なにものよりも優れたスキルだぞ! それ以外になにか必要なのか?」


「は…、そのとおりではございますが、町や村での被害軽減のための避難誘導や救援活動など、ソクア様が学ばれていないことがたくさんございます。マキアス様もおられぬ今は、指揮官の人選は慎重にされた方がよろしいかと」


「ふははは。お前は【剣聖】というスキルがわかっておらんようだな」


「と、言いますと?」


「いいか、【剣聖】とはすべての剣の頂点に立つものが持つスキルだ。剣は全てにおいて優先される国の礎であり、剣の強さが人の強さなのだ。剣が強ければ、魔物など一蹴できるわ。救護やら避難やらはなにも持たないクズどもが仕方なくやることなのだ! あの外れスキル持ちのマキアスのようにな!」


「………」


 ピケットのやつめポカーンと口を開けおって、よほど俺の説明に衝撃をうけたようだな。まあ当然だろう、なにせ【剣聖】だからな。凡人にはこの思考は難しすぎたか。


 俺はピケットに害虫駆除の騎士派遣内容を指示すると、執務室から退出させて1人になった。


「ふふふ、やはり俺は優れた領主だな」


 お預けになっていた領内産ワインを楽しみつつ、素晴らしい俺の采配に満足感をおぼえた。

 そのワインも、害虫や魔物にきっちりと対応してこそ飲めるものなのだが、ゲイナスにとってはそんなことに興味はなかった。


 少しずつゲイナス(ルイガイア家)に暗雲が立ち始めていた。




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