第11話 王女と買物
「リーナ、とりあえずどの店から行こうか?」
「どこでもいいわよ! プイ!」
朝からよくわからない会話が繰り広げられているが、僕らはゲリナの商店街を歩いている。ポーション工場火事の翌日である。
僕の傷は昨日の夜には回復して、体調もすこぶる良い。本来ならすぐにでも王都に向かいたいところだが、旅路の物資を補給する必要があったので、商店街にて色々と買物をすることになったのだ。
「じゃあ、リーナの行きたい店から行こうか」
「じゃあ、服屋! プイ!」
どうせやるなら準備を万端にして、王都への旅を進めたいと僕は意気込んだのだが、ひとつ問題がおきた。というか起こっている。
「えっと、キレてます?」
「キレてないわよっ! プイ!」
リーナの機嫌が悪い、昨日から。それはもうすこぶる悪い。
キレてるわけではないらしいが、間違いなくご機嫌ななめだ。語尾にプイとかついてるし。
ご機嫌斜めになったのは、「なによ、女性隊長さんにデレデレしちゃって、助けてもらった雰囲気が台無しよ、マキアスのバカ、プイ!」
と昨日言われてからである。デレデレ?
よくわからないが僕の態度が良くなかったんだな、たぶん。
まぁ理由もわからず謝ってもリーナがよりプイプイしそうなので、ここは買物でリーナの機嫌を直してもらうように全力を尽くそう。
「どんな服がいいかな?」
「かわいい服! プイ!」
ぐっ…プイプイが止まらん。
ちなみに具体的な作戦はすでにある。さきほどから注意深く周りをみて気づいたことがある。一部の買い物客が、同じ行動を取っているのだ。
対象物の少しうしろにさがって荷物を持つ。対象物が購入するものには口出ししない。対象物に呼ばれた時は素早く動いて購入した荷物の回収。対象物の「これ似合う?」の問いかけには少し考えてから、肯定の返事。
うん、これだ! この行動は2人組の男女に多い傾向がある。
中央の通りに左右びっしりと並んでいるお店をみてリーナが早速1つの店舗前で足を止めた。
服飾関係の店舗だ。たしかにリーナの服は少ない。旅初めの街で買った服のみなので、変えの服も必要だろう。僕に服を選ぶセンスは皆無なので、少し後ろにて暖かく見守ろう。
と思たら、服ではなく髪留めを見ていた。
「マキアス、ちょっと来て」
お、リーナがお呼びだ、僕は素早く彼女の近くによる。
「これ、似合うかな?」
リーナは髪留めをつけたまま、僕の前でふわりと回ってみせた。
リボンをかたどった装飾のついた青の髪留めが、リーナの銀髪にとても合っている。
この質問もすでに予習済だ、周りの声を収集するに「いいんじゃない」「似合っているよ」的な言葉が多い、しかもあまり感情を込めずに―――
「か、可愛すぎる…」
うお! 速攻で思わず心の声がもれてしまった。感情ダダ洩れだ。なんか恥ずかしいぞこれ。
「え? そ、そう、可愛いんだ。そう、ならこれ買うね…」
リーナは俯いたまま、モジモジと小さな声でつぶやいたと思ったら、逃げるように会計をすませに行った。
『はぁ~情けない。マキアス様はど~んと構えていればいいのに、リーナに甘すぎますよ』
唐突にエレニア(スキルプレート)が僕に話しかけてきた。最近は僕がスキルプレートをひらかなくても勝手にひらいて話している気がする。
「え? そうかな?」
『そもそもマキアス様はリーナの機嫌が悪い本当の原因をわかっているのですか?』
「いやなんだろう? デレデレがどうとか言ってたかな? でも機嫌はよくなってきたようだよ」
『はあ…、まあほどほどにしてくださいね、自覚がないっておっそろしいわ…』
そう言って勝手にスキルプレートが閉じられた。自由だな、このスキルプレート…
その後も僕たちは買物を続けた。ポーション関係の商品も豊富にあったので、体力回復のポーションを多めに購入した。
「あ、そうだマーサたちの分も念のために買っておくか」
明日マーサたちと街をでる予定なのだ。マーサのコルナ村は王都への道中にある。
追手の危険があるので別行動も提案したが、マーサが泣いてしまったので村まで一緒にということになった。なぜかマーサは僕を気に入ってしまったようだ。
エレニアいわく、『2回もピンチを救ったイケメンですからね、マーサも女の子なんですよ』とか言ってたな。
よくわからないが人から必要とされるのは嬉しいことだ、うん。
さて、食料も購入し、これであらかた物資の購入は完了した。日も落ちそうな時刻だし、そろそろ宿に戻ろうかと考えていると、リーナが最後に寄りたい店があると言うのでついていく。
「うおっ!」
思わず声が漏れてしまった。おもいっきり下着屋だった…うん、たしかに必要なんだろうね。
う~ん、ど~したものか、これ。さすがに僕の収集データにも対処法がないぞ。少なくともリーナと一緒に下着屋に入るという選択肢はない。変態と思われてしまう可能性が高い。
「距離を置いて待機しかないか。うん、それしか考えつかない」
さて、あとは距離感の問題である。
これは通常よりもかなり距離をとって待機しなければならないぞ。王女のパンツを物色していたとバレれば、「王女強制下着着用罪」とかで国外追放確定だ。いやだ、国外追放だけは絶対に回避しなければ…その恐怖が僕の足を一歩一歩後退させる。
僕が変な汗をかいて顔を青くしていると、買い物を終えたリーナが下着店から出てきた。リーナがキョロキョロしている、気づいたら僕は10店舗ぐらい離れた場所にいた。
「しまった!」
国外追放を恐れすぎて距離を取りすぎた。これでは作戦の要である「対象物の荷物をすぐに回収」が達成できない。
焦った僕はとっさに【風力創成コード】を使用して、一瞬でリーナの傍に移動した。
「きゃっ! も、もうマキアスびっくりさせないでよ」
「ご、ごめん、荷物もつよ」
にしても随分と買ったんだな、結構な大きさの包をリーナから受け取る。
「マ、マキアスてどんなのが好きなのかなーて考えてたら、色々買っちゃった…な~んてね…」
リーナが顔を真っ赤にして、俯きながらすさまじく小さな声でモゴモゴ何かをつぶやいた。
ん? 僕の分も買ってくれたのか? ギリギリそう聞こえたような。やはりリーナは優しいな。
「そっか、リーナありがとう!」
「あ、ありがとうって… ま、マキアスそれはどういう…」
リーナの顔が真っ赤だぞ。まあ丸一日買物したので疲れたんだろう。王女だから普段町中で買物するということもあまり経験がないのかもしれないな、それは大変だったのだろう。
とりあえずリーナの語尾からプイは無くなった。機嫌はなおったようなので良かった。
物資もあらかた補給できたし、あすは早朝から出発する。
今のところ新たな襲撃者はあらわれてはいないが油断はできない。気合を入れなおした僕は宿屋に向かって歩き始めるのだった。
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