第6話 万物創成コード
「危ないところを助けて頂き、ありがとうございます。私はシーサと申します。この娘はマーサ、私の娘です」
彼女は深々と頭を下げて、僕たちに礼を言った。
「いえいえ、たまたま通りかかっただけですので、僕はマキアスです」
「マキアスさま? もしかして御領主さまの…あ、いえ、ありがとうございます」
シーサさんは言葉を詰まらせてしまったことに、ハッとした顔になって俯いた。
まあ、僕が追放された噂は領内でかなり広がっているようだ。気にしなくてもいいですよと、伝えようとすると、母親のうしろから小さな影がヒョコリと僕の前にあらわれる。
「お兄ちゃんとっても速いんだね! かっこいい! お母さんと私を助けてくれてありがとう!」
娘のマーサが屈託のない笑顔で僕にお礼を言ってくれた。やはり迂回しないで良かった。
2人は街に出稼ぎにきている父親を迎えに来る途中、悪党たちに絡まれたらしい。
僕らとマーサ親子は、彼女たちの父親がいるというゲリナの街に向かうことになった。どのみち街には寄る予定だったし、拘束した悪党たちも引き渡さないといけないしね。悪党たちは、揺れる馬車の荷台に詰めこんでいるが、全員気絶したままなので暴れることはないだろう。
「マキアス、私を助けくれたスキルって、新しく獲得したスキルなの?」
揺れる馬車の上で手綱を握る僕に、隣に座るリーナが話しかけてきた。
「そうだね、【風力創成】という新しいコードだよ。でもちょっと珍しい使い方をしたみたいなので、あんなに早く動けたんだ」
「たしかに、マキアスとんでもなく速かったものね、あれは魔法なのかしら?」
リーナの問いかけに僕も考え込んでしまった。そもそもコードってなんなんだろうか? 馬車も揺れるし、僕の脳みそも揺れて思考がまとまらない。
さらに馬車が揺れるたびに、リーナの膨らみがぶるぶるんしているのが気になりすぎて、コードどころではなくなりつつある。目のやり場に困るので僕を覗き込むのはやめてほしいんだが。
このままだと最悪、鼻血が出てしまうので、無理やりもう1人の女性? に話をふることにした。
「エレニア(スキルプレート)、聞きたかったんだけど…今いいかい?」
『はいは〜い、マキアス様〜エレニアですよ~。 どうしました? ワタシの声を聞きたくてしょうがなくなりました? それともチュッチュッしたいんですか〜まあ、大胆!』
「コードて、そもそも何なの? 魔法とは違うの?」
僕はチュッチュッうんぬんのくだりはスルーしつつ、本題についてエレニアに質問した。
『コードと魔法は似てますが本質は異なりますよ〜』
「似てるんだ」
『そうです、マキアス様この世界の全ての物は元素というものからできています』
「ふむふむ、元素ね」
『元素は様々な組み合わせによって、物質を形成します。例えば、マキアス様が発生させた隕石もそのひとつですよ〜。コードは物質を形成する計算式です。隕石創成コードは、元素を組み合わせて隕石を創成する計算式ってこになります。それがコードなんです~』
「計算式…?」
『う~ん、そうですね。【万物創成コード】を簡単に説明すると、石とか風などを作りだせるスキルです。マキアス様の体力や技量に応じて作れる量や大きさが変わります』
「なるほど! つまり色々使える魔法みたいなものだね」
『そうですね、ちなみに魔法は創成コードの劣化版のようなものです~。魔法を発動させる魔法陣はコードのような正確な計算式を展開できていません、例えば火の魔法にしても計算式が完全ではないので、100%元素を使用できてないんですね~コード操作で火を創成するよりはるかに効率が悪いのですよ』
「そうなのね、私マキアスのスキルは究極魔法みたいなものだと思ってた」
「…」
『リーナ、確かに魔法を極めればコードに多少近づくことはできるかもしれないわ、でも【万物創成コード】のように純粋に元素を操作することはできないの』
「魔法はコードを元に作られたものってことかしら? なぜコードを正しく使えないのかしら?」
「……」
『【万物創成コード】が生まれた時代は一部のコードは日常的に使用されていたわ。でも時がたつにつれて、コードを保存する技術がほとんど失われてしまったの、魔法のように不完全な計算式として一部はのこっているけどね~。あ~なんかエンジンかかってきた! もっとしゃべりまくるわよ~ペラペラペラ―――』
「………」
「あ、ちょっとまってエレニア、マキアスが…」
リーナが途中から会話に参加できなくなった僕を優しく揺らしてくれた。
『あ、マキアス様…、ごめんなさい。わたし久しぶりに話せたから嬉しくって…とにかく色々と経験を積んでいきましょう。一定の経験値を積めば自動的に使えるコードが付与されていきます。コードが増えればそれだけマキアス様の助けになることができますよ』
「とにかくすごいスキルだってことはわかったよエレニア! 僕のもとに来てくれてありがとう!」
『ふふ、私こそマキアス様に出会えてとても嬉しいですよ』
「ああ! 今後ともよろしく!」
『じゃあ! あとはチュッチュッするだけですね!』
「あ、それは大丈夫です」
そのくだり、まだ続いてたのか、だいぶ前にスルーした会話だけど。
「なにそのやり取り、ちょっとイライラするわ。私だって…チュ…なんでもないわ!」
なぜだかわからないが、リーナが頬を膨らましながら、僕をジト目で睨んでいた。
さて、そうこうするうちに街が見えてきた。
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