第5話 風力創成で風になる

「ねぇマキアス、そのスキルプレートに名前はあるの?」


 僕らは、リーナを王都に送り届けるため馬車にて移動している。もう少し行けばゲリナの街に着く予定である。


「スキルプレート、きみに名前はあるの?」


 僕はスキルプレートを表示させた。


『はいは~い! わたしのマキアス様! わたしの名前は「エレニア」です』


 ん? エレニア? どこかで聞いたことがあるような名前だな…、う~ん、なんだっけ? 思い出せないな。


「そっか、エレニアか。 無事にリーナを王都に送り届けるには君の力が必要だ。あらためてよろしくお願いするよ」


『もちろんです、マキアス様。わたしはあなたのために存在するスキルプレートです。身も心もすべて捧げます。きゃっ♡』


 いや、そこまで求めてないから大丈夫ですよエレニアさん。そもそもスキルプレートの身と心ってなんだ。


「僕だけでなく、リーナのこともよろしく頼むよ」


『はい、マキアス様。あなたのためにできうる限りのサポートを致します。あとリーナも』


「エレニア! よろしくね!」


『エレニア様でしょ? リーナ。 呼び捨てはマキアス様のみの特権です』


「そんなのおかしいわよ。だって仲間なんだもん」


「まあまあ、2人ともこれから一緒に行動するんだから、仲良くいこう」


 その後、なんだかんだ言いながらも、2人とも会話を重ねていた。まあエレニアは女の子設定(スキルプレートに性別があるのか不明)のようなので、リーナとも話が合うのかもしれない。

 たくさん会話をするということは、仲は良いということなのだろう。うん、そう思うことにしよう。




 ◇◇◇




 馬車を走らせていると、前方からガラの悪い怒鳴り声が聞こえてきた。


 馬車が止まっている。おそらく親子であろう30代ぐらいの女性と小さな女の子が、いかにもごろつきといった風貌の男4人に囲まれている。


 あまり目立ちたくないが、そうもいかないか。リーナはすでに親子の方に走り出しそうだし。


 僕はリーナの肩に手を置いて、そっと話しかけた。


「話を聞いてくるから、リーナはここにいて」


 リーナは静かに頷き、僕はそのまま男たちの前に進んだ。男たちは武器を携帯している。


「なにか問題でも起こりましたか?」


「た、助けてくださ…」


 母親らしき女性が声を出そうとするが、ごろつきの1人がその言葉を遮って割り込んできた。


「ああ? なんだてめぇ! 部外者がしゃしゃり出てくるんじゃねぇよ! 俺たちはまっとうな話し合いの最中なんだよぉ!」


「まっとうなね、どうみてもその親子は怯えているようにしかみえないぞ?」


「ああ? ん? おまえ? もしかして追放された領主の息子様じゃねえか? だよな? へへへ」


「だったらどうだと言うんだ、今は何の関係もない話だろう」


「いやいや、おおありだね。おれは外れスキルてのを一度みてみたかったのさ。追放されるほどのすげぇスキルなんだろ? なあ? みせてくれよ~へへへ」


「あにき~、あそこにすげぇべっぴんがいるぜ! これりゃたまんねぇよ!」


 別のとんがり頭が、後方に待機させたリーナを指さして、ニヤニヤしている。


「へ~、おまえ追放されたクズ野郎のクセに、いい女連れてるじゃねぇか。女を寄こせば見逃してやってもいいぜ~」


「何を言っているんだ。最後の警告だ、この場から立ち去れ」


「いひひっひ! おまえアホか? 追放外れスキル野郎なんかに俺様がビビるわけないだろが~」


 アニキと言われた男は、僕を舐め切った態度で挑発してきた。


『なによ、ぶ男! マキアス様は外れスキルなんかじゃないわよ! あとリーナをキモい目で見るんじゃないわよ!』


 このタイミングで会話割り込みですか、エレニア(スキルプレート)さん。でもちょっとカッコいいからよしとしよう。


「ああ? おまえ追放じゃなくてこの場で死にてぇのか! 急に女みたいな声出しやがって!」


『マキアス様、前回戦闘の経験値獲得により新しいコードが付与されています! もうこんな奴らさっさとやっちゃいましょう!』



 □-------------------------------


【万物創成コード】

 獲得した創成コードをコードポイントを消費して使用できる。


 使用可能コード


 ・「隕石創成」

 ☆空から石が飛んでくる


 ・「風力創成」

 ☆風をおこす


 □-------------------------------


 僕は新しいコードを確認した。「風力創成」コードか、どうやら風を作れるらしい。風魔法みたいなものかな。


「おい、女に逃げられちゃ面白くねぇ、おめぇのスキル【鉛玉】で足を痛めつけておけ」


「わかったぁ、アニキ~、ひひ~あの女~たまんねぇよ~あの膨らみ早くもみてぇ~スキル~【鉛玉】~」


 とんがり頭の手のひらから、複数の小さな黒い球がリーナに向けて高速で飛び出した。まずいリーナに当たる!!


「エレニア! 【風力創成】発動!」


『ふぇ! これって、ちょ、マキアスさ――――――ま』


 僕が一歩踏み出したとたんに、周りの景色がかわった。 

 エレニアが最後に変な声を出してた気もするが、凄まじい風の音しか聞こえなくなっていた。

 あれ? 後方にいたリーナが目のまえにいるぞ?? 振り向くと、とんがり頭の出した黒い弾丸がこちらに迫ってくるのがみえる。ずいぶんゆっくりと飛んできている。


 僕は剣をふるい、全ての弾丸をはじき落とした。


「リーナ! 大丈夫?」


「ま、マキアス! え? あ、うん大丈夫よ…って!! マキアスがいる!?」


「うん、正直僕も良くわからない、気づいたらリーナのそばにいたんだ。エレニアこれって…」


『マキアス様、推測ですがマキアス様自身に風力を発生させて超高速移動したようです。魔法でいえば付与効果のようなものですかね…本来は目標対象物にむけて放つものなんですけどね』


「ん? どういうこと?」


『えーと……簡単に説明すると、マキアス様は自分にスキルを発動させました。それでとても速く動けるようになりました』


「なるほど! そういうことか! ありがとうエレニア!」


『え? こんな説明すんなり受け入れるの? マキアス様…』


「よ~し、エレニア!【風力創成】! 速度アップ!」


 僕は男たちに向かって走り出した。

 再び周りの風景がかわりはじめる。


 ―――――――と思ったら、男たちの目の前にいた。


「「「「「うお!!」」」」」


 男4人と僕の声が響き渡る。


 1歩が早すぎて感覚がまだつかめない。

 けどすごい!! 風になったようだ!!


「な、なんだおまえ。外れスキルって消えるスキルのことか? ま、まあいい、こいつは追放された出来損ないだ! おまえら遠慮なくやっちまえ」


 男たちが一斉に飛び掛かってくる。僕は【風力創成】を再度発動した。


『マキアス様! 速度を調整して!』


 地を蹴ると、再び凄い速度で体が動いた。が、今度はなんとか感覚がついてきている。力のかけ具合である程度の速度調整ができるぞ! これで剣もふるえそうだ。


「これならなんとかいけそうだ!」


 ぼくは、一瞬で間合いを詰めて、目にも止まらぬ速度で剣をふるった。高速の斬撃が連続で放たれる。


 あっという間に、3人の男が後方に吹っ飛んでいった。


「は、外れスキルは闇魔法だ! 1人づつ消されていくんだ! あ、悪魔のスキル…」


 アニキと言われた男もその言葉を最後に、わけもわからず吹っ飛ばされていった。


 僕は【風力創成】を解除して、通常の風景に戻ったことで、一息ついた。


「エレニア、まえの隕石もとんでもないけど、このスキルもすごいよ」


『え、ええ…長年補助スキルとして生きてきましたが、マキアス様のような使い方をした人は初めてですけどね…マキアス様ならもしかしたらコードを…』


 エレニアが何か言おうとしていたが、後ろから聞こえた叫び声にかき消された。


「マキアス~!! 大丈夫~!!」


 リーナが後ろから飛びついてきたのだ、無事なようで僕はほっとした。


「ああ、僕は大丈夫っ…くっ…」


 あれ? 急に体が重くなった、体の節々が痛い。僕は思わず片膝を地面についた。けっしてばい~んと飛びついてきたリーナの膨らみが重くて膝をついたわけではない。


『マキアス様、ずいぶんと全力疾走しましたからね、慣れない体にスキルを付与して相当な負荷がかかっているはずです。 リーナ! はやくマキアス様からその無駄にでかいものどけなさい!』


 しぶしぶ僕から離れたリーナの【光の加護】にて回復した僕は、なんとか歩けるようになった。節々はまだ痛いけど。


「マキアスありがとう。また助けてくれたね。すっごく速かったよ」


 リーナの屈託のない笑顔が僕の節々の痛みを和らげてくれた。

【風力創成】か。長時間の使用は現状難しいけど、ピンポイントで使用するなら強力な武器になる。


 何よりも人生であんなに速く動けたことはない。【万物創成コード】は外れスキルなんかじゃない。僕は改めて確信した。


 とりあえず、僕たちはごろつきに絡まれていた親子のもとに向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る