第4話 王女としゃべるスキルプレート

 リーナと宿屋に1泊した翌日。

 僕はリーナの絹を裂くような悲鳴で目覚めた。しまった襲撃か!? 

 くそ! 油断しすぎた、もっと気を張るべきだったんだ!


 ―――と思ったが、違った。


 悲鳴の原因は僕の顔が血まみれだったからだ。もちろん襲撃されて血まみれになったわけではない。昨晩たれ流しまくった鼻血である。

 しまった~、リーナより早く起きて顔を洗うつもりだったのに……


 僕は必死になって、リーナに説明した。最終的に「夜中にベッドから落ちて顔面打撲しました」ということで、どうにか彼女も落ち着いてくれた。

 はぁ~よかった、王族鼻血侮辱罪とかで国外追放にならなくて、すでに領地追放されているのに合わせ技の追放なんてシャレにならん。


「マキアスこっちを向いて」


 リーナは僕の顔に手を添えて回復魔法であるヒールをかけてくれた。リーナの回復魔法は【光の加護】を使用することで通常の回復魔法より高い効果を得ることができる。

 まあ本当は、ただの鼻血なので【光の加護】どころか通常回復魔法すらいらないんだけどね、ティッシュ詰めとけばいいんだけどね。でも鼻血がでた理由は死んでも言えないので、素直に回復させてもらう。


「どう? 傷は痛まない? もっとヒールかけようか?」


 リーナの顔がどんどん近づいてくる、やめてくれまた顔面打撲の言い訳が必要になる~。


「も、もう大丈夫だよ、あ、ありがとう」


 僕は速攻でリーナの申し出を断った、これ以上僕の鼻血の治療に高貴なスキルを使わせるわけにはいかない。女神さまお許しください。あなたが王女に授けしスキル使用第1号は僕の鼻血でした………




 ◇◇◇




 僕らは宿屋を出て、馬車にて王都への街道を進んでいた。ちなみに馬車を借りるのかと思ったらリーナは街の商人から言い値で買い取ってしまった。さすが王族、僕にはそんな大人買いできない…


 街を出る前にリーナは王城に伝書を送っていた。表向きは王城で働く使用人へ家族が送ったものにしてある。どうやら緊急時の連絡方法の1つらしい。これで街道を進んでいけば、王都の騎士たちがどこかで僕らと合流できるはずだ。


 馬車に揺られながら、僕はふと気づいた。なんだか自分の心が昨日よりも軽いことに。もちろん現状は楽観視できるものではないし、気を緩めていいわけでもない。だけど心のなにかが癒されている気がする。

 追放された僕だけど、彼女の役に立ちたいという気持ちが強くなった。リーナを襲った奴の正体も気になるけど、いまは彼女を王都に送り届けることに集中しよう。僕は密かに闘志を燃やして、馬車の手綱を強く握りしめた。


「ところでマキアスのスキルは、昨日みた燃える石を落とすスキルなのかしら?」


 銀髪の美女リーナが、僕に話しかけてきた。


「いや、あれは僕のスキル【万物創成コード】の一部みたいなんだ」


 僕はスキルプレートをリーナに見えるように表示する。


 □-------------------------------


【万物創成コード】


 使用可能コード

「隕石創成」

 ☆空から石が飛んでくる

 ・ 宇宙空間に小天体を創成。

 ・「石の調整」により大気圏突入後の隕石の目標設定が可能。


 □-------------------------------


「僕が使用できるのは、この「隕石創成」というスキルだね」


『は~い! おっしゃるとおりです~、マキアス様~、今後は経験を積むことにより新たな使用可能コードが追加されますよ! やったね!』


 スキルプレートが勝手にしゃべり出した。もはや僕の意思は関係ないらしい。

 しかし、先が気になるので、僕はそのまま話を続けた。 


「なるほど、経験値を得ると使用できるコードが増えていくってことだね?」


『はいご名答! 単純に敵を倒す他にもコードを使用するなどでも経験値はたまります。楽しみですね~! ワクワク!』


 スキルプレートの軽めのノリが若干気になるが、なるほど、コードが増えればスキルが増えるようなものだ、もしかしたらこれはとんでもないチートスキルかもしれない。なぜらなら、1人が持つスキルは、基本1つとされているからだ。


『ちなみに、隕石の大きさは宇宙空間で創成する時間が多いほど大きくなります。昨日は創成してすぐに落下させたので、たいした威力はありませんでしたね』


「え? 昨日のとんでもない威力だったんですけど…」


 これはヤバい…想像のはるか上をいく超強力なスキルなのかもしれない。昨日のような隕石ばかり降らすわけにもいかないし。スキルの使いどころを見極めないといけないぞ。


「まてよ? 礼拝堂の時は小石がぽつんと降ってきただけだったけど?」


『マキアス様! あれは失敗しました! ごめんなさい! てへ』


 スキルプレートが元気よくとんでもないことを言った。


「ええぇええええ! そ、そうなんだ…失敗…なんだ」


『だって、久しぶりだったから、すぐに本調子にならなくて…あと周りに人もいっぱいいて…その…緊張してたんです!』


「そ、そうか、ごめん君も頑張ってくれたんだね、大丈夫だよ、ありがとう」


 スキルプレートに調子があるのかはさておき、その緊張のおかげで礼拝堂の人たちを消滅させなくてすんだんだ、ジャイアントロックを蒸発させた威力の隕石が礼拝堂に落ちてたら大惨事になるとこだった。


『ま、マキアス様って、すっごく優しい!! 惚れちゃいます!』


 なんてスキルプレートと話していると横からリーナが凄い勢いで割り込んでくる。


「ちょ、ちょっとマキアス! それ喋ってるわよ! なんでスキルプレートがしゃべるの?」


「そうなんだ、やっぱり普通は喋らないよね。なぜか僕のプレートはしゃべるんだよね……」


 リーナが興味深く僕のスキルプレートをのぞき込む。いや、顔近いですよ! 王女様! リーナの髪からほのかにかおる何とも言えない匂いにドキリとする。また鼻血でるからやめてほしい。


『なんですか? あなたは? マキアス様と話をしているのは私です、邪魔をせずに口を閉じていなさい、あとそのでかい胸じゃま』


 僕は一瞬で王女の良き匂いの世界から叩き戻された。

 何言ってるの? このスキルプレート? なんで王女にケンカ売ってるの? ていうか今までのフレンドリーな感じどこいったの?


「ねえ~マキアス、このプレートお茶面なところもあるのね、面白い~ふふふ」

 血管が若干浮き上がりそうな、怖い笑みを浮かべながら頬が引きつっているリーナをみて僕は高速でフォローをいれる。


「そ、そうなんだ、プレートもリーナを前にして緊張しているんだよ、ちょっと言葉のチョイスを間違えたというか、ほらリーナ王女様だし。いきなり話しかけられたら誰でもドキドキしちゃうよ」

「そっか、初対面だしね。プレートさん私はリーナよ王女とか気にしなくていいから、よろしくね」


 ふ~、なんとか収まりそうだな、これ心臓に悪いぞ。


『なんですか、馴れ馴れしい。王女といっても、数ある国のなかの1国の王女程度でしょう、しかも第三でしょ、だいさん、三番手! 見た目もわたしの方が数段うえ……』



 僕は速攻でスキルプレートを閉じた。



「きょ、今日はすこし調子わるいというか、色々不具合があるみたいだよ。うん。」


 よし、とにかく違う話題にしよう。にしても最近僕の精神ゲージの振れ幅が激しすぎる。




 ◇◇◇




 ゲイナス(マキアス父)視点



 ルイガイア領主の館、マキアスが生まれ育った館の一室にてマキアスの父ゲイナスとフードを被った1人の男が静かに会話を交わしていた。


「おい、貴様の部下もたいしたことないな、姫1人始末できんとは。」

「まさか召喚したジャイアントロックを撃退するとは、想定外だ。姫1人ではとうてい不可能だな、おそらくは協力者がいる。恐ろしく腕の立つ魔法使いがな」


「ふん、魔法か。まあいい、すご腕だろうがなんだろうが、魔法を使用する前に剣で始末すればいいのだろう」

「できるのか? 強敵だぞ」


「当然だ、貴様は発掘現場でおとなしく作業でもしていればいい。あのお方の依頼だからな確実に始末してやる」


 部屋の窓から、屋外練習場で見習い騎士に容赦なく【剣聖】のスキルを連発して高笑いするソクアがみえる。


「うっひょ~! すげぇぞこの力! 俺はここまでの力を得たんだ、これならリリローナも俺のものになるはずだぜ! ひやっはぁあああ!!」


 ククク、「剣聖」か…たしかに凄まじい優良スキルだな。外れスキルのマキアスを追放したのは我ながら最良の策だったな、最善の判断を即時実行する、わしのような者こそ人の上に立つにふさわしい人物なのだ。

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