第3話 王女に頼られる
「マキアス! 無事で良かった。ありがとう!」
ちなみに僕はいまリリローナに背後から抱き着かれている、しかもどんどん抱きしめる力が強くなる。それとともに、背中にやわらかい膨らみが押し付けられてる…。
僕の背中の件はいったん置いておくとして、たしかにジャイアントロックに1人で立ち向かうのは無謀だったかもしれない。でもあの時はすぐに覚悟もできたし、何よりも自然と体が動いた。
「それにしても、あの空から降ってきた大きな火の玉はなに? あれがマキアスのスキルなの?」
「はい、姫様。どうやらそのようです。空から石が降ってくるスキルのようです」
「マキアス?」
「礼拝堂で発動したスキルが、先ほどのスキルなのです」
リリローナは僕から離れて、向き合った。
「敬語はいらないから。昔のように話して」
「え? はい。いや…しかし仮にも王女様に」
僕の返答にリリローナが子供のようにすねた表情をする。
「わかったよ、さっきのが僕のスキルだよ、まだまだわからないことは多いけどね」
リリローナは笑顔でよしと頷いた。
こうして彼女と2人で話すのも久しぶりだけど、変わらないな。
「にしても、とんでもない威力ねマキアスのスキル。最上級の魔法使いでもここまでのことができるかしら」
「そ、そうだね……」
目の前に広がる大穴からはいまだに熱い煙がたくさん出ており、ジャイアントロックの破片すら見当たらない。どうやら全部溶けて消滅してしまったようだ。本当に凄まじすぎる威力だ、これは滅多に使えるものではないな……。
でもこれではっきりした。僕のスキルは外れなんかじゃないんだ。リリローナも救えたし、とにかく女神さまは僕を見捨てたわけではないらしいな。良かった。僕は少し心が楽になったような気がした。
リリローナの護衛騎士は残念ながら全員すでにこと切れていた。
最後までリリローナを守り通そうとした騎士たちに彼女は片膝をついて黙とうしている。僕も直立の姿勢で黙とうした。
彼らの死は決して無駄ではない、彼らが踏ん張ったからこそ僕が間に合ったのだから。
「それにしても、なぜジャイアントロックのような魔物がこの森にいたんだろう?」
「そのことだけどマキアス―――たぶん、誰かが操っていたんじゃないかと思うの。オオカミのような魔物に襲われる直前に魔法詠唱の声が聞こえたのよ。おそらく魔物を召喚する魔法だと思うわ」
「え? てことは襲われたのは偶然ではないということ?」
リリローナは僕が追放されたあと、僕を探しに追ってきたのだという。彼女はその道中で襲われた。
ジャイアントロックを召喚できる程の使い手だとすれば、相当な実力者の可能性が高い。彼女には犯人に心当たりはないとのことだし、僕にもわかるわけもない。
「マキアス、お願いがあるの。私を王都まで送ってほしいの」
リリローナは僕の手をとって、その小さく綺麗な手を重ねてきた。すこし手が震えているのが感じられる。
「でも、王城に連絡を取って騎士団にきてもらったほうが安全なんじゃない? もしくは父上にいったん保護してもらうか…」
僕は追放されたけど、リリローナは関係ないし父上も快く保護してくれるだろう。僕としてはあまり戻りたくはないけど…
「いえ、あなたの屋敷に戻るなんてもってのほかよ! 私マキアスが追放だなんて絶対に納得できないわ! あなたは王国にとって必要な人なの! あと…その…私にとっても…」
「リリローナ…」
鬼気迫る勢いで話す彼女の言葉に驚くとともに、彼女がここまで僕のことを気にかけてくれていることが、素直に嬉しい。最後の方はよく聞き取れなったけど。
だが、そのために彼女を危険な目に巻き込んだ可能性もあることに僕は自分の拳を強く握りしめつつ覚悟を決めた。
「わかった、僕が必ず君を王都へ送り届けるよ。約束する」
「ありがとうマキアス…」
リリローナはその美しい瞳を若干潤ませながら、僕の手を強く握りしめた。
いずれにせよこの場は早く移動した方が良さそうだ。王都への街道を進めばいつかはリリローナを迎えに来た騎士団にも合流できるはずだ。僕らは最寄りの町に行って今後の対策を練ることにした。
◇◇◇
僕たちは最寄りの町にある宿屋に部屋を取った。今日は2人とも疲れ切っているということで、今後についての話もそこそこに、食事も済ませて寝る準備をしている。
「リーナ、入るよ開けていい?」
「いいわよ」
お風呂からもどった僕は部屋の扉をあける。
ベッドには、綺麗な琥珀色の瞳に透き通るような銀髪の美人が座っていた。宿屋で借りた寝間着がやけに薄くて、締まったウエストのラインが浮かび上がり、2つの膨らみが薄い生地から零れ落ちそうになっている。
ちなみにリリローナだと王女バレバレなので、『リーナ』という偽名を使うことにしている。
まあ銀髪とか容姿とかバレバレの要素は満載だが、明日からドレスではなく旅人風の服を着るのでなんとかなるだろう。
というよりも問題はそんなことではなかった。
なぜか僕はリーナと同じ部屋で、しかも同じベッドで寝ることになった。
宿屋に入ると、リーナが率先して受付を済ませたのだ。
たしかに僕の顔を知る者がこの町にもいるかもしれない、追放された領主の息子である僕の…。リーナが気を使ってくれたのだろう。なんて優しいんだろうか。
そんな優しいリーナだがなぜか部屋を1つしか取らなかった、もちろんベッドも1つしかない。もちろん理由を聞いたが、今日は宿泊客が多く1部屋しか空いてないとのことだった。
今のところ誰一人宿泊客を見ていないような気もするが、僕らが着いたのが遅かったのでもう寝てしまったのだろう。
しかしだ、仮にもリーナは第三王女だ、お姫様なのですよ。いくらなんでも一緒のベッドはまずいでしょ。
「リーナ、やっぱり僕は床で寝るよ」
「マキアス何言ってるのよ、王都までの道のりは遠いのよ。常に万全のコンディションにしないと持たないわよ。ましてやあなたはあれだけの戦闘をしたわけだし……そ、その私のために……」
最後の方はモゴモゴとよく聞こえなかったが、やはりまずいでしょ。
「いや、でもねリーナ」
「マキアス! これは刺客対策でもあるのよ。万一に備えてできる限りわたしの近くにいてほしいの、だめ?」
同室という状況だけで近い気がするけど……。
ここまで言われては嫌とも言えなくなってしまった。僕は覚悟を決めてベッドにはいる。
リーナの方に顔を向けると、このスレンダーな体には不釣り合いな2つの膨らみに視線がいく、薄手の寝間着なので破壊力が半端ない。
僕は高速で反対を向いたが、時すでに遅く僕の左の鼻から赤い液体が出ていた。これはまずい。絶対にリーナの方には向けない。
「マキアス、こっち向いてくれないのね……」
向けません! こんな鼻血野郎を王女にみせるわけにはいかない! 王族侮辱罪とかで実家どころから国から追放されかねない!
「ぐ~ぐ~」
最終手段として寝たふりのスキルを発動する。もうこれしかない。国外追放はいやだ。
「寝ちゃったのね……命がけで戦ってくれたんだものね、おやすみマキアス」
そういいながらリーナはなぜか僕の背中に密着して寝息をたてはじめた。
う、右の鼻からも赤い液体が流れ出る。
いやいや、こんなんで寝ろというほうが無理ありません?
などとぼやきながら、僕は本日2回目のやわらかいなにかを背中に感じながら、必死に目をつぶったのだった。
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