第2話 空から石が降ってきた

 実家を追放された僕は頭の中が真っ白になって歩いていた。


 すでに僕が外れスキルを付与されて追放された噂が広まっているようで、途中に立ち寄る町の人たちが僕に向ける視線がとても痛い。


 僕が生まれ育ったルイガイア領、父上の厳しい剣術指導、騎士団との訓練、領内にときおり出没する魔物討伐など色々な思い出がよみがえってはすべて消えていく。

 領内のみんなも、僕に未来への期待と憧れの目を向けてくれていた。

 それが、いまや人々の痛い視線ばかりに一変した。


 色々思うところはあるけど、この土地にはいられない。そう思い、陽の落ちる頃には街を出ることにした僕は、あてもなく街道を歩き続けた。


 とそのとき


「キャァァァアアア!!」


 街道の前方から聞き覚えのある女性の悲鳴が聞こえた。

 僕はとっさに、全力で悲鳴のもとへ走り出す。


 転倒した馬車がみえる。悲鳴の主はオオカミのような魔物に襲われているようだ、転倒した馬車の上に1人の女性がいる。


「あれは……やはりリリローナ!?」


 馬車の上にはこの国の第三王女リリローナがいた。護衛らしき騎士数人はすでに地面に倒れている。


「マ、マキアス!! あなたなのね!」


 リリローナが全力疾走する僕に気づいたようだ、彼女は無傷なようだが窮地に違いはない。


「まずい、早く助けないと!」


 僕は抜刀しつつ、リリローナを取り囲む魔物に鋭い斬撃を放つ。

 外れスキルもちの僕だけど、通常剣技は熟練騎士にも引けを取らない。なにせ父上に毎日しごかれていたから、未来の領主として……


 魔物を一掃した僕がリリローナのもとに向かおうとした瞬間だった。

 大地が凄まじいうねり声をあげて、前方の地面がどんどん盛り上がっていく。とんでもない大きさのゴーレムが姿をあらわした。


「マキアス! この魔物なに!?」


 後ろからリリローナの叫び声が飛んできた、とにかく無事で良かった。


 ―――だけど、こいつをなんとかしないと。


 目のまえにそびえ立つ山のようなゴーレムを見上げながら僕は覚悟を決めた。

 こいつはたしか『ジャイアントロック』ゴーレムの上位種だ。大型であり、破壊力防御力は通常ゴーレムの比ではない。


「ゴモォォォォォォォォォ!」


 ジャイアントロックが巨大な右手を振り下ろしてくる。すごい風圧とともに地面が揺れる。

 僕は持ち前のスピードとフットワークでなんとか攻撃を回避する、あんなのまともに食らったら跡形も残らないだろう。


 ただし大型ゆえに素早い動きは苦手であるようで、一撃一撃のモーションが大振りだった。

 僕はその隙をついて、ジャイアントロックの懐にもぐりこんで、足元に渾身の一撃を叩き込む。


 が、全くダメージを与えられなかった。剣先が刃こぼれしている。


 だめだ、こんなの僕の剣技でどうこうなる相手じゃない! こうなったらリリローナを抱えて全力で逃げるしか……


『報告、宇宙空間に隕石創成が可能です』


 突然どこからともなく、声が聞こえてきた。


「え? だれ……?」


 いつのまにか僕の目の前にスキルプレートが表示されている。

 な、なにこれ、スキルプレートが喋った!?


『はい、マキアス様。わたしは【万物創成コード】の補助スキルです。ピンチですよね? 【隕石創成】を使用しますか? ていうか使用するしかないですよね! ね! ね! ね!』


 僕の混乱を他所にスキルプレートが勝手にどんどん会話を続ける。てかどんだけ押してくるんだ。


『マキアス様! 大丈夫! 私を信じて! さあ! さあ!』


 なんだかわからん! そもそも私って誰だ? けどやれることをやるしかない! こうなったら自分のスキルを信じる!


「よし! 【隕石創成】発動!」


『了解、宇宙空間に隕石創成を開始します』


「ゴモォォォォォォォォォ!」


 スキルプレートとのやり取りをしているさなかにも、ジャイアントロックの巨大な腕がブンブン振り下ろされてくる。

 僕は間一髪のところで、回避を繰り返す。


『隕石創成完了、隕石の大気圏突入を確認。60秒後に着弾します』


 タイキケン? トツニュウ? なんの魔法だこれ? スキルプレートが何言ってるのかわからん! もっと魔法の授業をちゃんと聞いておけば良かった……


『マキアス様! いったんゴーレムから距離をとって!』


 スキルプレートに言われるがままに、僕は素早くジャイアントロックから距離をとる。



 ―――ん? なんか上から地鳴りのような音が聞こえてくる…



「マキアス! 上を見て! 空がおかしいわ!」


 リリローナの叫び声に僕は空を見上げた。



「うお! な、なんか空が焼けるように赤いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「スキルプレート! あれなんなの!?」



『あれは、マキアス様が発動した【隕石創成】の隕石です。補助スキル「石の調整」で目標を指定してください』


 スキルプレートは僕に指示をあおいできた。


「あれがインセキ? ていうかそもそもインセキてなに? って目標?」


『はい、石を当てる目標です』


 訳が分からないが、こうなったらやけくそだ。僕は大声で目標を指定する。


「目標は前方のジャイアントロックだ!!」


『了解、目標捕捉しました、着弾まで5秒4秒3秒……』


 頭上に凄まじい轟音を立てながら火の玉が飛んでくる。滅茶苦茶に熱い。


『着弾』


 前方に眩い光が見えたあとに、凄まじい爆発音とともに地面が揺れまくる。

 爆炎が空高く舞い上がった。


 ほどなくして、視界が回復するとそこにはジャイアントロックはいなかった。

 かわりに凄まじい大穴があいていた。ジャイアントロックがいたと思われる場所に。


「す、すごすぎる……、なにこのスキル……」


『目標の消失を確認しました』


 とんでもないスキルだぞこれ…僕は【万物創成コード】のスキルプレートを改めて見た。


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【万物創成コード】


 使用可能コード


「隕石創成」

 ☆空から石が飛んでくる

 ・ 宇宙空間に小天体を創成。

 ・「石の調整」により大気圏突入後の隕石の目標設定が可能。


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 う~ん、よくわからない単語が多い……。 とにかくこの場は解決したからよしとしよう!

 スキルプレートはおいおい理解していくとして―――


「マキアス~~~!」


 リリローナが僕の背後から勢いよく抱きついてきた。ばい~んと。

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